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かつて「朝鮮戦争の英雄」として名を馳せ、退役後はフォードの工員としてキャリアを積み上げた頑固一徹のダンディでタフな男、ウォルト・コワルスキー。ここまでなら現代版「保安官」とでも言うべき、完全無欠なアメリカンヒーローです。しかし定年退職し愛妻に先立たれた今となっては、彼は人種差別意識を隠そうともせず、他者との共存を拒み、決して己の非を認めず、揉め事は暴力で解決しようとする偏屈で粗暴で孤独な老人にすぎません。そう、本作の主人公のあり様は傲慢な老大国、アメリカ合衆国の姿そのものなのです。
そんな主人公が隣に住むモン族(ベトナム戦争でアメリカに協力したせいで故郷を追われたアジア系移民)の一家との交流を通じて、戦争以来頑なに閉ざしていた心を開いていく・・・ここにアメリカ合衆国再生への一筋の希望が見出せます。
それゆえに「目には目を」という西部劇的な力ずくの解決方法=「戦争」は糾弾されます。それまで自分が演じてきた西部劇ヒーローのあり方を『許されざる者』においてあえて否定し、またイラク戦争を批判したイーストウッドが単純な復讐劇を描くはずはないと思いましたが、ここまで見事なオチをつけるとは。私の予想を遙かに超えていました。イーストウッドは本作で俳優業を引退するとの話ですが、長くガンマンを演じてきたイーストウッドにとって、本作はまさに俳優業の集大成と言える作品ですね。これ以上ない、最高の幕切れでした。
報復は暴力の連鎖を生むだけであるというイーストウッドのメッセージは、9・11テロへの報復としての戦争を遂行中のアメリカ合衆国に重く突き刺さります。
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