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第1章 1アメリカ西海岸
そのとき、私は21歳でした。ですからほんの数年前のことです。私もそのころ、やっと心の痛みも少し和らぎ、海外へ留学に出ました。教育の資質向上とか,自らのあらゆる能力開発をめざすとか、海外文化を吸収するとかいったものでなく、ただ何となく日本と違う世界を見たかったに他なりません。
私は約1か月ある大学のキャンパスに学び、主に何とか言葉をりかいするのに会話と興味のあった歴史について調べながら生活をしましたが、その後は、一切これと言った目的も持たず無計画に旅をしました。何処でも気に入ればそこに滞在し、また新しい何かを見たくなれば次の地に向かって歩いたのです。
私は、珍しい記念物や観光名所とかいったものを当時は憎悪していたものですから、ゴールデンゲートやフィッシャーマンウオーフなど素通りして、そこに自分達日本人がカメラを首からぶらさげ歩いていると,一層重い気持ちになり隠れるように逃げ去ったりしていました。
自然についてはいたく感動するほうでしたが、並外れた岩石や奇岩などはあまり興味をもてなかったのも事実でした。ただ、ありふれた昔からの自然の中に、生きた人間の顔、人の話、動き、笑い・・・こういう物には私は叶わないものでした。ですから、けっこう人混みの中にいると楽しい気分になるのでした。
私はSFのカレッジのドミトリーをでて、同じベイエリアのサンホセという街にやってきたのです。
この町は幾つか小高い丘にあり・・・・湖や川幾つかの塔(教会)広い畑 緑の多いまちでした。高速道路も走り、ビルもありますが、東京のように狭い道路の両側ににょきにょきビルが建ち並ぶという感じではまったくありませんでした。ゆったり広い、ひとつひとつ充分な空間が確保されていました。
わたしは、この地で宿を取ることにしました。ヒルトンやシュラトンと言った有名なほてるでなく、こじんまりとした階段で部屋にあがる、最近日本でも多くなってきたビジネスホテルみたいなものです。
私は少しお腹がすいたので、1階のレストランに向かったのでした。街のレストランの方が安い場所もあることは知ってましたが、この地に着いたばかりであったこと、何より足が少し痛くなってきたものですから、出かける元気も少し無かったのも事実でした。それに、当たりの様子もまだ地図とにらめっこの状態だったので、とりあえず、安心して食事の採れるホテルのレストランにしたのです。
私は、レストランの中程のテーブルにつき、ステーキとタコス、ライトビールを注文しました。周りには白人系メキシカン、プエルトリカン、アフリカン、様々な人々が楽しそうにたいそういろんな言葉で話しているようでした。
私は実はアルコールは強くありません、が、この2,3年カルフォルニアには雨が全く降ってなくて、お水にはお金が掛かるほどでしたから、ビールを注文しました。日本のビールと比べると断然軽いので,僕にはちょうどいいかんじでした。グラス1杯ほど飲んだころでした。
「瑛子・・こっちだ」
「ええ・・。」
と言う声が聞こえたのでした。明らかに日本語しかも標準語でした。久しく聞かなかった日本語、逃げていた日本語でしたが,二人の会話に響きに何だか軽い爽快感が感じられ,二人の方向を振り返りました。
ちゃんとした身なりの青年がそこに立っているのでした。その後ろから余り背の高くない少し痩せた娘がついて席につこうとしていました。その青年は、彼女のイスを引き席に付かせました。そして,私の席の隣についたのでした。僕の視線を感じてか、その青年は僕に微笑んでかえしました。
「あのーあなたは日本人ですか?」 という問いが、私の口から思わずこぼれたのでした。
つづく
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小説
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