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社説[陸自訓練死判決]「命の重み」受け止めよ
沖縄タイムス
2013年3月31日
札幌市内の陸上自衛隊駐屯地で2006年11月、沖縄市出身の1等陸士、島袋英吉さん=当時20歳=が格闘訓練中に頭を強打し、翌日に外傷性硬膜下血腫などで死亡した。この「事故」をめぐって、両親が国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、札幌地裁(石橋俊一裁判長)は国の安全配慮義務違反を認め、約6500万円の支払いを命じた。
訓練は「徒手格闘訓練」と呼ばれる。急所などを突き、投げ技や関節技などを総合的に駆使して相手を殺傷する戦闘手段を身に付けるために行われるという。
この訓練について地裁判決は「生命身体に対する一定の危険が内在している」と指摘した。危険に対する認識が指導教官らにどれだけあったのか。自衛隊の訓練であっても「指導に当たる者は、内在する危険から訓練者を保護するため常に安全面に配慮し、事故の発生を未然に防止する注意義務を負うべきである」との判示は当然である。
一方、指導教官らが訓練を逸脱した「暴行」を故意に加えた、という原告の主張は認められなかった。島袋さんの遺体に残された肋骨(ろっこつ)骨折や肝臓損傷などの傷は「通常の訓練やその治療行為で生じた可能性がある」と判じた。
あらためて問いたい。これは「事故」なのだろうか。
「二度と同じ事件を起こしてはならない」「多くの人にこういう事件があったことを知ってほしい」。判決を受け遺族からは「事件」の再発防止を願う声が相次いだ。偶発的な事故とは受け止めがたい遺族の無念さが伝わる。
自衛隊の格闘訓練は負傷者が後を絶たない。陸自に限定しても、04〜10年度で骨折など527件に上る。空自では10年度に地上で発生した業務中の事故(100件)のうち徒手格闘訓練は半数を超える54件だ。前年度(12件)比で4倍超に上っている。
一方、訓練死や内部のいじめで自殺した自衛官の遺族らが国を提訴する「人権裁判」は過去5年で10件を超える。国外任務が大幅に増え、隊員のストレスが募っていることも要因に挙げられている。
島袋さんが所属する陸自北部方面隊は、自衛隊イラク派遣の第1陣だった。
自衛隊は、内部の事故やトラブルにかかわらず情報開示に積極的とはいえない。しかし、隊員の勤務状況の改善に関わる課題は、安全保障上の軍事機密とは別次元の問題だ。訓練の名目で自衛隊員の人権が踏みにじられることがあってはならない。
今回の判決後、弁護団は島袋さんの訓練を指導した当時の隊長ら3人を再び刑事告訴する方針を明らかにした。
札幌地検は11年3月までに業務上過失致死容疑で書類送検、告訴された3人を嫌疑不十分で不起訴にした。札幌検察審査会が処分を不当と議決し、再捜査したが、12年12月に再び不起訴にしている。
民事訴訟で国の責任が認められたが、刑事責任は問われないのか、との疑念は湧く。再発防止のためにもさらなる真相究明は不可欠だ。自衛隊には再発防止に向けた対策の徹底と公表を求めたい。
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-03-31_47341
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