私的な考古学

丹沢山麓で考古学を学ぶ学生諸君との対話

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今回ご紹介するのは、この5月下旬に刊行される予定の『西相模考古』次号(2013年度版)に掲載していただくことになった私の考察の一部です。静岡県沼津市高尾山古墳(調査時の名称は「辻畑古墳」)の調査成果をめぐる特集号として本誌は編集されており、その一環として、私は同古墳の墳丘築造企画を論じました。ごく初期の前方後方墳(墳丘長60m)として広く注目されている古墳です。

同報告書(池谷ほか2012)では、寺沢薫氏がこの古墳の墳丘築造企画について論じていらっしゃいます。しかしながら提示された所見や考察の結果には納得できず、対案を示そうと試みた結果です。一目瞭然、方眼を重ねてみればほとんどの問題は解決できるものと思います。

この方眼を重ねてみるという作業は、沼澤豊氏の研究成果(沼澤2005a,bほか)に学んだ結果です。沼澤氏は、古墳の造営が12区分された方格地割を基本として設計・施工された可能性を指摘し、巨大前方後円墳から極小規模な円墳・方墳にいたるまで、日本列島各地の事例を広く点検していらっしゃいます。この沼澤氏のアイデアをお借りして、高尾山古墳の平面図に重ねたものが今回アップした図面です。

全体の枠組は縦24単位、横15単位。墳丘部分は縦軸において後方部10単位、前方部10単位の同率、横軸では後方部11単位、くびれ部3単位、前方部7単位となりました。中心軸線が7.5単位のところにきていますので、墳丘部については全体の枠組にもちいられた単位をさらに1/2にした細分単位(後方部長・前方部長各20単位、後方部幅22単位、くびれ部幅6単位、前方部幅14単位)が採用されたと考えられます。

注意していただきたいのは、周溝の墳丘側下端に外郭線を想定するのではなく、肩に外郭線を想定していることです。報告書の記載にも、旧地表面(つまり周溝の墳丘側の肩に該当する場所)で地割りの基本枠が設けられた可能性への言及がありますから、それにしたがっているのです。いいかえると本古墳の築造企画を考察する際には、旧地表面の標高や位置の推計が非常に重要な要件となるのです。

その意味では、今回アップする図面にも、まだ不十分さが残ります。今後、沼津市教育委員会にもご協力をいただき、墳丘や周溝の各部において、想定される旧地表面の位置だしをおこなった後に、再度方眼を重ね直す必要があるでしょう。

そうはいっても、ここまで明確かつ疑問の余地の少ない作業結果も珍しいのではないでしょうか。

ちなみに私が重ねた方眼の一マスは3.23mです。ここから基準尺度を簡単に推計してみましょう。まず12進法に則して推計すれば、26.9cmを1尺とした場合の2歩となります。この尺度ともっとも近似した復元基準尺は、じつは新井宏氏が提唱する「古韓尺」(26.8cm)なのです(新井1992・2004・2011)。現状の墳丘築造企画論において、前方後円墳に用いられた基準尺度の最有力候補と目されている「漢尺」(23cm±1cm)や、それと一部重複する「古墳尺」(22.85cm)、あるいは魏・晋尺(24.0cm)などとは整合しないようで、これら古代中国側の公定尺は今回の候補から除外されることになります。

次に10進法に則した推計尺度を想定することが可能であれば、寺沢氏が推計する「魯班尺」(31.81cm)があり、それを適用すると10尺(3.181m)となります。「古韓尺」の2歩(3.216m)と「魯班尺」の10尺(仮に5尺1歩とすれば2歩)では3.5cmの差しかありませんので、新井説が最有力視されることも間違いありませんが、寺沢説も依然として適合的だといえるでしょう。10進法の適用が可能かどうかについてはなお検討の余地があるかと思いますが、今示した基準尺度の問題を詰めるためにも、先に述べた地割ラインの綿密な推計作業が不可欠だといえるでしょう。

今回の作業結果は、私自身にとっても少し意外でしたが、これまでの墳丘築造企画論に重大な知見をもたらします(北條2011参照)。今後の展開は、高尾山古墳の事例を基礎にした再整理ということになるはずでず。今回の論文では、高度な類似性を示す各地の事例のなかから、滋賀県富波古墳例(長井ほか1986)と、山梨県甲斐銚子塚古墳例(森原・森屋2005)を紹介させていただきました。前者は前方後方墳ですから、当然といえば当然なのですが、後者は前方後円墳、それも関東甲信越地域における前期後半の最大規模墳です。前方後円墳にも適用可能な枠組みであることがミソだと思います。連休中にもかかわらず作業を手伝ってくれた4年性のIノ瀬君に感謝です。

ともかく、トラの縦縞表紙でおなじみの『西相模考古』次号は、今月の下旬に駒沢大学で開催される日本考古学協会大会の図書交換でも販売される予定で、目下、立花実さんが編集作業を一手に引き受けてくださっています。私のほかにも関東在住の蒼々たるメンバーが高尾山古墳の重要性を論じていますので、興味のある方はご購入を検討していただければ、と思います。

家事や庭いじりの傍ら、私はこの墳丘築造企画論関連の作業にも熱中せざるをえなくなってしまいました。放置されつつあるD51づくりに再び戻れるのは、もう少し先の話になりそうです。

引用文献

新井宏1992『まぼろしの古代尺―高麗尺はなかったー』吉川弘文館
新井宏2004「古墳築造企画と代制・結負制の基準尺度」『考古学雑誌』第88巻第3号
新井宏2011「『出雲風土記』の里程と宍道郷三石記事に現れた『古韓尺』」」『古代文化研究』19号
池谷信之ほか2012『高尾山古墳発掘調査報告書(沼津市文化財調査報告書第104集)』沼津市教育委員会
長井秀之ほか1986『富波遺跡発掘調査概要』滋賀県野洲町教育委員会
沼澤豊2005a「前方後円墳の墳丘規格に関する研究(上)」『考古学雑誌』第89巻第2号
沼澤豊2005b「前方後円墳の墳丘規格に関する研究(中)」『考古学雑誌』第89巻第3号
北條芳隆2011「墳丘築造企画論の現状」『古墳時代の考古学(3)墳墓構造と葬送祭祀』同成社
森原明廣・森屋文子2005『国指定史跡 銚子塚古墳附丸山塚古墳―史跡整備事業に伴う平成16年度発掘調査概要報告書(山梨県埋蔵文化財センター調査報告書第228集)』山梨県教育委員会

連休の後半

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この5月の連休後半は、庭の草取りと柵づくりに専念しました。3月・4月は、4本の原稿に追われてきたため手が回らなかったので、雑草は元気よく生え、薔薇にもすでに黒星病が発生しアブラムシもつき放題。東の庭はまさしくインセクトピア(映画『アンツ』より)の状態でしたから、彼ら細菌や虫たちにとって恐るべき災害をもたらした、という次第です。

期待するでもなく期待していた娘の帰省の話はいっこうにないので、携帯に電話を入れてみれば「なに?元気でいるよ。部活で忙しくて帰れないから。これからインカ展覧に行くの。じゃあね!(ガチャン…携帯を切る音)」。ということでした。確かに私自身も例年は忙しく、長野の母の顔をみに帰るでもなく原稿に追われていましたから、親の心子知らずとばかりはいえません。当の母も太極拳の指導にあちこち走り回っているようで、なによりです。やむなく妻と庭仕事となりました。

南の庭で今年作ったのは池の柵。一昨年の秋に出雲大社(秦野)の縁日で掬ってきたといって、娘が私の誕生日プレゼントにくれたのは小さな鯉6尾でした。ところがその後1年間のうちに1匹・また1匹と姿を消し、その理由がわからなかったのですが、妻の目撃によって、猫が原因であることが突き止められたのです。夜半に池の縁に陣取って魚獲りをするのだそうです。

このエリアはポチの侵入を禁止していたこともあり、ポチの老齢化によって猫に興味関心を示さなくなったこともあり、南の庭やポチの餌箱も猫ピアになったままだったようです。うかつでした。

最後に残ったコメット1尾と鯉1尾だけはなんとか救えないかと思っていましたが、一昨日、とうとうお気に入りだった4歳のコメットも姿を消してしまったのです。そこでこのような柵をしつらえることと相成りました。夏にはポチが朝の涼をとるため南の庭を開放しますが、それまでの暫定的措置です。

4日午後からは二人で海老名へ出かけ、映画鑑賞。『舟を編む』を楽しみました。ストーリーは12年かけて作り上げる辞書の編纂事業。後味も良くなかなかです。

こうして今年の連休は終わりです。とはいえ、『西相模考古』の編集担当の立花実さんには今回の原稿で大変ご迷惑をおかけし、図面のサイズや解像度の問題でお手間を取らせています。いつものこととはいえ、わがままを申しあげるばかりで申し訳ありません。

本日夕方には大西寿男君が来てくれるとのことで、昨晩は鹿肉を燻製に仕立て、スモークドローストビーフを作りました。編集に忙殺されているはずの立花さんには誠に申し訳なく思いつつ、我が家の周辺には、まったりとした春の時間が流れていました。

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