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続き。
さて、今回は誰の人物紹介を……?
「そうですねえ。善人の順ということなので……。今回は定吉と亀蔵ですかね」
え、定吉はともかくとして、亀蔵をこんなに早く紹介しちゃうんですか?
「ええ。あいつって悪人かなあ」
うわあ……うわあ……。
「なにドン引きしているんですか。紹介を始めましょうよ」
ああはい。まずは主人公次郎吉のお父上である定吉さんですが。
「ああ、この人は一応史実に伝わる通りのイメージで書いています。中村座の便利屋としてずっと務めていたという資料が残っており、それをそのまま援用してます」
なんで次郎吉さん、親父さんの跡を継がなかったんですかね?
「んー。たぶんそれほど仕事がなかったというのが正直なところだと思います。それに、芝居というのは当時はあまりステータスの高い仕事ではなく、次郎吉がそれを嫌った可能性もありますね。まあ、この辺のことは謎としか言いようがありません」
このお話唯一の良心、ですよね?
「いや、彼は彼である犯罪に目を背けてみなかったふりをしているわけで、限りなく善人ではありますが、やっぱり悪い面も出ちゃってますよね」
でも、これはある意味しょうがない悪ですよね。
「まあ、しょうがなくない悪ってあるのか? というのが本作のテーマでもあるわけでして」
なるほど。
では次に、亀蔵に移りますが……。
「わたしはこの人、わりと偽悪的な人だと思うんですよ」
え、そうなんですか?
「ええ。善なるものを知悉しているがゆえに、悪を取材する瓦版師になって世間を扇動しているわけですからね。そして、(以下文字色反転)悪人でしかない次郎吉を善玉に読み替えて世間に放つなんざは、もう確信犯もいいところでしょう(文字色反転ここまで)。そういうことができるのは、悪と悪ならざるものの境目がしっかりわかっている人だけですよ」
なるほど……。
「そういう意味で、本作において一番作者とスタンスが近いのはこの亀蔵です」
そーなの!?
でもあれか、谷津さん、けっこうアクが強いよね……。
「否定はしない。っていうか、亀蔵の人物造形だけは悩まずにできたという自信があるよ!」
そうなのか……。
続く。
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観察日記
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前回が世界観設定でしたから、今回は登場人物紹介ですね!
まずは誰から……?
「まずは七兵衛から行きましょうか」
来ましたね、仁医の七兵衛!
「実はこいつにはモデルがいます。武州青梅宿を根城にしていた泥棒で、裏宿七兵衛という男が居ました。この人がモデルです」
たしか、中里介山先生の「大菩薩峠」にも登場する義賊ですよね?
あれ、でも確か、裏宿七兵衛って、時代が微妙に違いませんか?
「いえ、ちょっとどころか百年違います」
えええええ、なんだってー!!
「本書でも微妙に語っていますが、本作に出てくる裏宿七兵衛は二代目という設定です。というのも、史料によれば(以下文字色反転)泥棒七兵衛が捕まった時、奥さん子供は実家に帰されたそうなので、七兵衛にも子孫がいたと思われるんですね(反転ここまで)。ということは、その子孫が居ても不思議じゃないですよね」
でも、裏宿七兵衛というのは義賊……なんですよね?
「後世ではその扱いですが、同時代的にはどうだったでしょうねえ」
え。
「いえ、裏宿七兵衛は中里先生の『大菩薩峠』のおかげで義賊イメージの強い人物なのですが、正直史料が残っていないんです。また、彼の供養が始まったと史料上確認できるのは彼の死から100年余り……。そう、ちょうど鼠小僧が活躍した時代です」
ってことはもしかして。
「いろんな解釈ができると思います。けれど、そういう事実から生れたのが七兵衛というキャラクターです」
ときに、医者設定はどこから……?
「ええ、これも青梅の偉人とされている人で、足立休哲さんというお医者さんが居まして、この人のイメージが混じっています。この足立さん、江戸時代中期の人なんですが、アオカビを使って傷の治療を行っていたという伝説の持ち主です」
アオカビ…? それってもしかして、ペニシリン!?
「まあもちろん、これも後出しじゃんけんの可能性もありますが、いずれにしても、そんな伝説が青梅にはあるよ、ということでご理解ください」
しかし、本作における七兵衛、悪辣すぎやしませんかいろいろと。
「そりゃあもう。本作における重要なモチーフは、『実像と虚像』ですから。虚像が実像を作り上げてしまったり、そうかと思えば実像が虚像に何の影響も与えていなかったり……、というのが本書なので、そういう意味でも七兵衛を最初に紹介した甲斐があるというものです」
それは一体どういう……?
「まあそれはおいおい。けど、このお話の中での悪人度は一番低い気がするんですよ彼。一応バランスをとっているじゃないですか、彼の中で。そういう意味では、彼が一番まともかもしれない」
ああ……。確かにそうかも……。
次回に続く。
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はい、いつもの種明かし企画でーす。
「おい、雑だな!」
まあまあ。どうせ谷津さんの能書きが長くなるんですから、前置きは短いほうがいいに決まってますよ。
「能書きとか言わんといて、言わんといて!」
能書きでしかあるまいて……。
ピンポンパンポーン。補足です。いつも谷津さんは刊行したテクストの種明かしをこちらでやっております。お暇なら見てよね!補足終わり。ピンポンパンポーン。
「説明乙」
はい、では、行ってみよー!
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さて、第一回目はいつも世界観についてとか、コンセプトについて説明してますよね。
まず、今回のテクスト「しゃらくせえ鼠小僧伝」の世界観とかコンセプトについてうかがおうではないか。
「そうですねえ。まず、『しゃらくせえ鼠小僧伝』の時代設定についてお話しなくてはなりますまい。この時代は、天明年間です」
いつ頃ですか?
「明治初年から数えて三十年位前ということになるでしょうか」
たった三十年!?
「そうですよ。たとえば幕末の有名人である沖田総司さんなどもこの天保の生まれです。ちなみに、この当時北町奉行をしていたのが、遠山の金さんこと遠山景元です」
ええええ。意外に遠山の金さんって近代側の人なんですね。
「そっちか。まあとにかく、せいぜい二百年位前のことだと思ってください」
で、どんな時代なんですか、天保って。
「聞いちゃうか」
聞いちゃまずいの!?
「いえ、まあ嫌な時代ですよ」
そーなの!?
「そりゃそうですよ。っていうか、江戸時代も享保以降は低成長の時代なので、社会全体が息苦しいんですよ。成長モデルにあわせた機構を備えていた幕藩体制も揺らぎ始めて、結局改革で盛り返そうとする時代ですし、幕府が開かれてから二百年が経過して、いろんな矛盾が社会内部に蓄積されていましたしね」
なんかこう、どっかで聞いた話に聞こえますが…。
「そりゃあ、現代に寄せて喋ってますから」
そうなのかよ!
「まあ、本作中での年間では、暗い天保期であっても比較的穏やかだった時分です。下り坂ではありましたが、文政期の享楽の空気は残っていましたしね。でも、暗い予感を引きずった時代、という風にはイメージしました」
なるほどなあ……。
で、今作のコンセプトは。
「はい。『市井の人々を食い物にする悪党が織り成す人情もの』です」
はい?
「ですから、『市井の人々を』」
いや、なんかこれ、ひどくおかしな表現のような気がするんですが。
「しかし、こうとしか言いようがないんですよ」
でもこれ、並び立ちます?
「立つんですよ。本作においては普通の人なんて誰一人としていません。みんながみんな程度の差こそあれそれぞれに悪党なんですが、悪党になって人情はありますし、悪党なりの思うところがあるはずです。なので、市井の人々を食い物にするような悪党にも人情ものは成り立つのです!」
ほう……?
「なんすかその目は」
いや、本当は違うんだろ? 本当は「古典的ピカレスク」(文字色反転)を目指したんだろ? でも、諸般の事情でそれは表立って言えないんだろ?
「な、なぜそれを!」
というわけで、「悪党が織り成す人情もの」、ないし「古典的ピカレスク」(文字色反転)の「しゃらくせえ鼠小僧伝」をよろしくね!
「うわ、まとめやがった!」
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はいどうもー。戯独堂でございます。最近告知が多いのか、このブログの回転率が良くて素晴らしいですねえ。いやはやいやはや。
「そうか、そんなにうれしいか」
出たな! 谷津さんめ。
「ええ、今月は今日のほかにもう一回くらいは出没しますんでね、なにとぞお願いします」
そうかそうか、それは何より! 年末以来、出版の動きがほとんど何もなかったもんなあ……!
「ああまあいろいろありましたから」
んじゃ、さっそく告知と行きましょう。
「オール讀物6月号」(文藝春秋)に短篇『だらだら祭りのころに』が掲載されました!
んで、この話は一体……?
「実はこのお話、松本清張先生のトリビュート企画ということでこさえたものです。近々わたしの手による江戸の犯罪ものが発売することを知ったオール讀物編集部の方が『じゃあ、谷津さんに”江戸の犯罪”で一本書いてもらったらどうだろう』と提案してくださり、そのまま形になったようです。あざっす! じつにあざっす!」
なるほど。つまり、このお話も江戸の犯罪をモチーフに?
「ええ。オール讀物の編集者さんからは『江戸の犯罪というテーマでお願いします』と言われたんですが、わたしの中で『清張先生といえば女だよなあ……』と謎の縛りを設定してしまい、女性犯罪者を探した次第です。もし大坂屋花鳥が思い浮かばなければ、八百屋お七を書いていたはずです」
なるほど……。で、大坂屋花鳥って誰?
「ですよねー。んじゃあ、その辺はキャラクター紹介で、ということで」
○キャラクター紹介など
・大坂屋花鳥
「この人は、流人の島である八丈島から江戸期を通じて唯一島抜けに成功した一団の紅一点、という、とんでもないレコードをお持ちの方です」
実在するんですか!?
「ええもちろん。ただし、大坂屋花鳥というのは彼女が落語で取り上げられるようになってからついた名のようで、実際のところはわかりません。けれど、彼女の経歴については、おおむねわたしが書いたとおりです」
しかし、こんな女性がいたんですねえ。
「江戸っていうのは決して住みやすい街じゃありません。こういう不如意を抱えて生きていた人なんて山ほどいます。今作においてわたしはその不如意を描き出したく思い、彼女を主人公とした次第です」
・佐原喜三郎
「この人も実在します。しかし、本作においては田舎者の頭の足りない人みたいに仕上がってしまいましたが……」
実際はどんな感じな人なんです?
「今でいうインテリヤクザです。ヤクザなのに儒学を勉強していた形跡がありますし、八丈島を抜ける際にも天文学やら操舵術やら……、とにかく知識を吸収しまくったという人です。さらには、島抜けして捕まったのち、奉行所あてに『俺たち、こうやって島抜けしましたぜ! 今後のご参考になればげへへ』という報告書を仕上げたことで罪を許され、なんと釈放までされる人です」
インテリじゃないっすか!
「しかも、ヤクザになったにもかかわらず、堅気である父親との仲は良好でして」
なんかこう……。
「そう。喜三郎さんって、なんでヤクザになったのかよくわからないスペックの人なんですよ。そういう意味で、彼の陽の気が花鳥の陰の気を浮き彫りにしてくれたともいえ、非常にいいコンビです」
それにしても、谷津さんの書く喜三郎さん、頭が足りない感じが……。
「シャラップ!」
・佐吉
「彼は実在しません。歴史上の人物である花鳥の父親なので、当然いたはずですが名前は伝わっていません」
そうなんですか……。ちなみに、日本橋浜町にいたというのは?
「ええ、諸書によれば、花鳥たちは島抜けしてから親のいた浜町に潜伏していたとのことだったので、それを採用しました」
へえ、どこに住んでいたのかもわかっているのに、親の名前が分からないんですか。
「そりゃそうです。江戸は当時世界一の人口を誇る町で、町人の何割かは江戸に流入してきた人々です。戸籍もない時代ですからまあしょうがないといえます」
けど、こんなに仲が悪いんですか?
「いえ、この辺りは著者のフィクションです」
よかったー。
・だらだら祭り
ところで、だらだら祭りって何?
「ですよねー。東京にお住まいの方じゃないとピンとこないですよね。だらだら祭りというのは東京・芝にある芝大神宮(江戸時代は『芝神明』)の秋祭りです」
しかし、なぜ”だらだら”?
「ええ、この神社、祭神が天照大神ということで、伊勢信仰の高まりとともに人気になるんですよ。東北の伊勢講の目的地が伊勢じゃなく芝神明に切り替わるなんてこともあったようで。なので、そういうお客さんを見込んでお祭りがどんどん長くなっていって、十五日余り祭りが続いたそうなんです。それを見て、江戸っ子が『だらだら祭り』と呼んだとか(諸説あり)」
ほう、面白いお祭りですねい!
「ええ、詳しくは本作を参照していただければと思いますが、生姜を売っていたり、太太餅を売っていたり、芝居小屋が建ち並んだりと江戸の人気観光地だったようです」
というわけで、なにとぞよろしくお願いします!
「お願いします(土下座)」
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いやー、今日は暑いですなあ。
「何そのいい加減な時候の挨拶」
ツッコむでないよ。ていうか、今日は谷津さんのほうが色々と浮足立っているんじゃないの?
「ええそりゃもう。実は今日、エアースタジオさんの公演で以前わたしが原案を書いた「蒼い季節」のA班を観劇してきたんですよ。それで、なぜか演じてくださっていたエヴァーグリーンのタレントさんを前に話すことになっちゃいまして」
ああ。失敗したわけね。
「当たり前でしょう! タレントさん特有のキラキラ感に押しやられて「あー」だの「うー」だのしか言えませんでしたよ」
でしょうねえ。で…。
「そう、ここで言いたいことを言うのだ。実は三年前にあとがきを描いているんですが、三年前のわたし、相当かっこつけてるんでね、何言ってるか分からないんですよ」
リベンジということですか。
「おう。ってなわけで4649」
ふ、古い……。
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「蒼い季節」は、『見送られる人』と『見送る人』の話です。
その視点から本作の人物を切り分けてみると、ほぼどちらかに分かれますよね。本作に出てくる未来ある高校生たち、彼ら/彼女らは『見送られる人』です。
『見送られる人』は、ただ先に広がる未来に向かって羽ばたいていけばいいのです。けれど、そうやって飛び出していく『見送られる人』の背後には、手を振ってその門出を祝う『見送る人』がいます。
けれど、『見送られる人』は往々にして、『見送る人』がどんな顔をして手を振っているのか思い出せません。なぜそんなことが言えるのかと言えば、わたしだって誰かに見送ってもらった人間で、わたし自身、わたしを見送ってくれた人がどんな顔でわたしを送り出してくれたのか覚えていないからです。
このお芝居の原案の仕事を頂いた時に、「若い演者の皆さんが成長できるような作品を」と指定がありました。その際にわたしが本作原案を通じて、僭越ながら演者の皆さんにお伝えしたかったのは、
『見送った人の顔なんて覚えていなくてもいい。けれど、想像できる大人になってください』
ということだったりするのです。
このお芝居でメインの役柄についておられる皆さんは、まだまだ『見送られる人』ですし、そうでなくてはいけません。
でも。
だからこそ、『見送る人』がどんな顔をしているのか、想像してみてください。
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「とまあ、こんな話でした」
おいおい、これはこれでよくわからんではないか。
「いいんだよ。わたし、頭の中がすっからかんなんでこれくらいでいいんだよ!」
そうなのか。
「っていうか、正直、劇を見ながら『きっとあの頃のわたしはそんなことを思っていたのだろうなあ』と想像しちまったんだよ」
え、あの頃の気持ちじゃないのこれ。
「もちろん。この原案を書いたの、2012年だよ? 細かく内容を覚えているわけないじゃん」
ひでえ……。
「いずれにしましても! エアースタジオさん公演「蒼い季節」、よろしくお願いいたします」
いたします!
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