私的な考古学

丹沢山麓で考古学を学ぶ学生諸君との対話

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満51歳になった11月26日(土)には遺跡資料リポジトリのワークショップなんとかを終え、安里進さんから依頼されて頭を悩ませ続けてきた沖縄県八重山郡与那国町史の原稿「与那国のあけぼの」を、今朝ようやく入稿し終えました。これから今週末12月3日に逗子市で開催される、神奈川の前期古墳に関する講演会資料の作成に入ります。頭の切り替えになんとか慣れたとはいえ、いささか疲れを覚え始めました。

さて国立情報学研究所を会場に行われたワークショップには、東海・関東の広い地域からの参加者をえました。とはいえパネラーや事務局側のメンバーを除くと20名弱となり、首都東京の千代田区で行われたにしては、ごく小規模な会議であったと言わざるをえないのかもしれません。

ただし個人的には、今後の方向性に関して有益なヒントを頂けたものと思います。とりわけ強力な推進論者たちが居並ぶ中で、若手の行政担当者としての率直な意見を述べてくれた沼津市教育委員会のK村君には感謝します。

本学の卒業生でもある彼がどのような意見を示してくれたかというと、次のようなものです。すなわちリポジトリ事業を積極的に推進すべきとの主張を行政の担当者から見れば、当面のところは研究者間の研究環境整備としか映らない。その意義を認めるものではあるが、需要は限定的である。いいかえれば専門的な性格をもつ発掘調査報告書をネット上で公開するからといって、それがただちに「国民共有の財産を皆のものに」する事業である、という論理には現時点で飛躍がある。市民や国民への還元については間接的なものでしかない。だから行政側が本事業に踏み出すためには、市民側に受け止められるだけの相応の説明が必要であり、報告書本体を開示することがどのような意味で市民にとって意義のある情報提供行為になるのかをもっと積極的に打ち出して欲しい。という趣旨のものでした。

至極もっともなご意見だと思います。このご意見について私見を述べれば、本事業は個別自治体から刊行される報告書が、文化庁のいう「適切な調査にもとづく客観的な報告」であるか否か、まさしくこの点についての点検がすべての人々によって可能になる環境の整備であり、個別報告書が専門家から一般市民に至るまでの幅広い批判に耐えられるものであるのかの判断を、開かれた場のもとで可能にし、客観性を担保する事業であるといえるかと思います。その意味では、公共事業がまさしく公共であることを市民の方々に胸を張って主張する格好の材料になりうるものだと思います。

報告書の執筆者に対しては、一面では厳しいものかもしれません。しかしそのような環境整備なくして公共性も主張しえませんし、そうした姿勢が求められている御時世なのではないか、そのように思います。

学界にとっても同様です。旧石器のねつ造問題を未然に防ぐことができなかった学界が襟を正し、専門家集団としての存在証明を今後とも主張する効果的な素材としても、そしてK村君のいうような研究環境の整備という観点からも、本事業は必要不可欠な試金石ではないか、と思うのです。

K村君にとどまらず、関東の3県からわざわざ出席いただいた行政担当者の方々には心から感謝します。と同時に、本事業の定着と波及に向けて今後とも注視し、機会があれば積極的に動いていただければなによりかと思います。以前から本事業の必要性を唱えてきた研究者や、考古学分野への厳しい視線を向けてこられた文献史学者側からは、会場でも厳しいご意見が発せられました。考古学界全体に主張の真意が必ずしも届いていないことへの焦りと苛立ちが確かに含まれておりました。しかし、そのような声に怯むことなく、本事業のもつ意義を冷静な眼で見つめていただければ、と思います。

つたない?偏向した?コーディネーターのもとでの議論でしたが、文化庁の水之江さんを含め、東京会場のワークショップに参加いただいた皆さんには深く感謝いたします。

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閉じる コメント(6)

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K村です。取り上げていただきありがとうございます。誤解がないように付け加えますと、私個人はこの事業に賛同しており、どのようにしたらこの事業に参加できるのかを聞きたくてワークショップに参加しました。行政の最大の特徴は永続性(倒産しない…はず)で、この事業を行政が参加していくには、科研費に頼らない方法が構築されていくべきだと思います。発表にもありましたが、継続性が問題となっている状態のものに、公共団体が参加するのはやはり勇気がいります。「世の中の多くの報告書を発行している行政に二の足を踏ませない仕組みづくり」こそ、すそ野を広げていく最大の近道ではないかと思うのです。このような思いを持っていたので、行政からの参加者が少なかったことは、残念だったなというのが感想です。はやく見たい報告書がDLできる環境になればと心から思います。そうすれば先生もおっしゃるように研究の精度もあがるのではと期待しています。

2011/11/28(月) 午後 8:44 [ KIM ]

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昨日の勇気ある発言に引き続き、今回も真摯なご意見を書き込んでくれてどうもありがとう。
永続性の担保については、確かに頭の痛い課題です。各国立大学付属図書館に窓口を、というのは安心感を与えるものの、予算が削減されてゆく昨今の環境下での永続性は到底期待できないよ、との昨日のご報告でしたからね。しかし「そんなことだったら最初からしない方がまだマシ」ということになるのでしょうか。そのような方向に誘われて不作為に正当性を与えることだけは避けたいのですが...

2011/11/28(月) 午後 10:38 [ flyingman ]

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「最初からしない方がまし」とは一切思いません。参加しないことが恥ずかしいという状況を作り出すのも一つの手だと思うのですが、どこかで永続性を確保するシステム(それが何か私には今のところ具体的な案は見つかりませんが)を議論して構築していくことは、必要になってくるのだと思います。討論のときにもありましたが、「未来へ向けて」の議論が必要で、まずは、関心を持つ人間を増やすこと、その方法としてDLできるpdfの本数を増やすことも必要なことだと思います。

2011/11/28(月) 午後 11:28 [ KIM ]

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現実には「将来性が不確かな試みに安易に乗るのは行政として避けるべきだ」とのご意見が多いように感じます。その言説自体は至極真っ当ですしね。ダウンロードできるpdfの本数は目下増加しつつあるのも事実です。しかしもう一方で、未だに「欲しい」と思う報告書がアップされてて良かった、と思う場面に私自身遭遇していないのも事実。今後の課題は満載ですね。

2011/11/29(火) 午前 0:34 [ flyingman ]

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広大62生の鈴木 徹です。ご無沙汰しています。ワークショップには参加申し込みをしておきながら,家庭の事情でドタキャンしてしまい,申し訳ありませんでした。
調査報告書をweb上で公開することの“意味”は何でしょうか。考古学研究者であろうとなかろうと,「情報の共有」であるはずです(3.11震災後,過去の地震・津波痕跡の調査報告が注目されたように)。紙媒体では,手続きさえ踏めば可能なのですが,どうしても閲覧の機会が制限されます。情報が制限されてしまう環境が問題なのだと思います。
一方,報告書の刊行義務を指導している誰でしょう。他ならぬ行政,上位機関は文化庁です。
事業推進の“意味”を理解し,それに忠実に物事を遂行する。つまり,最終的には制度化するしかない。と思うのですが,いかがでしょうか。大学や民間がいくら気張っていても,行政が着いてこなければどうしようもない。ただ,この事業,目的達成のためのきっかけ,雰囲気作りのためには重要な役割を果たすものと期待しています。今後の動向が注目されるところです。

2011/12/1(木) 午前 2:06 [ 大徹鈴木 ]

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鈴木さま、非常に重要なご意見をいただきました。ご指摘のとおりだと思います。特に東日本大震災後の現時点で考えるべきところは多々あって、過去の災害痕跡に対する関心の高まりが報告書のオープンアクセス環境への底上げに繋がる可能性も強いものと思います。と、同時に単に情報の共有にとどまらない、文化財データの保存という観点からの捉え直しも、今後急速に高まるものと推察されるところです。もちろん最終的には文化庁に動いていただかなければ、つまり制度化されなければ定着しないのかもしれません。ただし文化庁を動かす原動力は世論であり、民間や地方自治体側からの声ですので、そうのような世論の高まりに期待するところ大であるのも確かです。その意味で、現在蔓延しているように思われる誤解を解きながら一人でも多くの方々にご理解いただくことが大切なのかと思います。

2011/12/2(金) 午前 0:14 [ flyingman ]

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