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私の順番が来て治療台に座ると、首周りにエプロンが掛けられ、A医師の声が聞こえる。
「イス、上がります」
治療台が音もなく上がりはじめると、いつも、
私の脳裏に途方もない言葉が響く。
・・・・・・・『死刑台のエレベーター』・・・・・・・・・

私は、小さな女の子に戻る。
父の知り合いに、T・・・という歯医者さんがいた。
幼い頃歯が痛くなると、いつもそこへ送り込まれた。
T医師は、マスクの上のこめかみをびりびりさせながら、
麻酔もせず、いきなりキィィーーーン、ガリガリ、ボコボコ。
大人・子供を問わず、容赦なかった。

その治療台に座らされる時、いつも、
死んでしまえたら、どんなに楽だろうかと、すくみ、おびえていた。
その私が、高校卒業後の一時期、
T歯科に勤めることになろうとは。
一週間もたたないうちに、
私は、幼い私をその歯科に送り続けた両親を恨んだ。

カウンセリングの性格判断テストに、カメ、うさぎ、羊、おおかみ・・・というのがある。
誰でも、どの要素も持っているのだけれど、テストの結果一番多く丸がついた動物が、その人の性格とい
う。占いではなく、たまたまその動物の性格が説明しやすいから、その名が付いているという。
狼タイプの人は、攻撃的。羊タイプの人が「めーめー、ごめんなさい」と、謝れば謝るほど余計腹が立
ち、追いかけて、がぶり!と噛みつく。
T医師は、悪人ではなかったが、狼タイプの典型だった。
気が荒く、
癇性で、短気で、いつもピリピリしていた。
患者がおびえればおびえるほど腹を立て、ガリガリやった。
その歯科は、T医師とM医師との共同経営だった。
初診の電話予約を受けるのは、主に私の仕事で、原則として、
T医師M医師交互に、公平に、隙間時間を埋めていくことになっていた・・・原則としては。
しかし、声をひそめて「M先生を」と指名する患者さんが多く、
他のスタッフを通して予約する人もあり、T先生の予約欄は空欄が目立った。
T医師は、たまに予約ノートをチェックして、私を叱った。
「終わりました。お疲れ様です。
うがいをしてください。
次は+++をします」
A先生の声が聞こえ、私は目を開けた。
おびえた女の子は消え、ここは安全なA歯科の椅子。
治療台の正面の窓ガラスの向こうには、
玄関脇の秋のモミジが、大きく枝を伸ばしている。
淡いグリーンとサーモンピンクのグラディエーションが、窓いっぱいにかぶさるように。
治療台の椅子が起こされ、すーーと低くなる。
衛生士さんがエプロンを外して、ティッシュをさしだした。
待合室に出ると、アメリカの勇敢な男の子の姿はなかった。
もしいたら、
「あなたは、本当に勇敢な男の子。
私には、二人の息子がいますが、
『今日は勇敢なアメリカの男の子に会いました』と言うことができます」
ひとこと告げて、握手したかったのに。
もうお気づきでしょうか?
はじめから、アメリカンボーイなどいなかったことを。
待合室で待つ間、
私の心が作りだした白昼夢のストーリー。
「ここの歯医者さんは、とても親切で、痛みをほとんど与えないのです」
「ここで痛みを与えられるとすれば、他の歯医者さんでは10倍くらいの痛みを与えるのです」
「あなたは、ほんとうに、勇敢です」
そう、それは、臆病な小さな女の子だった私のための
ブレイブ・ストーリーだったのでした。
                            おわり



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ストーリー1の、男の子の部分がリアルになってしまいましたが、白昼夢の空想は本当のことですので、
エッセイとしてまとめました。
あしからず。<(_ _)>

コメント(30)

ふぅ〜ん。
イケメン(予定)のアメリカンボーイは、いなかったのねっ!
。・゜゜( _
2008/11/30(日) 午後 11:02返信する

今は削ったり、麻酔をかけるのにも痛くない歯医者が多いですね。昔は削ったり、麻酔をかけるのにハンパでなかったほど痛かったですから・・・
歯科の場合は数が多いので、治療の方法がいい所は結構混んでますが、そうでない所は患者さんが誰もいないこともありますね。
2008/12/1(月) 午前 0:01返信する

ケイさん、そーゆーことで、最後まで待ってコメントしていただこうと<(_ _)>
歯医者さんは、私にとって拷問の世界にひとしく・・・
ピアスの穴開けも、このトラウマがたたっているかもしれません。
あー、でも、書いて(私は)すっきり!!!
今度は、ピアスに挑戦(^O^)/
2008/12/1(月) 午前 0:27返信する

そうですよね、ムーミンさん。
昔は荒っぽいことこの上ありませんでした。
最近の無痛治療を考えると、どうして昔からできなかったかと、恨みます。(*^_^*)
2008/12/1(月) 午前 0:30返信する

第2話が、私的には超お気に入りです♪

やはり、ひめにゃんがご親戚を語るのが。
ごっつーおもろいですん。
2008/12/1(月) 午前 0:53返信する

ケイさん、ありがとうございま〜す。
まったく、うちの親戚は漫画みたいな集団で・・・。
でも、これ、以前から書きたかったので、ほんと、すっきりしました!!
2008/12/1(月) 午前 8:30返信する

わたしも歯医者さん大嫌い〜〜(>_<;)でも前任地では歯科関係のところに勤めていました(笑)歯医者さんは相性ですね。きっぱり!
2008/12/1(月) 午前 9:20返信する

こんばんは(*^^)v
その気持ちとてもよく分かります。
私も今歯が痛いので歯医者に行く事を常に想像してビビってます。
そんな時、やはり臆病な少女に戻ってしまいます。
でも、治療を終えスッキリした自分を想像してしまいます。
モネママさんの出会った勇敢なアメリカンボーイはモネママさんの
臆病な部分だったのですねぇ。
そしてそれを勇気づけてる自分もモネママさん!
弱い自分は心の奥底にいるって事なのでしょう。
だから‘別人‘なんですねぇ(*^_^*)
2008/12/1(月) 午前 9:29返信する

たまごアイスさん、
歯医者関係にお勤めだったのですか?じゃぁ、いろいろ裏の事情をご存じで?今度、内緒話をしましょうね笑
アイスさんがもし衛生士さんだったのだったら、かなりミステリアスな感じがする・・・^m^
2008/12/1(月) 午前 11:10返信する

ケンママさん、そこまで読んでくださってありがとうございます。
そちらは歯医者さんいかがですか?アメリカ、大好きだけど、かなり大ざっぱな気がする笑
何にしても、歯医者行くのは気がめいりますよね。(;一_一)
2008/12/1(月) 午前 11:13返信する

ちょっと一話目を読んで感動したのに。。。ってゆー少数派なモノです汗
僕が今通ってる歯医者さんも痛くない。というのが一番の理由でして、優しいんですよ。勇敢な羊でしょうか?優しいおおかみでしょうか?
ちゃんと話して施術してくださるので、納得できる。当たり前ですが、本当に大事ですねぇ。
2008/12/1(月) 午後 2:14[ shuuuuheyhey ]返信する

shuuuuheyheyさん、あれを壱話目に持ってきたのが、まずかったでしょうかねー?笑
あの部分は、私も大好きで、まんざらフィクションと思えないくらい気に入っているんです。A歯科さんについてエッセイを書くとき、一番書きたかった部分です。
あとの二編、ボリュームで負けてしまいました。<(_ _)>
2008/12/1(月) 午後 2:52返信する

残念ながら衛生士さんじゃないです。歯科関係っていうのは地域の「歯科医師会」ってところで仕事をしていたんです(^.^)ある意味・裏はわかるかも(笑)
そしてそのつながりで、ある歯医者さんでは待合室が素敵な文庫になっているところがありそこでは本を選んだり貸出したりのお手伝いもしていました。
きっとそこはこのA歯科さんのような歯医者さんだったと思います(*^_^*)
2008/12/1(月) 午後 3:04返信する

一話目はホントに大事な話だと思うんです。
決して他の二つがダメだというわけではなく、ホントにすばらしいからです。
コメント欄がないのがせつないぐらい、感動しました。
何かがあると思います。なんでしょう?
とにかく、それはおつたえしたくて。ありがとうございます。
2008/12/1(月) 午後 4:29[ shuuuuheyhey ]返信する

内緒さん、そうなんですか。
文庫をしていらっしゃる歯医者さんって・・・感動しました。歯医者って、地域にあって、老若男女に関わることができる、大切な機関ですよね。
いろいろな歯医者さんを見てこられたのですね。
2008/12/1(月) 午後 5:01返信する

shuuuuheyheyさん、二度もコメント、ありがとうございます!(^^)!
もし何かひらめかれたら、ぜひまたよろしくお願いいたします。
ストーリーに手を加えながら、何年でもお待ちしています(*^_^*)
2008/12/1(月) 午後 5:06返信する

待合室がね。ふたつあって♪片方が普通の・片方がじゅうたん敷きの明るいお部屋になっていて四方が本に囲まれているの(^.^)治療に通っていなくても本が借りられて「お母さん歯医者さん」だったからなんでも相談できた♪ありがたい歯医者さんでした(*^_^*)
2008/12/1(月) 午後 5:20返信する

たまごアイスさん、ありがとう(*^_^*)
実は、私も文庫をしたいという夢をずっと持っています。
歯医者さんほどの資本はないけれど(笑)
もうそろそろ始めないと。参考になりました。
2008/12/1(月) 午後 5:36返信する

えぇーーーーー白昼夢?!空想?!
す、す、素晴らしすぎるわ!モネママさんのリアリティ溢れる文章力!!私はてっきり、アメリカンボーイの話は本当だと思い、泣き叫び暴れるアメリカンボーイを上手に英語でなだめるモネママさん、すご〜〜いと大拍手を送っていました。
これだけの、素晴らしい空想力を身につけることができたのは、歯医者への恐怖のお陰でもありますね。
参った!!降参です!!
と思うと、急に笑いがこみあげてきました。
モネママさん、おもしろ〜〜〜い!!
これからの作品も楽しみになってきました。
2008/12/1(月) 午後 10:22返信する

シーサーママさん、そ、そ、そんな。照れてしまうではありませんか。呼んでいただいて、ありがとうございます<(_ _)>
というより、これはエッセイだから、架空のお話では決してないのですが、もう少し作品として練り直さなければならないことを、皆さんのコメントを通し気付かせられました。
以前から書きたいと思っていたことなので、ブログでおしりに火がつかなければ粗削りでも形にならなかった。
これから、ちょっと大変。アメリカンボーイにもうちょっと登場してもらって、手を入れます。
2008/12/1(月) 午後 11:48返信する

ああ、でも、自分が勇気付けられるような対象を、自分で創造して作るって言うのは、ありますね。

「空想の憧れ」を作って、それに憧れて自分で進む、結局は自作自演なんですけど、そんなので勇気をもらえることって、あるような気がします。

私はどうも、何もしなくても全く虫歯にならない体質(?)のようで、たいした手入れもしてないわりに歯医者にいったことがなくて、ありがたい限りです。
2008/12/2(火) 午後 10:43返信する

私も妄想好き(^.^)

逃げたくなる状況の時はいつも妄想してます。
歯医者は嫌ですよねー 最近は治療は痛くないですが、やはりねえ
ワタシは歯が弱くて、強いおヒト羨ましい↑
2008/12/2(火) 午後 11:19[ - ]返信する

Yadaさんも、そんな経験おありですか?
歯がお丈夫なんて、いいですね。
歯医者のことを書いてわかりましたが、皆さん結構トラウマを抱えているようです。歯のことで。だから、一話の男の子に反応したのでしょうか。
↑きのこさんにもお返しの中で言ったのですが、歯を磨くのは歯茎も磨くことになるので、お丈夫な人は年配になって歯周病で歯を失うそうです。老婆心ですが<(_ _)>気をつけてくださいね。
2008/12/3(水) 午前 1:38返信する

するめさんも、妄想がお好き?
私、妄想・空想、現実逃避、かなり助けられています。
私は昔、歯は良かったのに、チョコの食べ過ぎですっかり駄目にしてしまいました。自業自得。
息子たちに磨きなさいと言っても、やっぱり、自分で身をもって経験しなければだめですね。
2008/12/3(水) 午前 1:51返信する

アメリカンボーイのあとに親類縁者の結束力の堅さ!?信仰の過程があり、最後はひめにゃんさんの隠された!?過去。
チェリーパイ食べて大福食べてお寿司たらふく食べた感が。(どんなたとえなのでしょう。何となくお察しください。笑)
満腹です。ごっつあんでした。


母も2話目が好きです。ポチッとな。
2008/12/5(金) 午後 0:48返信する

ごっつあんです!(^^)!
そういうふうに楽しんでいただければ、よかった。
うう〜〜、チェリー・パイ、大福、お寿司・・・よくわかる例えで、私も満腹。今晩のごはん作るのもういや〜〜〜。お腹いっぱいで。
ポチ、ありがとうございます(^O^)/
2008/12/5(金) 午後 4:01返信する

はいしゃさんがこわいことがとてもよくわかりました。
でも、よいはいしゃさんもいることがわかってうれしかったです。
3年1組 まさ

で、でも、や、やっぱり、歯医者・・・怖い・・・
いくつになっても・・・
4△歳 まさ
(((゜д゜;)))

ポチっと〜
2009/2/23(月) 午後 6:53返信する

いくつになっても、
男女、関係なく、
歯医者はできれば仲良くしたくありませんね〜〜。

でも、最近は無痛治療のお医者さんが増えているようですよね。

masaさんの歯医者さんが、痛くしませんように。
2009/2/24(火) 午前 0:49返信する

その歯医者さん、紹介してください・・・て通えるんか?自分(^○^)

トラバ、ありがとうございます。
2009/3/6(金) 午後 1:51返信する

そちらから、高速バスでいくらくらいでしょうか?
ご案内しますよ〜。
さぬきうどんのお店も(^^♪
2009/3/6(金) 午後 11:24返信する

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私が住む人口九万ばかりの市に、歯医者さんは約40。
A歯科まで車を飛ばす間に、少なくとも七軒は、他の歯医者を通り過ぎる。
家から歩いて3分ほどのところにもご近所の息子さんが開業したのに、わたしがなぜこちらにこだわるか
というと・・・

  清潔で静か
  優しい。お医者様も、歯科衛生士さんも。
  ていねいに、着実に診て下さる
  昔、ひょんなことから一緒に遊んだU子ちゃんが、ここのお医者様と結婚して受付にすわっている。
 ピンクの服を着て、かわいい丸顔をちょっと横に傾け、にっこり。
 「 ♡ いらっしゃいませ ♡ 」と迎えてくれる。

とまあ、いろいろ理由はあるが、なんといっても一番私をひきつけてやまないのが、これ!!!
痛くない
もともとは、10年くらい前に、叔母が、こちらで治療を受けた。・・・(偵察)
「なんちゃ、いとないで。ますいもなぁ、ちくともせんので」
訳『少しも痛くないのよ。麻酔の針さえ、チクともしないのよ〜』
電話を受けたわたしの母が身をもって確かめに行った。・・・・・(確認)
翌日には、13人兄弟のおじおば、その子、孫、さらにその伴侶と親族・・・というように、
人口9万都市、津々浦々まで広まり・・・・・・・・・・・・(伝道)
臆病者一族は、「痛くない」A歯科へなだれこむように、こぞって通うこととなった。(信仰)
一時期など、待合室に入ると、初老の婦人が膝の『女性自身』から目を上げ、
「ああ、***ちゃん、元気?」
私に挨拶してくれる。
「こっちこそごぶさたして。おばさんこそ、お元気?
お孫さん、大きいなったろねぇ」
四方山話をしていると、治療を終えた患者さんが出てきて、目を丸くする。
「あ、***ネエチャン。来たん? 遠いのに 笑
まあ、おばさんも!」
私の妹だった。(実話です)
もしA先生が入院ということにでもなれば、臆病者の一族郎党、
天を仰ぎ、地に伏して、
好くなられるよう、お祈り申し上げるでしょう・・・。
                                  つづく

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