私的な考古学

丹沢山麓で考古学を学ぶ学生諸君との対話

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本日大学に出向いてみれば、西川修一さんからの郵便物が届いており、開いてみると本書が入っていました。秋に講演をお願いしたときから、彼が気にして探していた、という2008年に双葉社から刊行された話題の漫画です。

明治大学の校地内調査現場と東京大学の現場が舞台となっており、主人公はそれぞれの現場で「遺跡発掘作業員」として働いた中年の「元売れっ子漫画家」。仕事が取れなくなったためにやむをえず応募することになった発掘調査現場で、出会った人々の境遇と自分の境遇を重ねながら、流れゆく時間と追い込まれつつある自分への焦燥感が、絶妙な心理描写と情景描写のもとに描かれています。

帯には「透明感のある筆致で描く」とありました。なるほど、と感心させられる表現です。本書が凄いのは、さまざまな過去を背負った人々の奇妙な集団が発掘調査の現場を支えている、という現実の描写だけには止まらないことです。

発掘調査現場には相応の面白味があることや、漫画家である主人公が土層断面図の作成には向いている自分を見いだす場面、壁立ての妙技を競いたくなる心境、そしてマイ道具を持ち込むようになる様など、現場の匂いが鮮明に伝わってくるのです。哀愁ただよう現場の臨場感だけではないところに、本書の魅力があると感じました。

灼熱の現場の光景を描くところなどは圧巻で、流れ落ちて眼鏡を濡らす汗の感触さえも伝わってきました。そのような現場で汗を流しながら、ときにそのような苦痛は快感にさえ感じられることをしっかりと描きつつ、漫画家の仕事を取り戻したいとの焦燥感を描くのですから、このうえなくリアルです。

妻との別居を誘われている姿にも、他人事ではない危機感を感じます(もちろん、私自身はそのような危機感からはとりあえず免れていますが)。さらに現場の周囲を行き交う人々からは無視される状況の不思議さへの描写や現地説明会での小学生の質問内容への言及などには、作者の感受性の豊かさを感じました。

本書を読み進めると、私自身が学生時代に現場で感じたことや、空を仰いで夢と現実の著しいギャップに思い悩んだことなどが、リアルに重なって映るのです。だからこの本は、是非とも学生諸君にも読ませたいと思います。今夜はさっそく妻に見せようと思います。

当然リアルさを追求した漫画ですので、現実の考古学者も心理描写抜きでときに登場します。現場の終盤には近藤英夫先生の娘婿殿の横顔がリアルに描かれた画面が1枚だけ登場し、オオー!という場面もありました。

もちろん、今の私はこの漫画では決して描かれない「調査員」の側に立ち、考古学という「夢」に邁進できているはずの立場。幸運に幸運が重なったというだけのことかもしれませんが、学生時代の現場では、ここで描かれた主人公と心境的にごく近い立ち位置に居たことも確かですし、中年になった今は、この世界を魅力あるものにしてゆかなければならない責任を負ってもいることを改めて思い知らされます。

本来は、とある出版企画の「総論」を書くべく研究室に来たつもりでしたが、資料整理はそっちのけで、つい読みふけってしまい、さらにこの記事を書いてしまいました。アレルギー性の鼻炎と結膜炎に悩まされながらですが、これから本来の仕事に戻ることにします。

本書を送ってくださった西川さんに感謝します。

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