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スポーツ選手が必ずぶつかる、記録が思うように伸びないという「壁」。最終回となる山本さんの「トレログ」では、そんな壁を乗り越えるための、大切なヒントが詰まっています。
子供に記録が伸びず「辞めたい」と言われ悩んでいる方もいるかもしれません。そんなときに、言い聞かせてほしいのです。「辞めることは簡単。たけど、続けるのはとても大切なこと」。私も実際に、よく言い聞かせられました。そのことを胸に留め、あきらめずに頑張るからこそ、結果を出してこられたのだと思います。 こうした経験を経て、我慢することを覚え、我慢強くなりました。どんなことがあっても逃げ出さないようになれたと思います。我慢して努力していくことで、「芯のある」人間に成長できる、心が強い人間になれるのではないでしょうか。 努力を積み重ねて、一つの結果を出す。すると、「これだけ努力しなければ、結果は出ないものなんだ」と自分で理解できるようになると思います。それは、水泳以外のことにも生かすことのできる経験となります。そういう経験を、子供たちにはさせてあげてほしい。自ら理解できるようになるまでは、頑張らせてほしいと思います。 「もうひと伸びが足りない」そう思うような、壁を感じるときもあるでしょう。そういうときこそ、チャンスと考えてください。私にもそういうことは多くあります。その壁を乗り越えたとき、ぐんと記録を伸ばしていくことができるのです。 それまでは、我慢強く取り組むしかありません。自分のどこがいけなかったのか、どこが足りなかったのか、自分を見つめ直す良い機会だと思います。それを発見し、練習で問題の克服を目指していくのです。コーチの教えてくれることを素直に聞き入れ、粘り強く頑張っていけば、壁は乗り越えられるはずです。私も実際、そうやって乗り越えてきました。乗り越えたときには、苦しさの倍以上の喜びが待っています。その喜びを一度知った人は、次に同じように壁にぶち当たったときも、乗り越えられるだけの力が自然についていることでしょう。壁は乗り越えることで、色々な意味で大きく成長できます。そのチャンスを逃さないでください。 私の場合は、中学生のときにケガで半年泳げない時期があり、以前なら勝っていた友達にも記録が抜かれ、なかなか自分の泳ぎができなかったときが最初の大きな壁でした。しかし、その半年の間に地道にランニングをしたり、腹筋や背筋、腕立てなど様々なトレーニングを積み重ねたことで、中学3年生のとき、25mで5秒もタイムを縮め、中学校記録を打ち立てることにつながったのです。地道に努力を続ければ結果は出るのだということを実感しました。一度この喜びを知ると、次も何とか頑張っていけるのです。 こうした経験を経て、我慢することを覚え、我慢強くなりました。どんなことがあっても逃げ出さないようになれたと思います。我慢して努力していくことで、「芯のある」人間に成長できる、心が強い人間になれるのではないでしょうか。 努力を積み重ねて、一つの結果を出す。すると、「これだけ努力しなければ、結果は出ないものなんだ」と自分で理解できるようになると思います。それは、水泳以外のことにも生かすことのできる経験となります。そういう経験を、子供たちにはさせてあげてほしい。自ら理解できるようになるまでは、頑張らせてほしいと思います。
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【水泳】山本貴司
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「スポーツに取り組むときは、楽しむ気持ちを忘れないこと」これは、山本さんがトレログの連載のなかで、一貫して主張してきたテーマ。老若男女、誰でも気軽にはじめられる水泳の魅力にせまります。
スイミングは、生涯楽しむことのできるスポーツだと思います。水の中というのは、陸上での運動に比べ、ケガもそれほど起こりません。泳げない人であっても、水の中を歩くだけで運動になります。 また、水の音というのでしょうか、プールサイドで耳にする「パシャパシャ」という音、あれを聞いているだけでリラックス効果も大きいのではないでしょうか。ですから、ただ水に入って歩くだけで良いのです。心身ともにリラックスでき、良い運動になると思います。 水に入るだけで「気持ち良い」という感覚を、どなたも抱くのではないでしょうか。逆に、無理をして頑張ってしまうと、「しんどい」という気持ちが出てきてしまいます。日々「気持ちよかった」と思える程度で続けていくことができれば良いのではないでしょうか。身体に良いだけではなく、心の部分もすごくリフレッシュされて、ゆったりとした気分になれると思います。 その中で少しずつ、泳げない人であれば泳げるように、毎日取り組んでいれば徐々に慣れてきます。実際、私の義理の父も60歳を過ぎてから水泳を始め、今ではバタフライを泳げるまでになっています。水泳を始めるまでは、いわゆる「カナヅチ」だったのですが、4泳法がキッチリ泳げるようになったばかりか、「バタフライが得意種目」というレベルにまでなりました。しかも、私が見ても、上手な泳ぎをするのです。同時に、身体もシェイプされてスリムになり、元気になって健康も保つことができています。体力がついて、毎日生き生きとしています。 人間というのは、「楽しみ」を持つだけで生き生きできるものだと思います。端から見ていても「若い」と感じます。目がとても輝いていて、笑顔がとても良い表情になります。顔から充実感があふれ出ているのです。見ている周りが「良いものを見た、すごくパワーをもらった」という気分になるほどです。 大切なのは、無理をせず、自分のペースで行うこと。そうすれば、身体にとって、とても良いと思います。 腰痛を抱えながらの方もいるのではないかと思いますが、泳いだ後にアイシングをするなど、身体のケアをしっかり行うことで、コンディションがかなり変わってくると思います。また、ももの裏の筋肉が張っているとき、腰に来ることが多いように思います。ストレッチを念入りにやることで、身体の疲れを取ってあげることがポイントだと思います。 また、私たち選手であっても、練習の負荷は強い日もあれば、弱い日もある。内容に強弱をつけています。追い込む時期であっても、ある程度リカバリーの時間は身体に与えてあげなければなりません。ハードな練習ばかりで毎日押していけば、つぶれてしまいます。 年齢を重ねるほど、休養の重要度は増してきます。無理をせず、しんどいときには楽なメニューにしましょう。「休む勇気」が必要だ、ということがよく言われます。必要なときには、身体を回復させてあげなければなりません。コンディションが悪ければ、疲ればかりが溜まっていき、良い泳ぎはできません。良いコンディションで良い泳ぎをするということを第一に考えてもらいたいと思います。
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高校時代からオリンピックを目標にするようになった、という山本さん。のびのびと楽しんでいた水泳少年が、一流選手の道を歩み始めたその時、トレーニングはどう変化したのか? 興味深いお話が伺えます。
中学1年生の頃、バタフライを練習で多く行うようになり、まだ小学生から中学に上がったばかりで体ができていませんでしたので、肩の筋力不足で痛め、半年ほど泳げない時代がありました。「水泳をやめたい」と思ったこともありました。以来、肩は補強の練習を継続するようになりました。腹筋・背筋を鍛え、腰を痛めないようにもしました。 ただ、ウェイトトレーニングに取り組んだのは高校に上がってからです。私の場合は、中学生のときはただ伸び伸びと泳いでいました。体が大きくなりきっていない段階で鍛えすぎてしまうと、成長が止まってしまうのでは、という懸念もありました。体が大きくなり、成長が止まってからウェイトは行うようにしよう、と考えていました。練習で注意していたのは、良い泳ぎ、フォームだけでした。 よく言われていたのは「練習泳ぎをするな、練習から試合泳ぎをしろ」ということです。練習泳ぎとは、「楽な泳ぎ」のことです。それをやっていると、強くはなれません。「試合の泳ぎ」は長く続けることができません。それだけきつい泳ぎなのです。練習泳ぎなら、数多くの練習もこなすことができます。「こなす」だけの練習になってしまうのです。バテてもそうした試合の泳ぎで攻めていく。そして記録を出していけるかが重要なのです。もしへばってしまっても、良い泳ぎを意識して行うことの大切さを言い聞かせられました。 高校に上がると、そろそろ日本のトップを目指していきたい、そのためには筋力をつけて、体を大きくしていきたい、と考えるようになってきました。それまでいっさいそうしたトレーニングは行っていませんでしたので、私の場合は高校時代にグーンと記録が伸びました。 高校時代に記録が大幅に伸びた背景には、目標をしっかり持っていたこともあったと思います。その頃には、オリンピックに行きたいと思っていましたから。高校3年生のときにオリンピックがやってきましたから、1年生の頃から本当に必死で取り組んでいました。長期的な目標がありましたので、1年生のときはこう、2年生ではこの記録をクリアしていかなければ、などと色々と考えていた時期だったと思います。そのために、1日1日必死で練習していましたね。 また、高校入学を機に環境も変わったこともありました。新しい環境では、日本のトップの選手、自分が目標としている選手がたくさんいました。バタフライの日本チャンピオンもいましたから、練習から彼らの記録を越えていかないことには、勝つことはできない、オリンピックには行けない、という思いがありました。ですから、練習の中でも、常にそうした人の記録を気にして、その記録を抜くように努力していました。今日は何本勝てたのか、と。環境が変わったことは、自分にとってとても大きかったと思います。
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「一流のスポーツ選手は、子どものころから厳しい練習をしているもの」とは、誰もが想像するところ。2回目の登場となる水泳の元金メダリスト・山本さんのお話は、スポーツで成長するためには「楽しむ」ことが何よりも大事だと気付かせてくれます。
小さいお子さんをお持ちの親御さんの中には、そろそろスイミングを習わせようかと考えている方もいらっしゃることでしょう。私も上の子がもうすぐ2歳になります。自分が水泳を始めた3歳頃には泳がせ始めようかと考えています。 自分自身がそのくらいの歳の頃、何を考えて泳いでいたのかは、実はよく覚えていません。気がついたら通っていた、という感じです。 親が私を水泳に通わせた理由は、一人っ子だったということもあり、団体生活を行ったり、や友達と仲良くしたりということに幼稚園に入る前に慣れさせるためでした。実際、通っているうちに、一人っ子とは思えないほど人懐っこくお調子者の子供になっていきました。みんなを引っ張っていくくらいまでになりましたね。 やっていることと言えば、水の中に入って遊んでいただけです。水中ジャンプだったり、スクールには滑り台で遊んだりと、まさに「水遊び」です。「水の中で遊ぶのはこんなに面白いことだよ」ということを教えてくれていたと思います。プールへ行って遊ぶことが楽しい、と思える環境を作ってくれていました。 小学校に入った後も、私の場合は選手クラスに上がったのが4年生の頃だったので、タイムなどを気にし始めたのはその頃になってからです。それまでは、一つ一つの泳法をじっくり教えてもらい、泳ぎ方を覚えるという段階。泳ぐスピードなどはまったく気にしなかったですね。 当時はバタフライなどといった段階までも到達していませんでした。4年生で選手クラスに上がったため、四泳法を学びきっていなかったのです。泳ぎの段階が「〜級」という形で決まっていまして、私は5級くらいで選手クラスに移ったためです。1級まで習っていれば、バタフライまで教わっていたはずです。 選手クラスに入ると、それまで週1、2回しか通っていなかったのが、いきなり毎日通って練習漬けになりました。「俺、選手になんてなれるのかな」と感じながらでしたが、行けば行ったで友達と一緒に泳ぐのが楽しくて仕方ありませんでした。何をするにしても皆で競争させる選手クラスのやり方が自分の性格に合っていたのだと思います。負けず嫌いでしたので、何が何でも隣の友達には勝ちたい、という気持ちがありました。まさに私にとってはピッタリの環境でした。 小学生の頃は、泳ぎで悩むことはありませんでした。毎日が楽しかったですから。「プールに遊びに行っていた」という感じで。学校が終わると練習が始まるずっと前からプールに行って、更衣室で野球をして汗だくになってからプールに入る、という調子で。友達と遊ぶのが楽しくてしょうがなかったのです。選手クラスへ移ってからも、泳ぐ楽しさが私を毎日プールへ向かわせてくれたのでした。
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今回は、2004年アテネオリンピックでの銀メダル、さらに今年の世界競泳での金メダル獲得も記憶に新しい、水泳選手の山本貴司さんが登場。厳しい練習へのストレス、記録が伸びないことの不安・・・・・・誰もが経験するそんな「つまづき」を、どう乗り越えるか? 山本さんの常に前を向いて物事を考える姿勢が伺えます。
初めまして、水泳選手の山本貴司です。このトレーニング・ブログで、各世代のスイマーの皆さんが、今抱えている課題をどのように克服し、記録を伸ばしていいのか、私の経験もまじえてお話していきたいと思います。 私はどちらかと言うと、記録よりも勝負が気になるタイプのスイマーでした。とにかく勝ちたい、一番になりたいという一心で泳いでいました。結果として、それに記録がついてきていたという感じです。日本記録に近付いてきて、初めて記録のことも気にするようになりました。日本記録まであと少しに迫ったとき、一番記録を出したいと思うようになりました。 3歳半のときに水泳を始め、かれこれ26年ほどになります。水泳にどっぷりハマりきらなかったことが、長く続けられている理由ではないでしょうか。スイミングを楽しむ気持ちは、この歳になっても持ち続けています。 自分でも、切り替えがうまいのだと思います。練習では集中して頑張るのですが、それ以外の時間には、水泳のことは考えもしませんし、友達とサーフィンに行ったりなど、遊びに行くことで頭がいっぱいなくらいです。十分に気分転換することで、水泳でストレスが溜まったりすることもなく、しっかりリフレッシュし、また練習に集中できる、という繰り返しです。 ひとたび集中すると、グッと自分の世界に入り込むことができます。本当に、周囲の雑音がまったく耳に入らなくなるのです。マイケル・フェルプスなど、自分が目標としている選手が自分のすぐ前を泳いでいるシーンをイメージして練習に取り組めるほどです。自分がバテてきたときに、パッとそういう状況を思い浮かべて、踏ん張ることができるのです。 厳しい練習に取り組む中でも、本気で水泳を辞めたいと思ったことはなかったと思います。強いて言えば、シドニー五輪の後に少し泳ぎたくなくなったことはありましたが、結局は泳ぎたくなってくるんです。ブランク明けのころの気持ちも、そういう感じだったと思います。 もちろん、私にも何年も記録が伸びない時期がありました。しかし、そういう時期が長ければ長いほど、結果を出せたときの喜びは倍以上にもなります。「やってて良かった」という気持ちになるのです。そうしたつまずきが多いほど、乗り越えたときにはより大きく成長できていると思います。 つまずくということは、自分に何かが足りない状況です。そこで辞めてしまったら、今の自分よりも成長することはできません。つまずいてもあきらめずに頑張ることで、少しずつでも成長していくことができます。 逆に言えば、つまずいたときこそ伸びるためのチャンス。私は、そういうときこそ自分を見つめ直して、何がダメなのか、今自分に何が一番必要なのかをよく考え、頭を使って取り組むようにしました。 練習でも、考えて泳がなければ身にならないし、強くなりません。100mを泳ぐにしても、例えば200mの後半の泳ぎを意識して、最後の50mでぐーっと記録も上げていけるようにイメージするのです。自分なりにそうしたシミュレーションを行いながら練習すれば飽きもきませんし、トレーニングに集中していけるのではないでしょうか。皆さんもあきらめず練習し、是非壁を乗り越えてもらいたいと思います。
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