私的な考古学

丹沢山麓で考古学を学ぶ学生諸君との対話

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遺跡の調査報告書の取り扱いをめぐり、日本国内の国公立図書館においてどのような動きがあるのかを考える素材としての話題提供をいたします。いままで小耳に挟んでいたはいたものの、私とて詳細を覗くのは初めてですので、誤認や曲解があるやもしれません。深くご承知の方には適宜修正を願うことにしましょう。

写真は当該HPのトップ画面です。「遺跡資料リポジトリ」というHPです(このHPの所在地は宮崎県博の我がoddman先輩に教えていただきました)。島根大学発で、現在は19の国立大学法人が加盟しており、相互の連携業務として、遺跡の調査報告書を電子化する作用を推進しているようです。その事業の経緯や概要を紹介する文章は次のとおりです。

「日本国内で調査,発行される遺跡調査報告書は夥しい数に上るが,印刷形態が中心であり少部数発行の寄贈扱いのため流通範囲も限られる。各図書館や資料館等でも整理作業の負荷や増加し続ける収納スペースに苦慮している。本事業では,機関リポジトリで研究成果公開に実績のある各大学が,各県域の自治体担当部署と連携・協力しながら,リポジトリ仕様(OAI-PHM)により統合検索システムで電子版調査報告書の相互利用体制を構築し,研究・調査資料としての利活用や貴重な文化遺産記録の公開を推進する。」(当該HP「遺跡資料リポリトジの概要」から)とあります。

各大学のサイトを見れば、電子版の報告書が現在でも一部ダウンロード可能になっています。発行部数の少ない報告書を、いつでもどこでも閲覧可能な状態になる日もそう遠くないのかもしれません。それこそiPadが本業界でも大活躍する日は近い、と喜ぶべき夢の到来でもあるのでしょう。

さて上記の引用文で、もっとも重要な箇所だと思うところは、「増加し続ける収納スペースに苦慮している」現状の打開策の一環として、本事業が位置づけられているという背景説明の部分です。報告書の発行部数が少ないことや「公開を推進する」という表側の謳い文句だけに着目していたのでは、物事の重大な側面を見落とすことになるのです。発行部数が少ないのに「収納スペースに苦慮」する現状が吐露されている部分は特に要注意です。

この問題の部分については英文も引用しておきましょう。より一層の深刻さをもって語られる実情があるものと読み取れます。
In addition, every library is struggling against a heavy load of tasks to store them in order and ever growing shortage  of storage space.(同上から)

もはや加盟するすべての国立大学附属図書館における報告書の蔵書量はout of orderの危機に直面しているというわけです。

その打開策として打ち出されているのが電子版報告書を作成することなのですから、現在収蔵に苦慮している膨大な印刷形態の報告書は、その後どうなることが予期されているのでしょう。「収納スペースに苦慮」する現状から開放される解決策とは、すなわち印刷版の破棄です。至極当たり前の結果を意味するのです。もちろん、各館の地元都道府県関係の報告書については紙ベースの報告書を永久保管し、電子版についても保存用と閲覧(ダウンロード)用に解像度を変えたものが作成されるようです。とはいえ、他府県から寄贈を受けた報告書については、各館の裁量に委ねられるのですから、状況次第で今後破棄が可能になることを意味するのです。謳い文句の影に隠れた事後処理の実態をこそ、ここでは読み取っていただきたいのです。

そして本事業に加盟する大学が今後増加し、都道府県の県立図書館にも加盟する館が増えてゆけば、それぞれの館が、現在保管ないし所蔵し「その収納スペースに苦慮している」遺跡の調査報告書の現物はどうなるのでしょうか。全体の方向性は明らかです。電子版の報告書の完成と引き替えに、今後各地の国公立図書館において、他府県からの寄贈分は「破棄できる環境」が普遍化してゆくことを意味するのです。

現実問題としても「○○遺跡調査報告書」は行政文書として処理されるべきだとの基本的な考え方が図書館側からも強く押し出されつつあり「それは図書館ではなく公文書館行きでしょう」と、図書館への収蔵を拒絶される現実もあるのです。行政文書ですから、一定期間保管された後は、当然廃棄です。それよりは、リポジトリ仕様の電子化に供する方がはるかに「まし」であるし夢がもてることも事実です。私が本ブログ9月26日付けの記事の中で、現在は報告書をめぐる構造的な<氷河期> にあると申し上げた事柄の一角は、こうした厳しい現実として私たちの前に立ち現れ、現に始動しているのです。

そういえば、かつて私が徳島大学に勤務していたとき、地元県立図書館に報告書を1部寄贈したら、図書館から「是非あと2部を」と追加寄贈の要請があったことを思い出します。1部は永久保管用に、1部は閉架書庫に、最後の1部は開架図書の郷土史コーナーに、とのことでした。90年代後半のことですが、もはやああいった時代は、完全に過去のものになったようです。県立図書館はどうなのか知りませんが、前の勤務先は既に加盟館ですから、暗く雑然としたあの書庫の整理が進むのでしょうね。確か本館については一部増築のための立ち会い調査をやりましたね。蔵本別館の増築に先立っては本調査を行いました。もちろん法人化前の国立大学であった頃のことです。そんな過ぎ去り過去を、さすがに寂しい気持ちと共に思い出します。もちろん抗えない現実であることを直視しなければなりません。

懸案の問題へと戻りましょう。2008年度の理事会の席で、この際、印刷版報告書をまとめて国外へ避難させようと言った私の主張は、はたして本当の意味で暴論でしょうか。決してそうは思えません。印刷版報告書が貴重な文化遺産であるとお思いなら、その保護策を講じようとする場合、国内の公的施設では所詮無理があるのです。というより「公的施設の方がむしろ危うい!」という構図はおわかりいただけるはずです。

付言しておきますと、今回のようなリポジトリ事業が立ち上がった背景には、国立大学の法人化も背景に絡むものと思います。図書館の増築予算をどこからどう確保するかの問題です。文科省からの直接確保(当時は「施設整備費」概算要求と呼んでました)が閉ざされた現状だからこその工夫の一環でしょう。加盟大学がすべて国立大学法人であることからも、それはうなずけます。伝統的におしなべて横並びになりがちなのです。この点、むしろ民間の私立大学の方が、かねてより国からの補助は私学助成金しか見込めないことを前提とした経営でしたので、予算の問題でいえば、あくまでも可能性ですが、個別の動きがありえます。こうした点は、私自身、民間に移籍してみて初めて実感できる事柄です。そして海外放出反対有志の会の一部の方々へ投げかけてみたい応用問題を提示しておきます。
日本考古学協会所蔵図書の寄贈先として相応しいのは、皆さんが慣れ親しんでいるはずの日本の大学に関して言えば、さて国公立組織でしょうか?民間組織でしょうか?「論理」の問題ではありませんよ。あくまでも「地に足のついた議論なのか」どうかを問う問題です(flyingmanを自認する私が言うと説得力に欠ける台詞になってしまいますが)。

臨時総会を直前にしてのお願いですが、日本考古学協会の会員の皆様には、現状の動向を踏まえてどうかよくお考えいただきたいと、改めてお願いしたいところです。

それと臨時総会に欠席なさる場合には、決議行使書の投函を是非ともお願いいたします。理事会案に賛成を、とお願いしたいのは山々ですが、そうでなくとも構いません。会員の総意を把握することがもっとも重要なことであると、理事の一人としては無理矢理にでも格好をつけなければならないからです。

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お久しぶりです。

2010年度兵庫大会を成功させようとジタバタしている「水享」です。
flyingmanさまの論説に、全霊を持って賛意を表します。
しかし、当日の臨時総会の行方は奈辺にあるのでしょう。
問題の本質については、協会員ではない私には論じる資格はありません。
しかし、兵庫大会の事務局を任され、2年間にわたり兵庫大会のシナリオづくりに専念し、そして奔走し、
その舞台のこけら落としを間近に控えた老プロデューサーにとって、今回の協会の「騒動」はたいへん
厳しい事態です。
こうした現状を鑑み、想定の外とはしても、もしも総会が混乱し、そのことに起因して午後からの講演会と
第1分科会が開催不能となる事態も考慮し、「プランB」の構築も余儀なくされています。
むろん、そうならないことを願うばかりです。

当日の夜の部では、flyingmanさまと私とY本くんと一緒に司会を務めることになりました。
その場では、皆さんとともに大きな仕事を終えた満足感を共有しつつ、そして寛いだ、和みの兵庫の宴を
演出したいものです。

2010/10/6(水) 午後 10:54 [ 水享 ]

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来週はお世話になります。臨時総会という前代未聞の事態を招いたことの結果責任は当然理事会にもありますから、その末席を汚す者として、実行委員会の方々にはお詫び申し上げます。
臨時総会にどのくらいの会員が出席されるのか不明ですが、一般社団法人の決まりでは600名ぐらい揃わないと、重要事項の決議は不成立なのだそうです。もちろん周知されている議題については、全会員に決議行使書が配布されていますし、目下投函を呼びかけていますので、その集約状況次第でしょうね。
総会が混乱して収拾がつかなくなる状況だけは絶対に回避したいと強く思います。前半は罵声の応酬で始まり、しかし後半には決議行使書の集計結果が読み上げられて採決され、自動的に方向性が決まり、その結果を踏まえて整然と閉会し、粛々と次の大会プログラムへと齣を進める。そのような理性的な総会でありたいものです。私も非力ながら、そうあるべく努めたいと思います。
もし理事会案が否決されたとしたら、夕方の懇親会の司会を淡々と務める心境になれるかどうか少し不安が。まあその時には器用な山本君に全てを任せて、水享さんにお付き合い願いながらやけ酒でも飲みましょうか

2010/10/6(水) 午後 11:29 [ flyingman ]

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了解いたしました。

プランAの完全遂行を目指します。
会員のみなさまが兵庫での大会をお楽しみいただけるよう、精一杯おもてなしをさせていただきます。
ご期待ください。

2010/10/6(水) 午後 11:36 [ 水享 ]

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有り難うございます。影の(実質的な)実行委員長のお役目、なにかと大変かと思いますが、どうかよろしくお願いします。

2010/10/7(木) 午前 7:34 [ flyingman ]

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北條様、拙ブログ『考古学的言説空間』に、昨日いただきました宿題エントリーをアップいたしました。本日、身近に、「利用率低、寄贈3年後廃棄」ポリシーの存在のはなしもうかがいました。未来へのシミュレーションを含みこんだイマジネーションの大切さをひしひしと感じています。

2010/10/7(木) 午後 8:06 [ 溝口孝司 ]

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拝読しました。背景説明での引用をいただき、ありがとうございます。もちろん人のことは言えませんが、溝口さんも結構長い文章を綴りますね。私は連夜の徹夜状態が祟りそうで、今夜はもはや限界です。

2010/10/8(金) 午前 1:44 [ flyingman ]


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