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小説「満天の星空」第5章 1
瑛子さんは、家のテラスから庭に小走りにやってきたて、私を迎えてくれました。たいした荷物もないのに、私の荷物を持とうとしてバックを手に、俊介さんは、車のエンジンを止め私たちの側に来て、言いました。
「ほら、瑛子。私の言
瑛子さんは何か問いかけたたかったようでしたが、私が手をだすと、冷たい手でぎゅーと握りしめてきました。
私は、今、彼女が何故不可思議な行動を取っていたのかも、はっきりと把握し、以前抱いていた妄想を心から恥じていました。瑛子さんのこころの内には、世慣れしない自尊心と、様々な不安感とが互いに抱き合わせて暮らしていたのです。全体として、本当は真実を求めていたのです。半ば野性的な面が私を引きつけたのではなく、彼女の心根が好きになったのです。そうして、私は、彼女に向かって心から微笑んで答えました。私が笑うと瑛子さんは、にっこりとして一緒に荷物を部屋まで運んでくれました。俊介さんは、部屋に私を運び終えると、自分の部屋に戻りモーツアルトを聞いています。私と瑛子さんは案内された部屋で話を始めました。
「あなた、山へ行かれている間、お一人でさびしくなかったのですか?」
と最初にきりだして、私は
「では、あなたは私が居なくて寂しかった?」
すると瑛子さんは、私を見つめ、まつげを重ね
「ええ、Mさん・・」
と小声で答えました。
「山はそんなによろしかったですの?」
「高いやまでしたの?」
「眺めはよろしかったの?」
「兄とはもうはなされたのでしょ?・・私、何も知りませんも の・・・」
「あなた、勝手にいかれるんですもの・」
今まで、こんなに立て続けに瑛子さんの話をきいたのも初めてでしたので、多少圧倒されたというか、たじろいた感じでしたが、
「私が山に行ったのは・・・それは・・・・・、でも、今はこうしてここに、もう行きませんよ。」
「あなた、今朝怒りっぽくていらっしゃった?」
「ええっ?私が・・?」
「私にはわかるんですの、今良く思ってらっしゃるか、そうでないかも」
「そうですか、でも、今はよかったと思いますよ。」
瑛子さんは少し微笑んで
「よかった・・。」そう言って私を見て首を少しかしげました。
しばらくして、瑛子さんは、もじもじしながら尋ねました。
「ねえ、あなた、ある方をお好きでしたの? ほら・・・覚えてらして、いつか・・私たちお近づきになった翌日、兄と乾杯された・・・あの方・・・」
「ああ、あれは俊介さんの冗談ですよ。私は今どんな女性も愛してはいませんよ。」
すると瑛子さんは
「あなた、女のどう言うところがお好きですの?」
顔をあげ、無邪気そうにそして、好奇心いっぱいの表情で尋ねました。私は、何と答えていいか考えていると、
「私、変な事を聞いたかしら・・ごめんなさい、私、思ってること直ぐにでてしまう困ったわ、今までこんなことなかったのに・・・自分が怖いわ・・。」
「いや、気にしないでください。何でも聞いてください。私は嬉しいのですから。」と答えました。瑛子さんは、脚をすっと斜めに揃え直し、一度そっと眼を伏せ、それから、ゆっくりと微笑みました。私は、こんな瑛子さんの姿を見ました。
「ねえ、お話ください、あなたは女のどこに惹かれますの?」
瑛子さんは例の難問を続けました。私は思うがまま語るしかありませんでした。
「ええ、どんなところって・・そうですね。難しいな、優しさかな・・。人に対して優しくせっすることができるって、凄いことでしょ?人と話していて、微笑んでいられるって素晴らしいことじゃないですか。それに、今の瑛子さんも素敵ですよ。」
「私??」
瑛子さんは、少し驚いた様に眉をあげました。
「私なんて、人に愛されたことありませんもの・・。」
「そんなことないでしょう?お兄様やお父様・・・沢山おありでしょ?」
「ちがいますの・・家族じゃなくて・・・。」
「未だ、お互い若いもの、これからじゃありませんか。きっと、素敵な人現れますよ!」
「本当にそう思われますか?」
「ええ、本当に・・。」
「そうだったら嬉しい!」
瑛子さんの眼は、とても美しく輝いて見えました。
この日の晩は、三人で食事をしました。瑛子さんは途中席をたつこともなく、常に笑顔で、ビールを飲み、語り、カウンテイーファアーの様に火を燃やし、囲むように座りました。
夜空には、満天の星が燦めき、傍らで燃える火が、瑛子さんの姿をより美しく浮かびあがらせました。私は心地よく酔い、イーグルス、キャットステイーブンス、ボズスキャッグス、ビートルズ等、瑛子さんのリクエストで次々に歌いました。俊介さんはバイオリン即興で僕のギターに合わせてくれました。
この日は、この上もなく愉快に思われ、私たちは子供のように浮かれ騒いだのでした。
・・・続く・・・・
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小説「満天の星空」第4章 3
俊介さんは続けました。私は何故こんな話を私にしようとするのか最初は戸惑ったものの、瑛子さんの身の上について、いったい何があるのか、あの少し奇妙に感じる言動の起因はそのベールに包まれた育ちにあると確信していたので、聞かずにはいられませんでした。
「父の世話をしていた藤倉さんという初老の男の人に、私はすべてを聞きました。父は、私が東京に行ってから寂しく暮らしていた時、この家に時々お使いに見えていた直美さんという女性と愛し合うようになり生まれたのが瑛子だった事、この直美さんという女性は、控えめで梅園家に入れましょうといって、入籍を拒んだそうです。多分、私の家はこの地方では名家と言われる家系のせいだとおもうのですが・・・それで、瑛子を一人育てていましたが、その直美さんも父が引き取る何年か前に亡くなり、父が、当時多感だった私に気を配って孤児だと言って育てていたのが、あの瑛子なんです。父は、瑛子をけっして甘やかした訳ではなく、心から愛していたので、瑛子に強く求めることや禁止するようなことは何もしなかった様です。藤倉さん話だと、二人の女性を亡くし、瑛子しかこころのよりどころがなかった。きっと、寂しい思いが瑛子を溺愛してしまったのではないかと。私が思うには、私や母、そして直美さんに対し内心あれやこれやと申し訳なく思っていたのでしょう。やがて、瑛子は、父がこの家の主人であること、母直美さんと父のアンバランスな関係、私と腹違いの兄妹であること、等を悟り、自尊心と猜疑心とのバランスがとれないまま、自分の出生を世間に知られたくないと言う願いに満ちていたのでしょう。私があれを可愛がると反抗し、無視すると甘え、また可愛がると反抗するという日々でした。しかし、私がやっと妹として愛せる様になった頃には、逆に私を情熱的に愛し始めたのです。私は瑛子と別れる決心をし、全寮制の女学院にいれました。
しかし、卒業までの3年間というのもあまり変化も見られず、何とかしなければという事で、ロスで精神科の権威であるDrサリバン先生に見てもらったのですが・・・瑛子の世界観を変える必要があるということで・・それで・・世界をいろいろ連れて歩けば・・いろんな出会いもあるだろう、少しは変わると信じ・・・こうしているのです。私も時折、どうやっていいものか考えてしまうのです。」
俊介さんは、深いため息をついて、髪のあたりを撫でながら続けました。
「あれは、男を全く知りません、男を知れば他人を愛せる様になるのではないでしょうか?・・・この話聞いて、あなたはどう思われます??」
「はあ、・・今まで長い間旅されてこちらに来るまでに、いろんなタイプの男 性に出会われた筈でしょう?」
「ええ、その連中は概して瑛子の気に入る範疇ではなかったのでしょう。あの 子ののぞんでるのは英雄か、非凡な能力の持ち主でしょう」
「英雄、非凡ですか・・・」
「そう、あなたのように」
「ええーー、私ですか?」
「そう、すーと瑛子の心の中に入ってくる不思議な魅力を持った・・。」
「ええーー、この私がですか・・・」平凡のかたまりみたいな自分に向けられた言葉に私は耳を疑ったのでした。
「そうなんです、実は、この数日、あなたが何故来ないのか分からず。瑛子は随分と寂しがり落ち込んでおりました。私は、あれにはかまってやれず・・あなたが来ない理由も分からず説明もできず・・音楽に没頭するしかなかったのです。そのとき、瑛子の心のなかには私の他にあなたがいたのです。」
「・・・・・・・・・・・。」
私は、言葉がでそうにありませんでした。俊介さんは、更に続けました。
「どうです、わたしのところに来ませんか?ホテル引き払って・・・部屋は充分ありますしね・・・これから費用の心配もいりません・・・なんたって親友じゃないですか!いいでしょ?」
半ば強引ともいえる俊介さんの誘いで私は、あの広い農家の一隅に宿替えをすることになったのでした。・・・続く・・・
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小説「満天の星空」第4章 2
俊介さんは、さも親しげに私を迎え、そして、避難を浴びせました。瑛子さんは、私を見つけると、直ぐにあの笑みを浮かべ、そうして、またいつものように、外に駆けだして行きました。瑛子さんは、私の気持ちなど分かってはいないようでした。俊介さんは、私に堪忍してくれと言います。あの子は、気が優しい子なんだが、変わってるんだ、気が少しふれてる。頭は、悪くはないんだが・・頻りに嘆いていました。
私たちは、いつかのあのミルクのたっぷり入ったコーヒーを飲みながら、空白の数日間について、何があったかを確認しあったのでした。私もたわいもない話を次々とした気がしました。
俊介さんは、
「ねえ?・・」
と急にあの微笑みを浮かべて尋ねるのでした。
「あなた、瑛子のことどう思っておられる?」
「え?・・」
私は、突然核心に近い質問にたじろいていました。
「瑛子のこと、おかしいと思うでしょうね。あれをうまく扱うのは骨がおれる、でも、気だてはいい子なんです。それに、かわいそうな身の上でもあるんです。」
「瑛子さんの身の上ですか?・・・妹さんじゃ・・・」
俊介さんは、私の顔をじっと見つめ
「やっぱり、あなた、あの子が私の妹じゃないと思われてるんじゃ?・・とんでもない。」
俊介さんは、私の狼狽にも注意も置かず続けました。
「あれは、私の妹です。私の父の娘です。私は貴方を信頼してるから話しますが、父は頭のいい教養のある人でしたが、不幸せであったのです。父は割と若くで結婚したのですが、その妻つまり私の母ですが、非常に早く亡くなったのです。父は教育が大事だと、私の教育のためあらゆる努力を払ってくれました。私が12歳の時、ある日、伯父がやってきて、私をひきとりに来ました。有名私立校へ入れる為です。私は父の元を離れ東京に行くことになりました。
私もつらかったんですが、一番つらかったのは父だったんです。私は、毎年、休みには帰郷しましたが、年々沈んでいくのは感じていました。髪に白いものが混じりあんなに豊かだった人柄や人相さえ年々、痩せていくようでした。7年の年月が流れ私がやっと希望の音楽大学に入った年に帰ったとき、父の元には、一人の女の子がいました。十歳ばかりの目元の涼しい子でした。父は孤児だと言ってました。人見知りするたちで、黙っていることが多い子でした。
私が2年になった時、伯父の元に電話が入り、父が危篤であることを聞き、駆けつけた時は臨終の直前だったのです。父の最後の言葉は、“この子はおまえの妹だ、この子を頼む”でした。
詳しい話は藤倉という父の世話をしてくれてた侍従に聞いてほしいと言って息をひきとりました。」
私は、ただただ俊介さんの話を静かに聞いているだけでした。・・・続く・・・
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小説「満天の星空」 第4章 1
あれから1週間が過ぎた或る日、私は夕方散歩に出かけました。気がつくと私はあの牧場の側まで来ていました。自分では、二度と訪れまいと考えていたのに、気がつくと彼らの宿の前に来ていたのです。垣根越しに広い庭の様子が見えます。広いテーブルの傍らに、一本の古いオークツリーがあります。そして、そこには、いつかのあの古めかしい白いワンピースのドレスを着た瑛子さんとシルクのシャツに銀色のベストを軽く羽織った俊介さんがいたのでした。
それから、私は門に入ることもなく、じっと二人の様子を遠くから見つめていました。すると、二人の話し声が聞こえて来たのです。むろん、日本語です。熱を帯びた調子で瑛子さんは、泣き声に感じる様な声で 「いや、いや、私、あなただけ好きでいたいの・・・」 「何いってんだ、沢山だ瑛子!気をしっかり持つんだ!!」 二人は垣根越しにみている私など認めることなどありませんでした。 「あなただけでいいの・・・あなただけ・・・」 と繰り返しながら、俊介さんに飛びつくなり、痙攣的な高い調子の声とともに、俊介さんの胸に顔を埋めていました。私は、しばらく、じっと佇んでいましたが、彼らの前に歩み寄りたいのをこらえてホテルへ戻ったのでした。 外は晴天続き、太陽に温められた巨大な岩に寝そべり、曇りない青空を見つめ、時に優しくそよ風が頬をくすぐる瞬間には、まんざらでもないような気持ちになり、ジョンデンバーのサンシャインオンマイショルダーを口ずさんだり、小石を河に投げ込んだりして時を過ごしたのでした。しかしながら、心は、時折、チクチクと疼きを感じるのでした。私は、偶然の悪戯とその強い印象故に心を奪われたのですから、忘れるより他ないのです。そう思ったのでした。 ゆっくりと流れる大河、その中を泳ぐレインボートラウト、山から見下ろせば広がる大地、木々の緑、森から漂う樹脂の匂い、時折通る若い旅人たち、そのどれもが一切を溶け込ましている様に感じて、私は天空を見上げ、 「御機嫌よう・・・、すべてのものよ!平和であれ、私の心よ!そして、あの人たちの心にも安らぎを!神の御加護を・・・!」 日本語と英語で二回お祈りをしたのでした。 そして、その日は正に自然の懐で、安らかな気持ちで眠りについたのでした。夜、暗くなればそこにあるのは、ただただ、眠りだけでした。 私は少し落ち着いた気持ちで翌日ホテルに戻ったのでした。フロントに声をかけると、俊介さんからのメッセージの置き手紙があると言うことで、私は、それを受け取る三階の部屋に戻り手紙を開けたのでした。 それには、私の突然の思い立ちに驚き、どうして、自分を誘ってくれなかったのか、そして、戻り次第必ず来てくれとの事でした。私は、不満でいっぱいでしたが、明くる日、俊介さんのところを、いや、正確に言うなら、瑛子さんをもう一度訪ねようと心に決めたのでした。 |
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小説「満天の星空」第3章 4
私は、私なりに二人に対する確信が、ある程度固まりつつありました。それは、瑛子さんは、かなり上手な英語と日本語をしゃべりますが、全体の雰囲気が落ち着きがなく、あまりお嬢様らしくない点、それから、お坊ちゃま的俊介さんと比べ、あまり共通点というものが見いだせないこと、奇妙な並でないとというか、逆に言うと偏った教育を受けて育ったのではないかと考えられ、一方の俊介さんは、この上もなく溺愛のもとで育ってきたのではないかと感じられることでした。
特に、瑛子さんについては、私自身異様に興味を覚えた訳ですが、彼女のどれもが、何かしら落ち着きのない不安にかられており、生まれつきはにかみやで、臆病なところがあって、それを、無理に隠そうとして、ああいった奇妙な行動や仕草をとるのではないだろうか・・・等と考えるのでした。 そういう、自分は、どうしてこんなに二人に執着するのか、自己分析したものの、何もこれっと言った解答をだすことができませんでした。ただ、私は、明らかに、また異様なまでに、瑛子さんに惹かれ、瑛子さんによって傷つき苦しんでいるにもかかわらず、瑛子さんに表現しようのない愛情を感じているのです。最も簡単に表すなら、瑛子さんを愛してしまったのです。・・・続く・・・ |




