古今亭日用工夫集

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メールマガジンからの転載です

◆■■■■国際派時事コラム「商社マンに技あり!」■■■■◆
http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/


     「東アジア共通IC乗車券」構想に反対する


■■■■■第205号■■平成19年10月1日発行■■■■◆




 手元に台湾の首都・台北で買った「悠遊(ゆうゆう)カード」
がある。
 IC乗車券だ。

 東京首都圏の Suica や PASMO、関西圏の ICOCA、名古屋圏の
TOICA と同じ。
 台北市内の電車・バスに乗るとき使える。

 現地スタッフと台北郊外へ行くことがあり、奨められて買った。
そのときは便利だった。

 しかし仕事で市内を動くときは「時はカネなり」で専らタクシー
を使うので、けっきょくそれ以来「悠遊カード」は使う機会がな
い。
 ほとんどこのまま死蔵してしまいそうだ。


 台北で日本の Suica や ICOCA がそのまま使えれば、確かに便
利かもしれない。

 台北の地下鉄駅で「悠遊カード」を買うための40秒ほどの時間
が節約できたろうし、出張カバンのポケットが5グラムほど軽く
なったろう。

 便利といっても、それだけのことである。


■ 名だたるメーカーの揃い踏み ■


「東アジア共通IC乗車券」構想。
 国民の税金をつかって、大真面目に議論しはじめた役所がある。

 国土交通省の総合政策局。
 情報政策課と観光政策課が音頭とりして
「IC乗車券等国際相互利用促進方策検討委員会」なるものを、
9月13日に立ち上げた。

 専門委員として、JR東日本、JR西日本はもちろん、オムロン、
シャープ、ソニー、東芝、日立、富士通、日本信号、日本電気、
松下電器産業、凸版印刷、大日本印刷、VISA、三井住友カード、
マスターカードと、名だたる業界代表を集めた。

 大した気合ですなぁ。

 国土交通省の官僚が経済産業省の領域ギリギリのところで仕事
を立ち上げるわけで、うまくゆけば担当課長は国土交通省の幹部
の覚えめでたいことでしょう。

 ゆくゆくは財団法人「国際ICカードセンター」など設立して
天下り先を増やせるだろう。

 しかし、百害あって一利しかないこの話、コラム子は大反対で
ある。
 なぜ反対なのかを書く。
 反論があれば聞きたい。


■「重要な戦略手段」■


 まず国土交通省側の言い分を聞こう。
(↓ 詳しくはこちら)
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/01/010912_2_.html


≪現在、アジア各都市では、東京2540万枚、ソウル2260万枚、香
港1400万枚、シンガポール900万枚、北京450万枚、上海320万枚
など、既に大量のIC乗車券のシステムが導入されており、これ
らが相互利用できるようになれば、利用者の利便性は大きく向上
します。≫

≪外国旅行は、団体旅行から個人旅行に移行しつつあり、IC乗
車券が国際的に利用できることにより、より自由で個性的な旅行
が可能になります。≫

≪これは、「観光立国」を目指して国土交通省が推進している
ビジット・ジャパン・キャンペーンのアップグレードの重要な戦
略手段の一つと位置付けられています。≫


 ソウル、北京、上海はあっても、台北はないのですなぁ。
 さすが大臣が公明党出身だけのことはある。

 とにかく「重要な戦略手段」だそうだから、こちらも心して論
じさせてもらう。


■ わが国の地方都市より「東亜の共栄」が大事ですか ■


 まず誰しも思うこと。

「日本の役所ならまず、日本全国で使える共通IC乗車券の実現
を考えるべきではないの? ものごとの順序を間違えていません
か?」

 このソモソモ論は自明なので、これ以上論じません。


 現在、各国の都市で個別にうまく機能しているシステムを「共
通化」するためには、何らかの共通ソフトウェアに統合する必要
がある。

 せっかく問題なく機能している自動改札機や販売機を改造し、
数千万枚のIC乗車券を交換する必要がある。

 そのすべてにコストがかかる。
 今回の「検討会」に出席したメーカーにとっては商売の種だが、
コストはけっきょく旅客の負担となる。

 電車・バス会社や一般旅客にとって、それに見合うメリットが
どこにあるのだろうか。


■ 省力化によるメリットは享受済み ■


 IC乗車券を電車・バス会社がつぎつぎに導入してきた理由は
何か。
 導入によって省力化のメリットがあるからだ。

 かつてもっぱら磁気チケットや磁気カードを改札機に通してい
たころ、切符がからまって故障した改札機を一生懸命なおしてい
る駅員さんの姿をよく見かけた。

 これが最近めっきり減っている。

 紙片やプラスチック片を高速のベルトをつかって処理するシス
テムは、機械としてはけっこう複雑だし、紙がつまって壊れやす
い。

 この点、IC乗車券のセンサー方式は壊れにくい。
 だから、修理にかかわる駅員の数を減らせるのだ。

 IC乗車券の導入には、鉄道会社の側に経済メリットがあった。

 ところが、いったんIC乗車券方式を導入してしまうと、これ
をさらに「他国のシステムと統合するために」カネをかけて改造
しても、なんら経済メリットがない。

 駅員が減らせるわけでもない。旅客が増えるわけでもない。

 常識で考えれば分かることだが、台湾のIC乗車券が東京でも
使えるようになったからといって、東京のJRや地下鉄に乗る台
湾人が増えるだろうか。

「台北の悠遊カードが使えないから山手線には乗らない。悠遊
カードが使えたら乗るのに」
なんてことをいう台湾人を、あなた想像できますか?


■ サイバーテロのリスク ■


 コラム子も商社マンだ。
「メーカーの契約の種を増やすのも役所の仕事のうちだわな」
というありがちな議論は多少理解せぬでもない。

 コラム子がほんとうに心配しているのは、日本のIC乗車券を
管理するサーバーを北京や上海のサーバーに常時つなげること。

 中国が、国策として「サイバー・テロ」の研究をし、ときに実
践しているのは常識に属する。

 米国国防省のサーバーにも突入する中国の優秀なハッカーたち
にとって、日本の鉄道会社のサーバーを遠隔操作することなど造
作ないことだろう。
 
 日本の鉄道システムが思いがけないサイバー・テロで混乱した
ら誰が責任を取るか。


 ここでIC乗車券の仕組みについてちょっと解説しておく。

 IC乗車券の販売機や改札機は、それぞれの駅のID管理サー
バーに駅構内LANでつながっている。

 駅サーバーは、中央のID管理センターサーバーの大型コンピ
ューターにつなげられ管理されている。

 Suica と PASMO の2つのシステムが相互乗入れして動いてい
る首都圏には、この上にさらに「ICカード相互利用センター」
の大型コンピューターがある。

 この相互利用センターを通じて PASMO と Suica の両システム
間の料金清算がおこなわれている。


■ おめでたい性善説 ■


「東アジア共通IC乗車券」をつくるとは、ICカード相互利用
センターのネットワークに北京や上海のサーバーを連結するとい
うことだ。

 技術的には可能だろう。

 そして、きわめて優秀なる中国のソフトウェア技術者の手にか
かれば、北京や上海で Suica や PASMO をつかう架空の日本人旅
行客を生み出すことだってできる。

 じっさいには存在しない大量の日本人旅行客が北京や上海の地
下鉄に乗ったことにされ、JRやパスモに多額の料金請求が来る、
といった事態が起きる現実的リスクが存在する。

 日本の警察権は中国には及ばないから、ろくな捜査もできない。
 絵に描いたような隔靴掻痒。

 システムの欠陥から、JRや東京メトロのカネが中国へ垂れ流
しになっても、日本のメーカーは責任を取らないだろう。

 かつて偽造パチンコカードで商社がウン十億円の損失を蒙って
も、日本のメーカーは技術的欠陥による賠償責任を負わなかった。

 
 リスクは他にもある。

 外国のIC乗車券を日本で使った旅客の乗車料金をその旅客の
本国に請求しても払ってこないリスクがある。

 いままで国内に閉ざされたシステムとして運営されてきた Suica
や ICOCA を外国のシステムにつなげば、もろもろのリスクが生じ
る。
 そのリスクを誰がとるのか?


■ クレジットカードとIC乗車券の違い ■


「そんなことを言うが、クレジットカードは日本でも中国でも
台湾でも同じカードが共通に使えるではないか。IC乗車券もそ
れと同じと考えればよい」

という、ありがちな反論があるかもしれない。

 クレジットカードは、カード使用者が住所・氏名まで特定され
ており、しかも1つ1つの請求内容がカード所持者へ通知され確
認を受けるシステムになっている。

 いわば億単位の人力による超人海戦術によって日々チェックが
行われているシステム。
 それがクレジットカードのシステムだ。
 そして、それでも不正請求はあとを絶たない。

 IC乗車券はもともと利用単価が低いから、そういう個別チェ
ックを想定していない匿名カードである。
(IC定期券には氏名・年齢が書かれるが、あれは偽名もOKだ
から実質は匿名と同じだ。)

 だから、料金清算システムとしてIC乗車券はチェック機構が
粗雑である。
 それゆえ、いったん不心得者が参入するとじつに脆弱だ。

 不正者への警察権が及ぶ一国内であれば問題はないが、警察権
が及ばない国外のシステムと連携しようというのは軽率にすぎる。


■ ほんとに「観光立国」したいなら ■


 国土交通省が東アジア共通IC乗車券を構想する理由がほんと
に「観光立国」のためなのなら、とるべき施策をコラム子が教え
て進ぜよう。


 国際空港内の案内所や郵便局、クレジットカード会社のサービ
スカウンターなどで、各国のIC乗車券を買ったり払い戻しをう
けたりできるようにすればいい。

 いま空港にあるケータイのレンタルサービスのカウンターをイ
メージしてもらえばいいと思う。


 台北や香港のIC乗車券を成田空港で買ってゆく。「鉄道・バ
ス利用のしおり」とともに。
 帰国するとIC乗車券を返して残額を戻してもらう……。

 ぎゃくに、台北や香港の空港のカウンターでは Suica や ICOCA
が買えるようにする。

 そして、そういう海外の旅行者が戸惑わぬよう、 Suica や
ICOCA が日本全国で使えるようお膳立てをする政策官庁こそ国土
交通省の役目であろう。

 Suica や PASMO の中央サーバーを他国につないでシステムリ
スクを高めるなど、愚の骨頂だ。

 反論があれば聞きたいものである。

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閉じる コメント(5)

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確かに危険が大きいですね。

個人的にも必要ないと思うし。

2007/12/20(木) 午後 0:23 わらべ

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ですよね。役人は無駄なことばかり考えます。

2007/12/21(金) 午前 0:59 yjisan

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それどころが「セキュリティホールをわざわざ作るようなもの・・

2007/12/29(土) 午前 7:17 [ tero19632001 ]

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売国奴なのか、本当のバカなのか・・・

2007/12/29(土) 午後 1:05 yjisan

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検索で出てきましたので来ました。
私は賛成ですね。
「台北の地下鉄駅で「悠遊カード」を買うための40秒ほどの時間
が節約できたろうし、出張カバンのポケットが5グラムほど軽く
なった」というメリット、とても大きいと思うので。
むしろかばんのポケットというよりも、「財布のカード入れ」ですね。
確かに順序の話はあるにせよ、「異なるシステムのICカードが混在し、正常に作動しない」という現象に悩まされているだけに、共通化は推進すべきと思います。

2009/4/5(日) 午後 1:22 [ ues*o_*00* ]

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