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件の蔵書寄贈問題に関わる意見表明を先日一旦終了しましたが、その後メール等で数件のお尋ねをいただきました。その中には、仮にも理事会案が否決され、協会所蔵図書の寄贈先が白紙に戻されることになった場合、この問題に関わる今後の日本考古学協会員の金銭面での負担はどうなるのか、もっと明確に示して欲しいとの強い要望がありました。
仰せの通りです。たしかに会員の皆さんにとって、もっとも知りたい問題はここでしょう。そこで現在公開されている資料から関係部分を拾い出しつつ、私のわかる範囲での試算を紹介します。
まず本年3月22・23日に市川考古博物館からナガオ倉庫へ図書を搬出した、その搬出に関わった経費については「覚書」に沿って全額セインズベリー日本芸術研究所が負担しております(協会会報?鷂170、21頁L7参照)。それが白紙に戻されることになるわけですから、その払い戻しを求められるのは必定です。
輸送費がいったいいくらかかったのかは不明ですが、私の自宅での書籍の運送費を念頭におけば、最低でも150万円ぐらいはかかったでしょうね。それに当日は先方の職員が日本に派遣され立ち会っています。それに関わる渡航費と滞在費の払い戻しも道義上は想定しておかなければなりません。
次に本年4月以降の蔵書仮保管庫代ですが、現在は「覚書」に沿って寄贈先のセインズベリー日本芸術研究所が負担しています。本年11月にお断りして日本考古学協会の負担に戻すとなると、とりあえず56,684冊の保管費用として、今年度は997,920円を追加計上しなければなりません(協会会報?鷂170、22頁L33参照)。これらを合わせると概算で250万円から300万円、というところでしょうか。
しかし頭の痛いのはここから先です。本年4月以降、セインズベリー日本芸術研究所は日本において寄贈図書の目録(ないしカタログ)作成準備を進めています。これも「覚書」に則った対応で、研究所の職員をイギリスから派遣して、また日本人の臨時雇用を前提としての作業に着手し始めたようです。こうした目録作成準備や作業にかかった経費がどれほどかは見当もつきません。あなただったら、どの程度を見積もりますか?
もちろん「覚書」を締結するにあたってイギリスからお越し頂いた役員や担当者の渡航費用も念頭に置く必要がありますね。本件も日本考古学協会側の都合でキャンセルとなれば、相応の補填を求められるはずだからです。
仮定上の話しですが、もしあなたが先方の担当者であったとしたらどうします?日本考古学協会を相手に損害倍賞請求の訴訟を起こすはずですよね。いままでの経費が全部キャンセルとなり泡と消えるわけですから。
あるいは訴訟にいたらなくても、相応の損害を補填する道義上の義務を日本考古学協会側は負うわけですから、こちらとしても応分の出費は覚悟したうえで先方にお詫び申し上げなければなりません。
仮に2名の一般職員の往復渡航費(エコノミー往復割引利用)に日本での滞在費、目録作成準備関連経費(学生の臨時雇用2名8時間勤務20日間)だけを想定し、1ヶ月を費やしたとすれば、科研費の費目計算式を乱暴に当てはめてみた場合ですが、これだけで180〜200万円ほどの計算になりますね。
先の250〜300万円を加算してみますと、要するに今年度だけで、私のごく雑駁でかつ先方からの請求額を最低に見積もった計算でも、430〜480万円をセインズベリー日本芸術研究所への損失補填および倉庫代として今年度中に支払わなくてはならないことになります。
これだけで年間の全事業経費の1割強を占める計算になります。目録作成準備が軌道に乗り始めていたとすれば、その分だけ先の金額の掛け算になります。仮に訴訟となれば、もちろんその間は支払う必要はないでしょう。しかし断言できますが、訴訟となれば必ず負けます。ですから訴訟に関わった経費を上乗せした負担を被ることも覚悟しなければなりません。
さて賠償金をどうやって支払うか、ですね。もちろん現理事会に瑕疵はないものと私は確信しています。にもかかわらず会員総意のもとで理事会の判断が覆されることを想定するわけですから、当然全会員に応分の負担をお願いするのが筋です。基金の切り崩しと若干の会費増でしょうか。
さらにこれだけでは終わりません。「海外放出反対会」の要求を見ますと、寄贈要項に国籍条項を入れ直してセインズベリー日本芸術研究所を予め不適格とし、国内限定公募をやり直すという、単なる出直し公募だけでは済まないのです。
実はここからが大事な部分なのですが、実効性のある国内限定再公募を行う場合には「海外放出反対会」も明言するとおり「『一括寄贈』についても改めて検討する余地がある」(会告<資料2>下から3行目)わけです。そうしない限り現行の寄贈要項のまま出直し公募をおこなったとしても、応募先は国内では見つからないのです(つまり、彼らもそのところは充分に知っているのです。だからこの一文が挿入されているものと捉えるべきで、ここは非常に重要な文言なのです)。そしてこの一文が示唆するのは、2009年度の総会決定事項にまで遡及して、その白紙撤回と修正が必要であること、それを意味するのです。
早稲田大学での総会決定にまで遡って白紙撤回する手続きですから、当たり前のことですが現理事会は面食らいますね。慎重にも慎重を重ねての手続きを余儀なくされることになります。ですから再度方向性が確定するまでには相応の時間を要するのです。最速でこのような手続きをし直す場合を以下に想定してみましょう。
2011年度総会で要項の修正動議を諮り、承認された場合には2011年度に再公募を実施。2012年度総会で寄贈先の承認を経て2012年度中に寄贈手続きとなる。という手順でしょうか。最低でも3年間は時計の針を逆戻りさせなければならないのです。仮に私たち現理事が次回の臨時総会で全員解任されて理事選挙がやり直され、「海外放出反対会」のメンバー主導の理事会が立ち上がって早急に手続きをし直したとしても、ですよ。新理事会の独断ででも事を進めない限り、2011年度内には絶対に決着がつきません。
となると、です。貸し倉庫代は最低でも来年度分と再来年度分は必要になります。今後997,920円×2年度分で、概算200万円は図書の貸倉庫代として計上しなおさなければなりません。
最低でも以上のような、余分な出費を今後私たち日本考古学協会員は覚悟しなければならないわけです。「とりあえず日本国内に留めおくことで結集しませんか」との標語があるようですが、この標語が意味するところは、金銭面での多額の損失を誘導することなのです。
さて、ここまでは単純に金額の問題でした。もう一つの時間の問題についても触れておきましょう。「海外放出反対会」のメンバーの中には、現在の寄贈予定図書の目録さえ整ってないことに憤慨し、日本考古学協会の怠慢さを糾弾する方がいます。日本考古学協会独自で文献資料センターを開設せよ、との声もあります。
後者については声を上げているご当人でさえ実現性を信じていない夢物語でしょうから無視して差し支えないものとしても、前者の声、つまり、蔵書の目録ぐらい日本考古学協会で作りましょうよ、との要望が採択された場合はどうでしょう。
その目録づくりに関わる経費負担と、それに要する時間待ちを、会員のみなさんにお願いしなければなりません。大規模な図書館でも2年くらいはかかる作業です。それを協会側でおこなったとして、国内に限定されるであろうところの新たな寄贈先で寄贈図書の利用が可能になるのは、最速でも5・6年は先になるものと予測しておく必要があります。だとすれば2015年度ですよ。そのとき、あなたはどこでどうしていますか?
そのいっぽう、現行のセインズベリー日本芸術研究所に丸投げお任せ状態のまま、ただ待っていさえすれば、2年先、つまり2012年度には蔵書の目録がほぼ揃うのです。日本文と英文で、です。日本の研究者には最大限のサービスが約束された上で、です。すべて現行の寄贈要項(2009年度総会決定事項)に沿って、それを実現すべく先方は現実に動き始めてくれているのです。
さてどちらが損得勘定の上で現実的でしょうか。日本考古学協会員にとって望ましいのでしょうか。こうした部分を充分にご考慮いただき、是非とも賢明なご判断を、と切に願うところです。
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