私的な考古学

丹沢山麓で考古学を学ぶ学生諸君との対話

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柵列の諸類型

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引きつづきイラストの問題を紹介します。今回紹介しますのは、チャシの柵列の諸類型です。最下段が立岩山チャシ跡の「土留め柵列」で、上段の事例は北海道の他の事例のなかから、本来の構造がおおむね推定可能なものを2例選び、私の独断で図化させていただいたものです。

この度、ようやく刊行にこぎ着けた「立岩山チャシ跡遺跡第3次調査概要報告書」に使用したもので、この図は永谷君が考察で取り扱っています。考古学的な評価については、そちらをご覧下いただき、問題点等は厳しくご指導いただきたく思います。

さて、この図ですが、少しおわかりいただきづらいかもしれませんが、ペン画です。イラストレータではありません。こちらの方が味も出るし思い通りの線のコントロールが可能でなので、ペンタブレットではなく本物のドローイングペンで描いています。

要は「擦れ」の表現が、イラレだと面倒くさいのです。それをアナログでやるとなると、いとも簡単にサラサラと表現できますし時間も短縮できます。

下絵の時間を除くとして、イラレの達人ならこの絵の図化に要する時間はどれぐらいなのでしょう。サイズは縦が28cm前後です。手書きトレースなら、やはり1時間弱です。前回アップしたもののようなラフなスケッチ特有の自由度はなく、直線だけでなく緩やかな曲線にも定規を添えていますから、所要時間がアップします。それでもイラレに比べるとはるかに時間は短縮されるわけです。

アナログ世代の疎外感

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先の記事で「ポチポチ隊」養成状況を紹介しましたが、それを読んで「世も末だ」とお嘆きになる業界人の方々も多いかと思います。私の世代は、もちろんここに含まれますので。

遺物の図面については今でも手書きが当たり前ですが、いざトレースとなると、途端に2方向に分かれるようです。その一方向はデジタル派、もう一方はアナログ派です。先の記事では、あたかも前者が当然であるかのような記述をいたしましたから、学生の皆さんは前者が主流だと思うはずです。

しかし、現実は必ずしもそうではないようです。依然としてアナログ(手書き)トレース派は健在です。最大の理由は、それに要する「時間」ではないかとも思います。

かくいう私は、以前の職場で、アナログトレースに挫折感を憶えました。いかにトレースを丁寧に綺麗に仕上げても、そこから先はスキャナー取りとデジタル起こしという運命が待ち受けており、報告書へ掲載される段になると、メリハリのない平板な図面に劣化してしまうからです。スキャニングの解像度を(2400dpiに)上げることで妥協せざるをえなかったのですが、全体に太くなりました。写真と同じく点の集まりになったしまうのですから。それなら最初からデジタル化して、線は線としてなめらかに表現されるデータとしメリハリを担保するしかない。そういった、やむにやまれぬ方向転換でした。

そんな私も、実はポチポチをほとんどやってません。かといって、ではアナログか、といえば、そうでもありません。最近の現場同様、口でトレースしています。あれほど手入れを怠らずに愛用したはずのロットリングを今後持ち出すことはないでしょうし、丸ペンやらGペンやらも同様に、また自在定規やらロットリングコンパス、デザインカッターなど、全部揃ったお馴染みグッズもスクラップになって部屋の隅に仕舞い込まれ、忘れ去られる運命にあるのでしょう。

とはいえ、はやりアナログ画は良いものです。味があります。
そんな次第で、ついこの前描いた私のペン画を紹介することにします。立岩山チャシ跡遺跡で発見された土留め柵列の復元創造画です。こうした表現をデジタルでやろうとすると、むやみに時間だけを食ってしまいます。手書きが一番早いのです。所要時間は下書きを入れて40分です。ですから、アナログとデジタルの奇妙な共存が成り立っている、というのが私の研究室の現状です。

ちなみに、松本建速さんの部屋では、いまも手書きのトレースだとか。

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耳慣れない言葉かとは思いますが、文化財の保存にIPMの手法を取り入れようとする活動です。IPM とはIntegrated Pest Managementの略で、日本語には「総合的有害生物管理」と訳されているそうです。「化学薬品だけに頼らずに中菌害の防除を考える「ヒト・モノ・環境」に優しい管理方法」だとパンフレットに解説されていました。

九州国立博物館の本田光子さんを中心に取り組まれている活動です。去る3月10日には博物館にお邪魔して、その取り組みの概要を教えていただきました。

文化財の薬品燻蒸は博物館の収蔵資料には不可欠ですが、より人に優しく、環境に優しく、かつ文化財それ自身にも優しい方法を導入することで、薬害から身を守ろうとの取り組みです。一律にすべてを単一基準で薬品処理するのではなく、眼で入念にチェックして文化財を見守り、日頃から埃などを丁寧に掃き取るだけでも事態は大きく変わる、という当たり前の作業をボランティアの方々の参画をえながら組織化しようというのです。その際には、埋蔵文化財整理室などで出土品の整理をなさった経験のある主婦層の力が非常に心強い存在であったともお聞きしました。彼女たちこそ、今後こうした活動の担い手になれるとの強い確信を本田さんはお持ちでした。お話を伺っていると、なるほど、そうか。と私も気づかされ納得しました。関東でもそのようなうねりが巻き起これば何よりだと思います。

現在九州国立博物館には「環境ボランティア」が組織されており、現在は32名の市民の方が勢力的に活動中です。さらにこの活動から巣立った方々を中心に「NPO法人文化財保存活用支援センター」と「NPO法人ミュージアムIPMサポートセンター」が設立されており、活発な活動を展開中だともお聞きしました。市民目線での文化財保護のうねりには驚かされましたし、深く共鳴します。

21世紀の文化財保存のありように明確な指針を与えてくれる活動だと思いました。

本田光子さんには水銀朱の研究でいろいろとお世話になったにもかかわらず、その後長らくご無沙汰してしまいました。さらに今年度は私のところの学生H貝が卒論でお世話になりました。ですから今回は学生がお世話になった御礼を兼ねて、久しぶりに「赤い色」の話でもと、職場を訪問したのです。しかし、本田さんの現在の活動の重点はこのIPMにあることを知り、またその活躍ぶりには改めて頭が下がりました。

20世紀の後半に文化財保存処理部門で活躍されてきただけに、薬害の恐ろしさを誰よりも深く熟知されており、その教訓がこうした活動を支える背景になっていることに改めて気付かされ、感銘を受けた次第です。

本田光子さんの顔写真入りのパンフレットがありましたので2枚目に示しておきます。それにしても本田さん、20年前に初めてお会いしたときと変わらずお美しいですね。私の先輩に当たる森田稔副館長も写っています(ぼけてしまいましたー意図的ではありません深謝)。森田さんの解説によれば、この活動はモントリオール発だとありました。日本列島バージョンの本格始動というわけです。
この活動に興味ご関心のある方は九州国立博物館のホームページへどうぞ。

去る3月18日付けでアップした「久しぶりの興奮」と題する記事のなかで、私は中堅どころの古墳研究者2名の方が公表された学術論文等の実績を、根拠なく誹謗中傷する内容の一文を挿入してしまいました。

私の軽率な行為についてお詫びを申し上げます。併せて当該記事を完全削除いたしました。

1300年前の産業廃棄物

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先々週のネタですが、吉留秀敏さんが統括する発掘調査現場、福岡市元岡遺跡で偶然眼にすることになった一場面です。30人前後の人手とパワーリフトを使用して何をしているかといえば、古代精錬炉跡から出土した膨大な精錬滓を全点洗浄したのち、分析用やらサンプル用やらに、と必要なものを仕分けして、最後にその選別作業から漏れた膨大な量の出土鉄滓を山口県の大型焼却炉へと搬出すべく、その準備作業をしているのです。

分析等のサンプル用に、と仕分けした標本類についてもその分量は膨大で、最上段の写真の背後にあるプレバブの一階部分にほぼ満杯状態で収まっています。搬出予定の鉄滓については、黄色のコンテナに一時仮置きしていたものを、搬出用の袋に移し替えていました。ご覧頂くとおりの鉄滓塚をなしています。一つの袋には700kgが収まっているのだそうです。中を覗かせてもらってみたら、綺麗に洗浄されていました。

およそ1300年前の産業廃棄物ですが、選別作業後に再び現場に埋め戻すことは叶わず、それを現代の行政基準に当てはめてみた場合、微量成分の除去が必要だと判断されたらしいのです。関係部局と再三協議したあげく、結局は合法的な措置を採ることとして、再び産業廃棄物として全量完全焼却処分することになったのだそうです。

発掘調査の規模が大きいと、また本格的な製鉄遺跡に当たると、調査の終盤にはこういうことになるのですね。現地で指揮をとる吉留さんはいうまでもなく、現場の皆さんは本当に大変そうでした。この日は雨上がりでもあったので、パワーリフトもスリップしまくり往生してました。

産業遺跡でいうならば、土器製塩遺跡の製塩土器片堆ってのもそうですし、炭坑のボタ山なども類似した性格の考古資料に該当するのでしょう。また生活・消費遺跡でみれば、貝塚の貝や古墳の葺石というのも、類似した取り扱いの対象になることがままあります(西表島の貝塚の貝は全量保存ですが、総量が知れているからこそ、できる話です)。私も徳島に居た頃、廃棄規模は比較もしようがないほど小さいながら、近世武家屋敷出土瓦の処遇をめぐって似たような経験をしました。そうした過去を思い起こしながら、この光景を見つめておりました

しかし凄まじいまでの分量です。やはり古代伊都国、恐るべしです。


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