|
ハウステンボス美術館所蔵のエッシャー作品および同時代の作品120点を展覧。2009年10月10日(土)〜11月16日(月)
____
M.C. エッシャー(Maurits Cornelis Escher, 1898-1972)は、オランダ北部フリースラント州の町レーワールデンに、土木技師ジョージ・アーノルド・エッシャーの5男として生まれました。21 歳でハールレムの建築装飾美術学校に進学し、当初建築を学ぶも版画科へ転じます。そこで生涯の恩師となるド・メスキータ(Samuel Jessurun de Mesquita, 1868-1944)と出会い、版画技法を学びました。1922年に卒業するまでの間にイタリアやスペインなど南欧を旅し、各地の風景を多く版画にし、特に、1922年9月に訪れたグラナダではアルハンブラ宮殿の幾何学模様に衝撃を受けます。この時の感動は彼の芸術に大きな影響を与えました。
1923 年以来エッシャーは、ラヴェッロやローマなどイタリア各地に住んでいました。しかし、戦争の影響で1935年にスイスへ移住。愛するイタリアから引き離されてからは、風景や静物といった具象的で身近なものから、幾何学的なものや心象風景的なものへと作風が変化していきます。1958年にはユトレヒトの共同墓地壁画、1967年にはハーグ中央郵便局壁画など多くの公的な作品を手掛け、国の内外からの人気を不動のものとしました。
本展は、ハウステンボス美術館のコレクションの中から、イタリア風景版画や『24の寓意画』シリーズのほか、《昼と夜》に代表されるような視覚トリックを駆使した不思議な世界を表現した作品を展覧いたします。さらに、オリジナルの版木やエッシャー家ゆかりの資料類、そして同時代作家作品もあわせ、 120点あまりの作品で皆さまを迷宮へと誘います。
(そごう美術館HPより)
招待券を手に入れたので、会期終了ギリギリに行ってきました。
日本のハウステンボスが世界有数のエッシャーのコレクションを持っているというのは意外の観もありますが、それだけ日本人がエッシャー好きであるということですかね。エッシャーが「あしたのジョー」連載時の週刊少年マガジンの表紙に使われたことがあるとは知りませんでした・・・・・・
今回の展示は初期作から晩年作まで並べてくれたので、エッシャーの画業の継続性と発展性が明瞭に見てとれました。エッシャーと言うと、幾何学的・結晶学的な不思議絵が有名ですが、旅先のアルハンブラ宮殿でアラベスク模様に魅了されるまでは、普通の風景画も描いていました。今回の展示ではそうした初期作も展示されており、初めて見る作品ばかりで新鮮でした。そうした初期の作品も精密さの中に幻想的で謎めいた雰囲気を持っていたのが興味深かったです。
そして前述のように「アルハンブラ神話」があるエッシャーですが、実はハールレムの建築装飾美術学校在学中から「八つの頭」など平面の正則分割の手法を用いた作品を描いていた、というのも驚きでした。もっともエッシャーが正則分割を多用し始めるのは「アルハンブラ」以降であり、またアルハンブラ宮殿で庭園などには目もくれず、ひたすらモザイク模様を方眼紙に模写していたという事実からも、アルハンブラ宮殿との出会いが決定的なものであったことは間違いないわけですが。
他にも、1934年の「雪景色上の飛行機」は、平面の正則分割とは全く関係ない作品ですが、その構図は明らかにエッシャーの代表作の1つである「昼と夜」(1938年、エッシャーがその独自の作風を確立した最初の作品)に活かされていることが分かりました。
さてエッシャーは晩年の20年間、地質学者、結晶学者、数学者、更には知覚心理学者と交流するようになります。
彼自身は子供の頃から数学を苦手としていて、数学の論文の中味は全然理解できなかったらしいですが、論文で例示される図は大いに参考になったと、本人は述懐しています。実際、数学者ロジャー・ペンローズが考案し論文で図解した「ペンローズの三角形」や「ペンローズの階段」は、エッシャーの代表作である『上昇と下降』や『滝』に直接的な影響を与えています。そしてエッシャーの不可能図形も数学者たちに刺激を与えたとのこと。エッシャーの作品を鑑賞していると、「数学は美である」という言葉の意味が分かるような気がします。あ、そうそう、「滝」の中にエッシャーの大好きな正多面体が描かれていることに、今回初めて気がつきました・・・
エッシャーは自らを「グラフィック・アーティスト」と定義しており、「私は 私の作品を見てくれる人々の心に驚きを呼び起こそうとしているのです」という趣旨の発言もしているそうです。確かにエッシャーの作品には芸術でござい、という肩肘張ったところがなく、哲学的でありながら、どこかユーモラスで、親しみが持てます。エッシャーはこうも言っています。「私は子供のように何事にも驚くことができるという点に関しては、自信があります」と。世界に対する純粋な好奇心。センス・オブ・ワンダー。そこにこそエッシャーの最大の魅力があるのかもしれません。
|