古今亭日用工夫集

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多重夢はSFの定番で、他人の夢の中に侵入という設定もサイバーパンクの流行が終わった今となっては、もはや古臭いぐらいですが、複雑な構成のストーリーを最後まで破綻無くまとめた手腕は見事。

中盤、奥さんに関する主人公コブの説明が今ひとつ腑に落ちなかったのですが、実はそれが重大な伏線になっていて、後で見事に謎解きされた点には感心しました。



ただ、この作品、絶対にディックの『ユービック』を参考にしていると思うんですが、『ユービック』世界のグロテスクさに比べると、本作の夢の中の世界は理知的で整いすぎています。現実だと思っていた世界がそうではないと自覚された瞬間、全く異なる相貌を見せ始め秩序が失われ歪んでいくところに悪夢世界の最大の怖さがあるのですが、この映画では夢ならではの自由奔放な場面が少ないような。


潜入の実験段階でこそ、街が破裂したり折れ曲がったりしていましたが、いざ本番になると、犯罪チームのミッションの遂行をひたすら追いかける映像表現になってしまっているところが惜しまれます(夢らしかったのは無重力シーンだけ)。

アクションシーンは迫力満点ですが、その分、リアルすぎます。タイムリミットまでにミッションコンプリートなるか!という部分を前面に押し出してサスペンスフルに描いたために、世界への違和感が増幅していく悪夢的な恐怖感覚が伝わってこないんですね。(文字通りの)疾風怒濤の勢いだけじゃなく、それこそ「設計」が崩れてしまい何が起こるか分からなくなる、という展開が、もう少しあっても良かったんじゃないかなあ。



まあ「夢なんだから何でもあり」ではなくルールを事細かく設定したのはノーラン監督の1つの見識と言えるのかもしれませんが、多重夢SFの核心は現実と夢が混線していく不気味さにあるのですから、そこはあと一工夫してほしかった。

さて本筋とは関係ありませんが、父子和解のシーンは『市民ケーン』へのオマージュでしょうね。富と栄光を手にすることと引き替えに友を失う『ソーシャル・ネットワーク』と言い、『市民ケーン』の影響力は21世紀になっても絶大です。

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