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【マラソン】瀬古利彦

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瀬古さんがおくるマラソン編の「トレログ」。最終回では、日本から世界に通じる長距離選手を輩出するための提言がされています。長い目で選手を育てることの大切さは、一貫して瀬古さんが主張しているテーマです。

イメージ 1 最後に、世界で戦う現在の日本長距離界についてお話ししたいと思います。

今の日本の男子マラソン界では、基本的なスピード不足が目につきます。そのことが、世界で勝てない原因となっていると思います。

 若い世代に、スピードある選手は数多くいます。にもかかわらず、大学に入るとタイムが落ちるというケースが多々あります。13分台で走っていた選手が14分台しか出ず、高校のときに出していたタイムに達しないのです。

 原因としては、幼少期から長距離の練習をある程度積んでしまっているため、高校時代のタイムがその選手のピークになってしまっていると考えられます。走る量には限界があります。その限界を超えてしまっているのです。

 私が大切と考えているのは、走る上で生かすことのできる基礎スピードです。100mが速い人もいれば、400mが速い人もいます。そうしたスピードに加え、マラソン選手にはそうしたスピードをどれだけ長く持続できるか、という力が必要です。持続スピードをできるだけ長くすることがマラソンには重要なのですが、急にマラソンの距離で行うことはできませんから、5000mなど比較的短い距離で培っていくことになります。スピードを持続させるための筋力は、若い時期にトラックで鍛える必要があります。

 今の長距離陸上界では、そうした素材を殺してしまっているのが現状です。ですから、「箱根駅伝が長距離をダメにしている」などという意見も生まれてくるのです。大学生が、年がら年中長い距離を走ってしまっているのです。大学生の時期だけでなく、高校の頃、中学の頃から休みなくそういう練習が行われています。

 野球であれば、オフシーズンがありますから、その時期に基礎体力を養うこともできます。しかし陸上の長距離ではトラックの季節、ロードの季節と、シーズンに切れ目がありません。短距離選手が大会のない季節に行うような、大会直前のメニューとは違った基礎体力の練習は、長距離選手にとっても大切だと思います。走り込み過ぎで見るからに中学生らしくないヒョロッとした体型の中学生選手を見かけることも多くあります。そうした現状を、指導者が変えていく必要があるのではないでしょうか。

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一流のスポーツ選手になるには、子どものころからの英才教育が必要、と思いがち。瀬古さんはそれに対し、自身の経験から「ゆっくり選手を育てることの大切さ」を主張します。

イメージ 1 私が"世界"を意識し始めたのは、大学3年生頃のこと。そのときはマラソンではなく、トラック競技においてです。高校の頃までは、世界などとは考えてもみませんでした。もちろん、将来オリンピックに行ければいいな、と思うことはありましたが、そこに至るまでにはレベルの差が歴然としてあったのです。

 長距離というのは、力をつけるまでに時間がかかるものです。上を目指すあまり、すぐにマラソンへ行きたくなるかもしれませんが、それは良いことではないと思います。何事も、順番があります。中学生には中学生なり、高校生には高校生なりの練習というものがあるのです。

 私の感覚ですが、中学生の頃に抜群に良かった選手には、その後長く保った試しがないように思います。中学生のランナーで、異常に細い選手を見かけることがあります。「よくこんな身体で走れるな」「摂るべき食事を摂っているのか」と思うほどです。

 「世界で活躍できるマラソンランナーになるためにはどうすればいいんですか」──このような質問に対しては、「あまりあせるな」と答えてあげたいです。お父さん、お母さんがあせらないでほしい。年齢を重ねるごとに、速くなっていきますから。

 マラソンには、「英才教育」は存在しません。技術がものを言うスポーツではありませんから。ものを言うのは「心」。メンタルを鍛え、強くすることが、マラソンで速くなるための近道と言えるかもしれません。走ることばかりを練習して、心が弱いままでは戦えないのです。

 初マラソンで彗星のごとく登場し、優勝を飾るようなランナーが時として現れますが、そうした選手はその先に潰れることがよくあります。男子にも、女子にも見受けられることです。よくわからないうちに優勝してしまい、次のレース以降は「負けられない」というプレッシャーに苦しみ、毎日走り込みをしていくうちに成績が落ちていってしまうのです。

 私も、初優勝したのは3度目のマラソンでした。私の初マラソン(1977年・京都マラソン)は、練習もせずに臨んだ大会で、勝つ自信もまったくない状態でした。「餅はマラソンに良いから」と言われ、餅ばかり食べて臨んだレースでした。当時はカーボローディングなどという用語はありませんでしたが、考え方自体は間違っていなかったのです。ただ、食べるばかりで練習をしていなかったがための惨敗でした。

 現在と私の頃との大きな違いは、マラソンのための練習が確立され、多く出回っているということです。そうした環境では、一つひとつ地道に積み上げていくことは簡単ではないかもしれません。高校生などといった若い年齢のうちから、いきなり競技ランナーを養成するプログラムに組み込まれてしまうのです。

 高校などの合宿を視察する機会があるのですが、あるとき、いくつかの学校から集まった何百人もの選手が、集合日にいきなり30kmを走り込むのです。もし私が今の時代に現役であったなら、高校時代ですでに「やり切って」しまって、その後陸上競技をやめていたかもしれません。

 そんな時代だからこそ、指導者にはしっかりとした考えをもって指導してもらいたいものです。

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もうすぐ、学校は冬休みのシーズン。それでも、若きアスリートのみなさんはグラウンドや施設で毎日練習に励むことになるでしょう。「やらされている」という感覚ではなく、「自主性」を持って練習に取り組むには? 瀬古さんの実体験には、ヒントがたくさん詰まっています。

イメージ 1 中学・高校の指導者の方には、いつも言ってやらせるばかりではなく、たまには生徒が何をやりたいのかを聞く耳も持ってもらいたいと思っています。「先生にやらされている」という印象が、部活動ではどうしても強くなりがちで、「自分で走っている」という気持ちが薄いように思います。そうすると、例えば先生が転任で代わってしまうと全然ダメになってしまうような選手も出てきます。

 大会に向けた準備も、選手一人一人違いますから、「自分の形」を見つけなければなりません。私は、高校時代から自分に合ったやり方を考えながら競技に取り組んでいました。どれだけ練習をしても、レースの際にピークが合わなければ「ただの人」だと言っても過言ではありません。

 私が自分の体を把握できたのは、大学3年くらいでしょうか。それまではなかなかつかむことができませんでした。体は生き物ですから、日々状態は違っているもの。毎回同じなどということはあり得ないのです。体が重くても走れるときはありますし、逆に軽すぎて走れないこともあります。ですから、自分で「このときはこうだった」という経験を覚えておかなければなりません。先生に言われてやっているだけでは、そのように"考えて走る"ことができなくなってしまいます。

 その意味で、日誌をつけることはとても良いことだと思います。自分の体が重いのか軽いのか、そのときのタイムはどうだったのかを書いておくのです。そして、自分のベストコンディションを見つけ出すことが何より重要です。

 ある程度のレベルであれば、練習内容が大きく変わることはありません。100%の力を出し切れるかどうかが、一流選手と二流選手を分けるのです。そういうことを覚えていくのは10代のうちだと私は考えます。

 走るうえで、フォームは非常に重要です。理想としては一番速いのは100m走の選手の走り。ケニヤの選手の走り方はそれに近いです。

 私の場合、誰かのフォームを真似したという経験はありません。ただ、大学の頃には短距離の選手が行う「引き付け」や「もも上げ」、「切り替え」の練習に取り組んでいました。脚力を向上させるために「これはいいな」とかねてから思っていて、自分から進んで行うようになりました。その結果として、スピードを増すことができました。

 あまり長距離選手の練習メニューでは見られない光景かもしれませんが、マラソン選手であっても実はただ走るばかりではなく、こうした練習にも取り組まなければならないのです。練習しておけば、ここというところでスピードを出し、スパートを切ることができるようになります。逆に、やっていなければ絶対にできません。

 私の場合、大学時からマラソンに出場してはいましたが、取り組んでいた練習はマラソンではありませんでした。走る量だけなら、今の時代の高校生の方が多いくらいかもしれません。距離を走ればいいというものではないということも考えて、練習メニューを組み立てる必要があると思います。

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今回は、名ランナー・瀬古さんが第2回目の登場。瀬古さんによると、マラソンは大器晩成型のスポーツだそう。現在「思うような成果が出せない」と悩む若いアスリートの方に、ぜひ読んでいただきたいお話です。

イメージ 1 中学、高校で陸上競技に取り組んでいる皆さんの中にも、将来マラソンで活躍する夢を持っている人がいると思います。覚えておいていただきたいのは、走るという競技は、10代だけでなく、20〜30代を過ぎても頑張れる競技ということです。その時期こそが、本当のマラソン選手だとも言えるのです。特に女子で目立つことですが、その時期になるまでに枯れてしまう選手が少なくありません。

 今、日本のトップで活躍している選手の経歴を調べてみれば、顕著にわかります。意外と、中高生の時期はのんびり、伸び伸びと競技に取り組んでいる人が多いと思います。そして、二十歳を過ぎた頃からグーッと伸びていくのです。

 水泳でも、10代がピークのように思われていた時期があったと思います。早い時期に頑張らなければ終わってしまう競技ですから、致し方ない面があると思います。卓球なども、中学生がオリンピック選手になるなど、極端に低年齢化してきていますね。

 マラソンは、そういう競技ではありません。30歳を過ぎても伸びていくことのできる競技です。逆に言えば、ピークを30歳に置かなければ、マラソン選手として戦っていくことはできません。

 そのためには、大学に入るまでの若い時期に素地を作っておかなければなりません。陸上競技の基礎はトラックにあります。ロードではありません。トラック競技で養った力をマラソンに使う、という考え方が基本となります。

 駅伝というロード競技があります。駅伝は駅伝で、目標とする選手はたくさんいますから、存在価値があると言えます。しかし、将来さらに高いレベルを目指し伸びていくべき選手もいるわけで、それを十把一絡げに駅伝ばかりに力を注がせるのは考え物です。

 例えば、今、早稲田大学に竹沢(健介)君という選手がいます。日本代表として昨年もヨーロッパへ派遣した選手ですが、彼のような選手は世界を目指す選手ですから、駅伝の走り込みばかりではなく、やはり基礎を固める大切さを忘れてはいけません。

 その意味で大切なのは、やはり中学・高校生の時期ではないでしょうか。この時期にいかに走ることの楽しさを覚え込ませることができるかによって、大きな違いが生まれます。私自身も、もちろん、楽しいばかりではありませんでしたが、強制されて何かに取り組んだことはいっさいありませんでした。

中学・高校の時期は、走るばかりではなく、色々な面から体力を養うことが重要です。私自身は冬場には週1回はサッカーをしたり、野球やバスケもやっていました。また、当時はサーキット・トレーニングを数多く行っていました。鉄棒やハードルなど20種目くらい組み合わせて全身を使うのです。

 また、マラソン選手というのは365日走るものですが、中高生の段階では、休むべきときには休み、週に1度は他の競技にも取り組むようにした方がいいと思います。四六時中気を張っていたのでは、疲れてしまいます。そのままにしていると、ある日突然「ポキッ」と折れてしまうもの。そうならないように、伸び伸びと取り組んでもらいたいと思います。

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こんにちは、「トレログ」編集部です。先日の世界陸上の盛り上がり、さらに来年2月には「東京マラソン2008」の開催が予定され、ますます加速するマラソン・ブーム。今回は数々の世界的レースで優勝に輝いた名ランナー・瀬古利彦さんの登場です。真に強いアスリートになるためには? 瀬古さんのスポーツ哲学が垣間見えます。

イメージ 1 中学・高校生にとってはフルマラソンの42.195kmを考えることはもちろん早過ぎると思いますが、私が大学に入学し、中村清先生に「お前はマラソンに向いているからやりなさい」と言われたときも、自分には少し早いかな、という思いでした。ただ、入学までの1年間、アメリカ留学で指導者もいない環境にあった悩むことも多かった私は、先生の陸上競技に対する情熱に圧倒され、「はい」と即答していたのです。こうして、私はマラソンと出会ったのでした。

 私のマラソンは、ギリギリまで先頭についていき、終盤に勝負をかけるという珍しいスタイルでしたが、それは高校までトラックの中・長距離種目を走ってきた経験があってこそでした。マラソンで競技場が見えてくると、かつて800mや1500mを走っていたころの"血"がグワーっと沸き立ってきて、負ける気がしないほどの自信を持つことができたのです。

 中学・高校生など若い世代の皆さんは、まさに今そのトラック競技に取り組んでいることと思います。是非走りに楽しさを感じながら、練習に取り組んでもらいたいと願います。

 この世代では、練習内容について深く理解しているわけでもないでしょうし、先生に言われたメニューをこなすことも必要でしょう。しかし、「強制」の要素が強くなってくると、先生に対し反発する気持ちも生まれてきます。「やらされている」という気持ちが少しでもあれば、長く競技を続けることはできません。また、大学生になっても指導者に言われたことしかできないような選手になってしまいます。

 私は中学生の頃、野球部に所属していましたが、高校の陸上部時代よりも走っていたかもしれません。しかし、走ることで野球がうまくなれると信じ、自ら進んで楽しみながら取り組んでいました。高校のときも、先生にメニューの指示を受けることはありましたが、強制されている感覚はまったくありませんでした。それが、その後のマラソンとの出会いにつながっていたのです。

 また、走ることだけやっていればいいのではありません。私は冬場はサッカーをやったり、バスケットボールをやったりと色々なスポーツに取り組んでいました。その中で総合的なバランスの良い体力が養われていったのです。

 高校世代で夏合宿にかなりの量の走り込みを行うチームも少なくありませんが、そうした選手たちを見ていると、心配になることがあります。このまま「体が枯れて」しまって、大学生になったらつぶれてしまうのではないか、と。

 植物と同じで、幹を太くしなければ、大輪の花を咲かせることはできません。それを年中、大会の度に花を咲かせようとするから、幹が細いまま小さい花しか咲かせられない選手になってしまうのです。この点は、指導者の方々にも是非理解してもらいたい点だと思います。

 世界のトップのマラソン選手は、20代後半から30代に全盛期を迎えます。それは、10代のころにあせらず、じっくり幹を太くしてきたからなのです。若いランナーの皆さんにも、この点を心掛けてもらえれば、将来マラソンと出会ったとき、大きな花を咲かせられるようになるのではないでしょうか。

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