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財部誠一の「ビジネス立体思考」
迷走する覚悟なき“脱原発”

2011年06月15日 

欧州で進む「脱原発」

 欧州で “脱原発”が急激に広がっている。ドイツ、スイスに続いて、6月13日に国民投票を行ったイタリアも“脱原発”を決めた。そもそもイタリアは過去に原発を全廃しており、今回の国民投票は原発復活の是非が問われたのだが、有効投票数のじつに約95%が反対票を投じた。

 日本が欧州の世論を左右することなど滅多にあるものではない。震源は日本だ。3基の原子炉が一気にメルトダウン、水素爆発で放射性物質を大量に飛散させた福島の原発事故が、ドイツ、イタリア、スイスの国民感情に決定的な影響を及ぼし、3国のエネルギー政策をあっという間に方向転換させてしまった。

 当然のことだが、震源地日本でも“脱原発”の国民感情は強く、点検中の原子炉の再稼働にメドが立たない。54基の原子炉のうち現在稼働中の原子炉は19基。それらが順次点検入りし、再稼働への合意形成が出来ない状況がさらに続くなら、来年6月には日本の原発は全停止する。つまり何もしなければ来年6月に日本も“脱原発”となる。

 「これを機に原発から自然エネルギーへと一挙に舵を切るべきだ」

 テレビの街頭インタビューでは十中八、九、こんな返事が返ってくる。原発が巨大なリスクを抱え込んだ技術である以上、太陽光発電や地熱発電などの自然エネルギーでこれまで原発による電力供給分を代替できるなら、それにこしたことはない。欧州の脱原発を伝えるニュースでも必ずといっていいほど“脱原発”は“自然エネルギーへの転換”とワンセットで語られている。だがこれはいわば「ペテン師的報道」と言わざるを得ない。


太陽光はあくまでも補完的な存在

 太陽光発電が原子力発電に替わり得るなんて話は妄想以外の何物でもない。電気料金が二倍、三倍になってもいいというなら話は別だ。メガソーラー施設の建設計画なども浮上しているが、太陽光発電はあくまでも補完的な存在でしかない。

 ドイツやイタリアが簡単に“脱原発”を選択し、“自然エネルギー”へと突き進める背景には陸続き欧州の特殊性がある。ドイツもイタリアもスイスも他国と連続している送電線を通じて電力供給が受けられる。国境を接するフランスの原発が発電した安い電気で、自国の“脱原発”を補完することができる。

 ここが日本との決定的な違いだ。四方を海で囲まれた日本は電気すべて自給自足。欧州のような都合のいい“脱原発”を即実現することができない。

 私は“脱原発”を否定しているわけではない。私自身は現時点で「原発は国家管理、30年で廃止」という考えに至っているが、最大のポイントは「30年」という時間の猶予だ。日本国内の“脱原発”“自然エネルギーシフト”論議は、コストと時間軸が考慮されぬまま進行している。そこが危うい。


(後略)



大前研一の「産業突然死」時代の人生論
原子力とクリーンエネルギーを政局のネタにするな

2011年06月28日 

 福島第一原子力発電所の事故を受けて反原発の動きが広がっていたイタリアで6月13日、原発再開の是非を問う国民投票が行われた。実に94%以上の人たちが原発再開に「ノー」の意志を表明した。投票率は54.79%になり、投票成立の条件である50%を超えたため、イタリアでは原発の新規建設や再稼働が凍結される見通しだ。投票ボイコットを呼びかけていたベルルスコーニ政権にとっては、大きな打撃である。


さすがのベルルスコーニ首相も観念か

 今回のイタリアの国民投票では原発問題ばかりがクローズアップされたが、実は同国の水事業の民営化や首相ら要職者の公判出廷免除(免責特権)など、4つの事案の是非が問われていた。投票結果はいずれも否決で、そういう意味ではこれは「反ベルルスコーニ投票」といった性格も持つ。

 ベルルスコーニ氏といえば贈賄罪や脱税、買春などの容疑で100回以上も訴追されている「異色」の政治家で、これまでは免責法を成立させるなどして裁判を引き伸ばしていた。

 そんな彼もさすがに観念したのか、「政府と議会は4つの国民投票の結果を受け入れる義務を負う」との声明を発表した。特に原発再開問題については、「イタリアにおける原発利用の可能性はほとんどなくなった」との見解を示している。

(中略)

早急に脱原発を唱えるのはあまりにも「お調子者」

 イタリアには4基の原発がある。そのいずれもが現在のところ稼働を停止している。ベルルスコーニ氏が提案していたのはこの4基を廃炉処分とし、安全性を高めた原子炉を新たに4基建設しようというものだった。今回の国民投票で否決されたのはこの点なのである。つまり、イタリア国民は現在動いている原子炉を停止させようとしていたのではなく、新たな原発建設を中止させようとしていたのだ。

 こういう状況ならばイタリア国民も原発には反対しやすい。なぜなら国内で稼働している原発が存在しなくても、フランスからの輸入などを加えてなんとか電力需要がまかなえている現状があるからだ。だからこそ9割以上もの圧倒的大多数を獲得したのである。

 ところが日本の場合、まだ稼働している原発がいくつもある。にもかかわらず、今夏は深刻な電力不足が懸念されている。このまま行けばすべての原子炉が定期点検などで来年の4月には停止するという異常事態になるが、その時に不足する電力は30%にもなると想定される。

 ということは、日本の国民投票が「原発の新規建設の是非を問う」ものならいざ知らず、現状稼働している原発までも停めようとするのであれば、結果はかなり微妙なものになるはずだ。

 私の見るところ、イタリアの国民投票の結果をそのまま日本に重ねようとしている原発反対派の運動家も少なくない。しかし原発に代わるエネルギーも確保できていない状況にあっては、残念ながらあまりにも「お調子者」と言わざるを得ない。

(中略)

よく「日本の電気料金は世界有数の高さ」と揶揄される。確かに高い部類に属するが、それでもイタリアに比べれば2割以上も安い。

 反対に、抜きん出て高いのはデンマークで、日本の5割増くらいだ。これはデンマークが世界有数のクリーンエネルギー大国であることが背景にある。現状では、どうしてもクリーンエネルギーは「高くつく」のだ。

 福島第一原発事故を契機として、日本でもクリーンエネルギーへの移行が官民挙げて大きく取り沙汰されている。それはもちろん重要な議論ではあるのだが、ともすればタイミングとコストの問題が軽視されているように私は感じる。クリーンエネルギー利用についてはそれなりの歴史のあるデンマークですら、日本の5割増の料金になっている事実を、果たして生活者は受け入れられるのかどうか。


再生可能エネルギーと原子力の議論は並行して行え

 菅直人首相は「2020年の早い段階までに、総発電量におけるクリーンエネルギーの比率を20%まで引き上げる」と明言している。

 しかし、太陽光発電にしても風力発電にしても、現状では全体の0.2%程度で、ほとんど誤差程度の電力しかまかなえていない。これを本当に10%まで引き上げたとき(水力とバイオや廃棄物が合計10%程度ある)、家庭の電気料金はどれだけのものになるのか。

 いま太陽光発電のコストは1kWhあたり50円程度である。ソフトバンク社長の孫正義氏が言うように、大規模にやればかなり安くなるかもしれないが、設備投資をした民間にうまみが出てくるフィードインタリフ方式(固定価格買取制度)にした場合には、それでもいまの料金の5割増しということになるだろう。国民がそれを受容したとしても、全体の30%をまかなう原子力が停止したままでは産業そのものが日本にいられなくなってしまう。

 つまり、この議論は再生可能エネルギーへのシフトをするにしても、その間、おそらく10年くらいの間は「いかにして原子炉を再稼働させるのか」という議論と並行して行わなくてはならない。


菅首相よ、学生運動とはわけが違う

 菅首相はいきなり「脱原発+再生可能エネルギー」と叫び始めているが、学生運動ならイザ知らず、日本の首相としては、産業界の悲痛な叫びをいかに受け止めるか(事業継続リスクをいかに乗り越えるか)、そして住民の納得を得て定期点検中の原子炉をいかに再稼働させるかが最大の課題であることを忘れてはならない。

 菅首相が退陣前に成立させたいとしている再生エネルギー特別措置法においても、タイミングとコストを明確にしなければ、それが実現する前に日本から外資が、そして製造業が、データーセンターなどが……と、すべていなくなってしまっているだろう。原子力とクリーンエネルギーを政局のネタに使うことはやめてもらいたい。

(引用終わり)


菅首相が今、最優先して取り組むべきエネルギー問題は今夏の電力供給危機。すなわち電力不足に陥る危険性を如何にして解消するか。そして唯一の解決策は、定期点検後の原発を再稼働できるよう、地元自治体を粘り強く説得すること。政権延命、人気取りのために突然持ち出してきた「再生エネルギー法案」の審議はその後の話だ。

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