れんげ草の咲くさんぽ径〜舟木一夫の世界

この度の豪雨により犠牲になられた方のご冥福を祈り、被災された方々に心からのお見舞いを申し上げます

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         〜近松門左衛門作「冥途の飛脚」発〜「梅川・忠兵衛/恋染めて風の花」着(上) のつづき〜
 
(上)のおさらいを少し・・・
冥途の飛脚:近松門左衛門の原作
傾城恋飛脚:文楽(浄瑠璃) 菅専助・若竹笛躬 合作
恋飛脚大和往来:歌舞伎 文楽「傾城恋飛脚」を改作脚色
浪花の恋の物語:映画 「冥土の飛脚」「恋飛脚大和往来」などをもとに成沢昌茂が脚色、内田吐夢監督による(1959年)
 
イメージ 1「梅川・忠兵衛/恋染めて風の花」 
2008年8月新歌舞伎座舟木一夫特別公演
 
復活組のファンの方もたくさんいらっしゃると思いますが、2008年といえばまだ6年前のことですから、「梅川・忠兵衛/恋染めて風の花」の舞台をリアルタイムで御覧になったファンの方は、復活組の方も含めてかなり多いのではないでしょうか。
私は、もちろん、わずか1年半ばかり前からの戻り組ですから、ナマでは拝見していません。淡島千景さんや、小島秀哉さんなどここ数年で故人となられた俳優さんも出演していらして、あらためて今、長きにわたって舞台人としてご活躍なさった名優の方たちのご不在を惜しむ気持ちとともに、舟木さんの舞台を彩られた方たちの多彩さを痛感しつつ拝見した次第です。なお、この舞台では女優さんではなく池畑慎之介さんが梅川を勤めていらっしゃいますね。歌舞伎の女形としての梅川を意識してのことかどうかわからないのですが、浄瑠璃の世界というイメージの強い「梅川・忠兵衛」を軽演劇の舞台にかけるというのは、それまでの舟木さんの舞台芝居とは違ってきっといろいろな点で難しいことも多々おありだったのではないかと思います。私は池畑さんの舞台は、たまたまですが、ちょうどこの前年くらいに観ています。「一本刀土俵入り」でお蔦を演じていらして、なかなかいい女形ぶりだと思いました。この「恋染めて風の花」の梅川も、いわゆる大衆演劇の女形をなさる俳優さんとは、一線を画していらっしゃって池畑さん独自のムードを創っていらしたと思います。
 
 
歌舞伎「恋飛脚大和往来」より「封印切」六代目中村勘九郎忠兵衛↓
 
イメージ 2私が近松原作「冥途の飛脚」という作品の入り口に立ったのは、歌舞伎の「恋飛脚大和往来」の中の「封印切」の場が最初だったと思います。その後、文楽の「傾城恋飛脚」の「新口村」を数回、また、歌舞伎では「封印切」は度々上演されるので演者はその都度変わっていますが、少なくても5回以上は観ているように思います。
そんなこともあってすっかり自分では「知ってるつもり」だった「冥途の飛脚」なのですが、「恋染めて風の花」を観ていて感じたのは、歌舞伎でずっと観てきた「梅川・忠兵衛」とは、イメージ 3かなり違います。もちろん、舟木さんの個性と魅力を生かした造形による忠兵衛は、舞台に最初に登場した時から颯爽としていて男っぽくてカッコ好いのですから、当然、それまで私が知っていた忠兵衛とは全くイメージが違うのは当然なのですが、この舞台の中では忠兵衛に「兄さん」と呼ばれて、忠兵衛の信頼をも得ている友人の八右衛門の描かれ方が、歌舞伎「恋飛脚大和往来」の八右衛門とは真逆であり、それによってこの作品のクライマックスである劇的場面「封印切」に至る忠兵衛の心理の深層が、ますますミステリアスに感じられ、「恋染めて風の花」は、林与一さんの演出であるとうかがっていましたから、登場人物の設定など、どこから取材して構築なさったのか、自分なりに確認してみたくなりました。
 
 
 
 
 
・近松門左衛門原作:冥途の飛脚 あらすじ
近松門左衛門は、世話物を24作執筆したが、「冥途の飛脚」はそのうちの14作目にあたる。心中物とは異なる結末であり、犯罪物、処刑物と呼ばれる作品である。
 
イメージ 4
上之巻
大阪淡路町の飛脚屋亀屋忠兵衛方に為替の催促が相次ぐ。暮れ方の帰宅した忠兵衛の前に、友人の八右衛門が現れ、五十両の為替金を催促する。忠兵衛は、馴染みの遊女梅川を身請けするために流用したと告白する。養母、妙閑が現れて、すぐ五十両を八右衛門に渡すよう命ずる。忠兵衛は小判形の鬢水入れを紙に包んで渡し、八右衛門もひとまず偽の受取を書く。夜更けに、忠兵衛は屋敷方へ三百両の為替金を届けに出かけるが、つい梅川のもとへ向かう。
 
 
中之巻
新町遊郭の越後屋を八右衛門が訪れ、遊女たちに鬢水入れの偽金を見せて、忠兵衛の悪口を言う。二階では梅川が、そして外では、駆け付けた忠兵衛がこれを聞いてしまう。忠兵衛はこらえかねて為替金の封印を切り、八右衛門に投げつける。そして、梅川の身請け金にもその金を使ってしまう。その罪を告白された梅川は、嘆きながらも覚悟を決め、二人は忠兵衛の生国大和を目指す。
 
 
 
下之巻
二人は、忠兵衛の故郷新口村にたどり着く。幼馴染の忠三郎の家に潜むと、その外を忠兵衛の父孫右衛門が通りかかり、転んで下駄の鼻緒を切る。介抱に出た梅川の正体を察し、孫右衛門は父親としての悲痛な心情を吐露するが、ついに忠兵衛には会わずに去る。二人は逃げるものの結局捕縛される。
 
 
上記は、近松の原作のあらすじです。そして、原作から文楽への脚色、文楽から歌舞伎への脚色、さらに歌舞伎から文楽への逆輸入などという流れの中で、最後には、最も大衆性のあるメディアである映画にもなっています。
 
イメージ 5映画 浪花の恋の物語  昭和34年芸術祭参加作品 (1959)
監督:内田吐夢  脚本:成澤昌茂

忠兵衛:萬屋錦之介
梅川:有馬稲子
近松:片岡千恵蔵
養母妙閑:田中絹代
許婚おとく:花園ひろみ
八右衛門:千秋実
 
イメージ 6
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あらすじ
忠兵衛は浪華飛脚問屋・亀屋の養子だった。同業丹波屋八右衛門に無理やり新町廓に連れこまれた。その相方が梅川だった。一度は帰ろうとするが、彼女の頼みで、そのまま泊ってしまう。客と寝ずに帰せば遊女は折檻されるのだ。翌朝、八右衛門が口裏を合わせ、無事に家へ入れたが、忠兵衛は、たちまち、その夜、廓へ足が向いていた。それからはチョクチョク遊びが続いた。梅川の情の深さが彼を捉えた。
イメージ 7竹本座座付作者近松門左衛門は隣室で「わてらにとっては金が仇の世の中・・」という梅川のつぶやきを聞いた。義母の妙閑は忠兵衛の金遣いの荒らさに気づいた。大阪をしばらく離れさせて考えさせようと、為替の差額を取りに江戸へ発たせた。その前夜、忠兵衛は梅川を待つ間、彼女の母あての手紙で、その孝行を知る。彼は金を置き、梅川に会わずに帰った。櫛が彼の江戸土産として届いた。縁を切るとのなぞ言葉か。梅川は泣きくずれた。近松がそれを見ていた。
藤兵衛という小豆島の醤油の大尽が北陸から帰ってきたら、梅川を身請することになっていた。旅姿のままつい
イメージ 8廓に寄った忠兵衛は、そのことを聞かされた。持っていた八右衛門に届ける五十両を、梅川の身代金二百五十両の内金として入れ、いつづけを始めた。五十両の使い込みを八右衛門に見つかったが、頼みこんで金は借り、家へ帰った。若い許婚・おとくへの土産は花かんざしだった。妙閑が武家の為替三百両を届ける用事を忠兵衛に命じた。ところが、彼はその金を懐ろに廓へ行ってしまう。藤兵衛が帰阪して梅川の身請の祝宴を挙げようとしていた。忠兵衛の内金はつっかえされた。後の二百両を入れたら、待ってもええ。そう云って梅川の主人は彼を馬鹿にした。
八右衛門が梅川の部屋で例の五十両の一件を笑い話にしていた。忠兵衛は口惜しく、思わず懐ろの小判を握った。封印がきれ、こぼれた。その金を彼は八右衛門や梅川の主人の前に置き、梅川を連れて去った。
亀屋に捕方がなだれこみ、忠兵衛の代りに妙閑が引っ立てられた。武家のお蔵金の封印切りは獄門である。瓦版が大阪の街を走った。三輪の里で、忠兵衛は梅川に封印切りを打ち明けた。梅川はそれを知っていながら、ついてきたのだ。二人はどこまでも一緒にいようと誓い合う。
イメージ 9忠兵衛の実の親に会いに行くところだった新口村の入口で二人は捕った。忠兵衛には獄門、梅川には二度の勤めが待っていた。
二人の捕縛の知らせを聞いた近松はこの話を三幕の世話狂言に仕立てようとした。そして、新口村の場では、実際には会えなかった梅川・忠兵衛と親孫右衛門を会わせ、つらい別れと親子の情を見事に描いた。
 
また、映画の中では、近松にこのように言わせています。「可哀そうに男は獄門、女は二度の務め、ほんまはそうなるやもしれん・・が、わての筆はそこまで不人情にはなれん・・・」
イメージ 10そして、映像は、それまでとはうって変わり、人形浄瑠璃の「新口村」の場面の装束をつけた梅川・忠兵衛の登場となります。「♪おちうどの たねかやいまは ふゆがれて すすき なけれども よをうし あだや ひとめ♪」の長唄にのせて、歌舞伎舞踊を優雅に舞う錦之介さんと有馬稲子さんの美しさが際立ちます。
さらに、「♪大坂を立ち退いて私が姿を目に立てばかりかごに塩おくり奈良のはたごや三輪の茶屋♪」と梅川(有馬稲子)の舞いが続き、次第に人形に変わっていきます・・・ ラストは、ふたたび梅川の「忠さまに会いたい、忠さまのところへ行かせて!」という悲痛な叫びと浄瑠璃の語りが重なって「終」のエンドマーク
 
イメージ 11
 
この映画の脚本は、拙ブログで先にご紹介した「右衛門七にまるわるあれこれ(下)」の新作歌舞伎「主税と右衛門七」の作者である成澤昌茂氏によるものです。
舟木さんがコンサートのトークでも、よく話題になさる萬屋錦之介さんが主演された名作として世に知られている「浪花の恋の物語」ですから、おそらく舟木さんもこの映画をご覧になっていていらっしゃることは間違いないでしょう。
 
「冥途の飛脚」では、八右衛門という人物は、ごくごくフツーの感覚の大阪商人として登場しているように思います。忠兵衛に対しても仕事仲間の心やすさという気持ちで付き合っているようです。むしろ、忠兵衛のほうが「飛脚屋」という稼業を生業にしているにしては、いささかイージーでルーズな印象を受けます。
 
「梅川・忠兵衛 恋染めて風の花」では、八右衛門は忠兵衛にとって終始信頼できる人物として設定されていて「封印切」に至る、直接的な引き金になったのは梅川を身請けするという「阿波のお大尽」や廓の主人に商人としてのプライドを傷づけられたことへの意地を見せるという流れになっています。
 
残念ながらこの舞台のパンフレットは所持していませんので、舟木さんがそこで「浪花の恋の物語」について言及されているかどうかはわからないのですが、ご存知の方、ぜひ情報をお寄せ下さいね。

〜近松門左衛門作「冥途の飛脚」発〜「梅川・忠兵衛/恋染めて風の花」着(下)につづく〜

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春日局さん、詳しくご紹介下さりありがとうございます。ところが伝統芸能初心者の私としては必死になって読みましたが今一つピンとこないというのが正直なところでした(笑)読んでいるうちに、この状況に段々息が詰まってくるというか・・・まだまだ分っていませんねえ、お許しください(笑)。愛情があっても思うに任せない時代、環境。忠兵衛と梅川の切なさはよく分かるのですが、こういう複雑なのっぴきならない関係にたじろいでしまうのです。なぜこういうことになってしまうのかなあ・・と疑問までわいてきて。本当に困ったものです。ややこしい人間関係が昔から苦手で、あっさり済まそう・・というタイプだったものですから(笑)。舟木さんはご自分の境遇、育った環境、芸能界での一流の方々の出会いで、このような世界を理解し演じたいと思うようになったのでしょうね。でも私も今年は落語や歌舞伎を聴きに、観に行こうと思います。文楽も初体験できればな、と思っています。落語と歌舞伎は経験があり楽しみにしていますが、文楽は楽しみ・・というよりちょっと探検に行くような気分(笑)です。

2014/2/3(月) 午後 9:22 [ 復活舟木組 ] 返信する

復活舟木組さん、(上)の冒頭でも書いてますが私自身も近松ものは苦手というかあまりピンとくる世界ではないです。(下)でちょっと触れようかと思ってますが「冥途の飛脚」の原作そのものが理不尽な世界かと思います。文楽や歌舞伎にかけるために脚色されたことで広く知られ現代に語り伝えられているように感じています。そして「浪花の恋の物語」や「恋染めて風の花」ではさらに「悲恋もの」というイメージが濃くなっていると思いますが近松はむしろ当たり前の人間がひょんなはずみで「犯罪者」になってしまう不可解な人間ドラマに焦点をあてて書いた作品のような気がしています。ですから「文楽」「歌舞伎」においてもなんとなくムリがあるように感じるのかと思ったりしています。文楽にも女性の逞しさやしたたかさを描いた作品もありますから自分の感性に合うものと出逢えると楽しいですよ。

2014/2/3(月) 午後 9:53 春日局 返信する

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春日局さんこんばんは。
〔恋そめて風の花〕のパンフレットを改めて拝見しました。
脚本の井川公彦氏は…人形浄瑠璃では美しい恋物語で描かれてます。
忠実では、梅川は入牢後、無罪放免で新町に戻り、忠兵衛は死罪になりました。千日前でした。今も、竹林寺に眠ってます…舟木忠兵衛と池端梅川は儚く切ないけれど、静かに燃える恋に…です。
舟木さんは、近松…の原作(冥途の飛脚)だと少し、強く、シャープすぎる。暗い印象…タイトルを(恋そめて風そめて)にきめた。
はんなり、はかなく、時代劇だからこそ描ける悲恋を…
新しく設けられた三輪の宿、冶助の場面(舟木さんが与一さんと相談して…)の淡島さん、八右衛門の小島秀哉さん、よかったです。
私は、梅川に池端慎之介さんを選ばれたのは素晴らしかったと思います。ピッタリでした(笑い)
なんだか、まとまりのないコメントで申し訳ありません。
演舞場からのお芝居の中のベスト3です。

2014/2/5(水) 午前 0:28 [ kaoruko ] 返信する

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脚本の井川さんは人間にはなんとかしたいけど、どうにもできない瞬間というものがあるものです。そこが人の心の面白いところで、近松…が見据えていた”本性”というものかもしてません…とあります。
林さんは製作側の方々がベストの配役の方々を配してくださって…
私を引きずり出してくれた舟木さんに感謝…コメントががあります。
舟木さんは〔浪花の恋の物語〕には触れてません。

2014/2/5(水) 午前 1:17 [ kaoruko ] 返信する

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kaorukoさん、パンフレットからのご報告ありがとうございます。原作とも文楽や歌舞伎とも違い、また映像の世界とも違う軽演劇の枠組みの中で主演する役者さんの魅力を生かしての脚本であり、また林与一さんの観点を加味した演出の総合的な成果が現れたお芝居だったんですね。「恋染めて風の花」では宿屋の女将の淡島さんを終盤に登場させたことと八右衛門が忠兵衛にとって最後まで兄のような情愛を見せる役回りにしたことで、それまでにないもう一つの梅川・忠兵衛の物語を描いたという感じを私も受けました。近松は今でこそ古典ですが当時の事件のドュメンタリーを元に物語として脚色したのですから「人間の本性」への鋭い観察眼をも備えたルポライター的な物書きだったんですよね。ありがとうございました。

2014/2/5(水) 午前 11:55 春日局 返信する

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