私的な考古学

丹沢山麓で考古学を学ぶ学生諸君との対話

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さて日本考古学協会の所蔵図書が海外へ放出されることへの反対意見が高まっているらしい現在の情勢を前に、会員の方々には、これまでの経緯を振り返っていただきたい、と切に申し上げます。

2006年度の総会において、協会蔵書の一括寄付が承認されたという厳然たる事実を、です。

この決定が意味するところもおわかりいただけるかと思います。すなわちこの時点において、日本考古学協会は所蔵図書の保管と活用を自力で行う意志を明確に放棄したのです。併せて以後の保管と活用は、誰か他人様に委ねることを表明したのです。自己責任の放棄と他力救済要請宣言とでも言いましょうか。このような重大な総会決議を、誰の目にも疑問の余地なく明確におこなったのです。

だからこの時点以降、現在に至るまで、日本考古学協会は図書の取り扱いに関し、学会としての自力救済ないし自助努力を前提としてはおりませんし、そうした模索は無駄であり、協会員の総意に反する行為であることを思い知らされたはずなのです。「海外放出反対会」の方々を含む皆さんの総意のもとに、そう決まったのです。今をさかのぼること5年前の2006年度春に、です。

そして、この決議は現在に至るまでの非常に大きな、かつ重大な意味を持ち続けています。当然のことながら、理事会側はこの決定を踏まえて寄贈先を探す手続きを進めました。他力本願の実現可能性が担保される拠り所を探す、という誠に情けない手続きを、です。自力救済の途は、すでに5年前に協会員の総意のもとで完全に閉ざされたのですから、この総会決議に拘束されたがゆえのことです。繰り返しますが、それは5年も前のことですよ!

こうした厳然たる経緯をふまえながら、最近(2010年9月)自宅に配布された会告「2010年度臨時総会開催のお知らせ」にある「海外放出反対会」の意見書「まず国内に!海外寄贈に反対する」<資料2>を拝読すると、これまでの経緯にかんする彼らの理解については、事実とそぐわない部分がいくつもあることを指摘せざるをえません。

では件の文章を引用しながら検討と解説を加えることにしましょう。

「そこに行けばいつでも誰でも必要な報告書や図書、雑誌が気軽に利用できる、そんな場所が欲しい、いや必要である、との共通の思いから、私たちは、長年、日本考古学協会に図書を提供してきました」(「2010年度臨時総会開催のお知らせ」<資料2>、L.1-3)とあります。

仮にここで示されたような思いを抱く会員の方々がいたとしても、その願いが潰えたのは5年前の総会の時であったはずです。今年度ではありません。時制の問題が曖昧ですね。つまりこの文章を正確に添削するならば、「私たちは今を去ること5年前までは」を冒頭に挿入する必要があります。あるいは「私たちは長年」の部分を「私たちは5年前まで、ずっとそれを信じて」と訂正すべきでしょう。そうしなければ事実関係を正確に伝える文章にはなりえません。試みに上記の添削結果を反映させながら再度文章を読み直していただければ幸いです。ニュアンスがまったく異なってくることがおわかりいただけるかと思います。

事実関係の正確さを点検せずに、こうした情緒的な文章を冒頭にもってきた意図は、会員の感性に訴えかけるためであろうと推察されますが、同時に厳然たる事実関係を表に出さずに主張の正当性を補強しようとの意図が働いたがゆえの、姑息な修辞だと断言できます。

なぜか。その理由は「共通の思いから、私たちは長年、日本考古学協会に図書を提供してきました」との表現が、事実とは大幅にかけ離れた虚構ないし創作であることを証明できるからです。

この文章の執筆者がここで読者に伝えようとしているのは「将来的に日本考古学協会が考古学文献センターを作る」(「反対有志の会」著「日本考古学協会理事会見解に対する私たちの意見」協会HP掲載文書から)という、はるか以前にはお題目となっていた可能性のある「将来の夢」の実現を信じてひたむきに邁進してきた会員像なのでしょう。しかしながら、まずこのような夢物語は、遅くとも5年前には完全に潰え去った事実を再確認しておきましょう。

次にこのような夢物語が果たして本当に「共通の思い」だったかどうかについての検証が必要になるでしょう。会員である多くの読者の方々も、この部分には違和感を覚えるはずです。長年協会に図書を提供し続けた真の理由は、実は別のところにあったことを、数多くの会員は基本認識として共有しているはずだからです。

ご承知のとおり、日本考古学協会の総会時には図書交換会が開催されます。各地の報告書や学会誌が販売されるのです。そのとき、交換(実質的には販売)用の図書については、所場代として会場校に一部、協会に一部を上納する決まりになっていました。今年度の春に協会分の上納が停止されるまで、これは慣例として長らく続いていたのです。

現在問題となっている協会所蔵図書が5万6千冊余を数えるまでの増加要因は、実際のところ、こうした慣例が繰り返されてきたことによるものなのです。日本考古学協会に会員が図書を無償提供してきた実質的な理由は、いつ実現するのか皆目不明な夢を信じたからでは決してありません。そんな夢物語に数多くの会員が乗せられたのではなく、その年ごとに(販売を希望する年度ごとに発生する)図書交換会での販売権を獲得するための引き替え条件だったからなのです。「上納」という切実な事情ゆえのことだったのです。この点は誰の目にも明らかな、自明の事柄ではないでしょうか。もちろん、お題目はいつでも唱えられますし、必要なときには引き出すこともできるでしょう。「善意で」という主張もありでしょう。「考古学文献センター」実現に向けた将来構想のもとに、であってもなんら構いません。しかし私がここで問題にしたいのは、総会時の図書交換会と密接不可分な関係のもとに捉えられるべき事柄であることです。図書の寄贈を促す仕掛けと仕組みが背後で作動していた事実です。

さらに申し添えましょう。図書交換会には各地方自治体が刊行する発掘調査報告書も堂々と出品されています。行政文書としての側面を併せもつ刊行物がなぜ協会の総会会場で販売可能になるのか?というカラクリについては、ここでは立ち入らないことにしましょう。相応の工夫が凝らされて現在に至っています。こうした場合、図書交換会に供される発掘調査報告書については、事前に日本考古学協会に役所名で寄贈されていることがあります。するとどうなるか。その場合には図書交換会において当該図書を協会へ上納せずともよい仕組みになっていたのです。会場校への供出だけで済むことになっていたのです。

要するに、毎年日本考古学協会での図書交換会において、行政機関で刊行する発掘調査報告書を販売することを目論む会員がそれぞれの行政に所属している場合、事前に別の理由づけのもとに日本考古学協会に報告書を寄贈するためのルートを構築し、既成事実化しておけば、年ごとに手続きを繰り返さなくてもよくなることを意味します。もちろん、図書交換への条件整備が主目的で図書を寄贈することがあった、などとは言いません。文章に綴られたとおりの願いや思いがあったことも認めてよいでしょう。

しかしここで問題にしているのは、図書交換会をめぐって上記のような仕組みが現実に作動していたという事実です。

なおこの点の事実関係については「反対有志の会」ご当人の証言を参照しながら考察することにしましょう。「政機関が刊行図書を寄贈するときは、関係部署の決裁を必要とする。日本考古学協会を寄贈先に加えるにあたり、行政職員の多くは『将来的に日本考古学協会が考古学文献センターを作るために集めている』といった内容のことを決裁書類に記しているに違いない(さもなければ許可されないだろう)」(日本考古学協会HP. 掲載、7月30日付け「反対有志」「日本考古学協会理事会見解に対する私たちの意見」から)。とありますが、上述の図書交換会にまつわる仕組みを念頭に置きながらこの文章を読み直してみてください。記述者の真意がどこにあれ、客観的に読めば問題含みの文章であることがわかるはずです。

すでにHPで公開済みですが、この文章については「今を遡ること5年前までは」との挿入が是非とも必要であることを申し上げておくにとどめましょう。

もちろん私とて業界人ですから、そうだったのか!そうした裏方での苦労があったのか!という同情までは、やぶさかではありません。これ以上は踏み込まないことにしましょう。とはいえ、この部分にかんする私の記述内容と含意については、ある程度まで納得いただけるのではないでしょうか。

今日のところの結論を申し述べます。「海外放出反対会」の意見書「まず国内に!海外寄贈に反対する」の冒頭の部分で述べられている内容は、事実関係において不正確きわまりないものです。最低限のモラルとして、時制の問題をしっかりと明記していただきたく思います。5年前に失効した事実をもごちゃ混ぜにして現理事会の行動を「暴挙」と断罪し異議を唱えられても対処不能だからです。

さらに感性に訴えかけようとする修辞の部分においては、虚飾と美化(いわゆる自家撞着)が目立ち過ぎです。ですから、その後の主張を展開する前提認識としての客観性を確保するにはほど遠い文章になってしまっているのです。遺憾でもありかつ残念ではありますが、この点を指摘せざるをえません。

言い換えますと、この冒頭部分の引用文は、過ぎ去りし過去への願望や、現状への苛立ちが深く関与した結果だといえるでしょう(続く)。


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