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岸博幸のクリエイティブ国富論
【第106回】 2010年9月17日
岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
日本復活へ菅総理の「パクリの才能」に期待しよう
民主党代表選で菅総理が再任され、今日にも内閣改造が行なわれて新内閣が発足します。世論調査で支持率が7割を超すなど国民の支持は高いですが、円高・デフレ・財政赤字という三重苦の中で正しい経済財政運営を行なってくれるかという面では、不安が一杯と言わざるを得ません。
(中略)
菅総理は代表選中も“雇用”を連発していましたが、政府が成長分野で雇用を作れば経済が活性化するという考えは、まったく間違っています。雇用は経済成長の結果として産まれるものであり、まず成長が必要なのです。
それは、例えば菅総理も言及している介護・保育といった成長分野を考えてみれば明らかです。これらの分野に財政を支出して雇用を増やすのは合理性があります。しかし、政策対応がそれだけだったら、民間の参入や事業拡大は進まないので、結局政府が永遠にお金を出し続けないといけなくなり、政府が支出を止めた瞬間に雇用は失われてしまいます。
つまり、成長分野においては、市場拡大の着火材としての財政支出と同時に、規制緩和などの市場メカニズムを重視した政策の両方が必要なのです。“成長→雇用”というロジックからは、それは当たり前のことですが、“雇用→成長”というロジックからはそうならず、その場しのぎの雇用作りのための財政支出だけをやることになりかねません。
だからこそ、今後の政策を間違わないためにも菅総理が早く経済認識を改めることが必要なのですが、そうなるかもしれない良い兆候もあります。
菅総理は代表選での演説で「規制緩和が雇用を作り、地域経済を活性化する」と発言しています。かつ、9月10日に決定された経済対策では100の規制改革が盛り込まれています。もちろん、急ごしらえの限界でこれらの規制改革ダマは瑣末なものばかりですが、少なくとも方向性は間違っていません。
また、官僚の側は総理の考えがおかしいと思っているからこそ、経済対策の本文では“経済を成長させて雇用を創る”と正しい認識が書かれています。
法人税減税の議論でも官邸には「法人税減税よりも雇用促進税制(雇用を増やしたら税金をまける)を」という議論もあるようですが、官僚の正しい主張はちゃんと吸収して、早く間違った経済認識を正すべきです。
(後略)
大前研一の「産業突然死」時代の人生論
菅内閣の政策では向上心や意欲がわかない
2010年9月15日
(前略)
新卒者就職応援など効果は期待できないし、成長戦略ではない
(中略)
まずは「新卒者就職応援プロジェクト」「ジョブサポーター増員」について指摘しておこう。これらは若年層の雇用を増やすための施策であるが、その効果については正直なところ疑問である。むろん若年層の失業率の高さは憂慮すべき問題である。
もちろん優秀な人材であれば企業は採用したいと思うだろう。しかし、このような急激な円高株安の状況では、何十社も採用試験を受けて落ちた人を採用するのは、企業にとって相当勇気のいることだ。そんなところに「ジョブサポーター増員」などをやられても、対象となる中小企業も迷惑なだけである。経済を立て直し、安心して雇用できる社会にすることが先決ではなかろうか。
もともと日本の場合には、大学卒業時の就職内定率が世界の中でも際立って高い。92%内定ということは残る8%の人には企業が飛び付きたくなるようなものが欠けているのかもしれない。またこのレベルで政府が税金を使って就職あっせんをするべきかどうかは他国を見れば疑問符が付く。お隣の中国では大卒者の就業率は70%だし、イギリスに至っては30%である。日本だけが際立って高い。これは成長期以来の大学卒業即就職、という右肩上がりの歴史的偶然に過ぎない。
今は大学に入る人も増えているし、また企業の国際展開も進んでおり、必ずしも4月に採用、日本で採用という形にはなっていない。政府が税金で補助しても残念ながら効果はほとんどないと思われ、ましてや成長戦略にはならない。この企業の置かれた実態とのズレが恐ろしいほど広がっているのが民主党政権の特徴である。
景気対策のために「多額の血税」を投入するな
また都市再生や住宅などで「100の規制改革」を行うということだが、100と言わずに、徹底的な規制緩和、規制撤廃に踏み込むべきではないか。例えば、各基礎自治体に建築基準法の権限を委譲してみるのだ。無意味に厳しい容積率などを自治体の事情に合わせて緩和すれば、そこに民間の資金が流れ込み、景気向上に貢献するはずである。
私は「政府は景気対策を行う必要はない」と言っているのではない。「景気対策のために多額の血税を投入する必要などない」と言いたいのだ。政府は、民間のお金が流入するようなシステムを作るべきなのである。要するに今の経済を活性化するには、一般の人がお金を使ってくれる、何かを買ってくれる、(家やマンションなどを)造ってくれるような気持ちにさせる「心理面」の施策が一番なのである。
その意味で政府の経済対策の中で、私が期待してもいいと思うのはエコポイント制の延長だ。住宅ローンの金利優遇も期待していいだろう。逆に、公共工事などは意味がない。多額の血税を投入しても一般の消費者に届く金額が少なく、従って消費にも結びつかないからだ。その点、エコポイント制や住宅ローンの金利優遇は消費者の「お金を使う」という気持ちを誘引する力を持っている。事実、エコカー補助金制度はドイツでも日本でも自動車の購入に一役買った。
もちろんその後の反動で制度終了後には30%程度落ち込んだが、それゆえに他の耐久消費財で刺激を継続する必要があるわけである。中国では5つの都市を選んで電気自動車(EV)を買う人には80万円もの補助金を出す、という施策を打ち出しているが、これなどは景気刺激、EVの世界に先駆けた普及、エコなど多くのメリットがある奨励策であろう。
「景気を良くするための無駄遣い」も検討していい
経済対策には、倫理的な視点と異なる広い視野が求められる場合がある。これから述べる内容も私自身の倫理観とは正反対のことであることを先に申し上げておく。
経済を刺激するならば、この際、「エコ」という制約を外したほうが成果は大きい。そうすれば消費者の選択肢が広がるし、何より「非エコカー」のほうがランニングコストが高いという点では無視できない。1リットルのガソリンで20キロも30キロも走るエコカーよりも、ガソリンを大量に消費することで「景気に貢献する」ことにもなるからだ。
また燃費の悪い車はおおむね高級車であるから、購入代金はエコカーよりも高い。それだけ景気を刺激する力も強いことになる。つまりエコカーよりも、「派手な無駄遣い」をする高級車に補助するほうが景気を刺激することになる。非道徳な、また公徳心に欠ける発言かもしれないが、「経済対策」にはそういう一面があることも事実である。さすがに政府としては「エコカーは駄目。燃費の悪い車を買いなさい」とは言えないだろうが、「景気を良くするための無駄遣い」を推奨するような仕組みは検討してもいいだろう。
つまり、景気を刺激したいのであればエコだ、グリーンだ、と能書きを並べないで、使ってくれた人には来年3月までは消費税免除、とやるほうがよい。今のエコポイントを取得するための書類の洪水を見れば、これがいかに無駄な「お役所仕事」かが分かる。耐久消費財を買った人にはすべて「消費税を免除します」。これでおしまい。手続きはいらない。そういうことを言っているのである。
(後略)
儲かっていない企業にムリヤリ人を雇わせることなどできるはずがないという単純な事実に、そろそろ菅首相には気づいてほしい。
「失われた20年」の間、日本政府は国民の歓心を買うために(国民からの「景気対策」圧力に負けて)その場しのぎのバラマキを度々行い、債務を積み上げてきた。
いい加減「足下の雇用・景気の回復が第一」というもっともらしい理由をつけて「改革の先送り」を続ける愚から卒業してもらいたい。
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