|
岸博幸のクリエイティブ国富論
岸 博幸(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
【第62回】 2009年10月30日
小泉・竹中改革への意趣返しと中身のないパフォーマンスでは日本がダメになる!
〜国民新党の暴走と行刷会議の迷走を憂う
臨時国会が開会し、所信表明で鳩山総理の政権構想が示されましたが、現実はまだそれに伴っていないように思えます。官邸の国家戦略室が機能していない点が特に問題であることはこれまでも指摘してきましたが、ここに来て新たな問題も明らかになりました。一つは行政の無駄を取り除くはずの行政刷新会議が逆に新たな無駄を生み出しつつある、もう一つは日本郵政の人事で公約違反が露呈した、という点です。
事業仕分けより背後にある法律改廃こそ行政刷新会議のやるべき仕事
最近の行政刷新会議を巡る報道は、事業仕分けを行うチームの国会議員の人選に党側がクレームをつけたことに集中しています。確かに、官僚出身者以外の一年生議員に予算の是非や無駄を見極められるはずがなく、相談なく一年生議員を多数任命したことに小沢代表が怒るのは至極もっともです。しかし、それは表面的な問題に過ぎません。
より本質的な問題は、行政刷新会議が“事業仕分け”で予算の無駄を削減することに本当に意味があるのか、ということです。事務局長を務める加藤秀樹氏が率いるシンクタンク“構想日本”が自治体などで行ってきた手法をそのまま適用するようです。その手法自体の有効性を否定する気はありませんが、そうした作業は財務省の主計局に任せるべきではないでしょうか。
もちろん、予算の中には様々な無駄が潜り込んでいますので、それらを削減することは大事です。ただ、各省庁が要求しているそれぞれの予算には、法律などの根拠があります。時代が変化する中でそうした根拠自体が無意味になっている場合も多いのであり、予算を大きく削減するためにはそうした予算の大元となる法律や規定の見直しや改廃の方が必要であり、かつ、それの方が政治家にふさわしい仕事ではないでしょうか。
事業仕分けの定義が分からないので一概には言えませんが、事業仕分けがそうした根本の部分に踏み込まず、単に既存予算の無駄を切るのみならば、予算のノウハウを知り尽くしている財務省主計局の方がよっぽどうまいはずです。それを、選挙で選ばれた政治家が代替する必要はないように感じます。政治家はもっと踏み込んだ予算の大元の改廃に取り組むべきではないでしょうか。それは規制改革であり、不要な法律の廃止です。
そうした大元をいじらずに予算の無駄を一生懸命探すという重箱の隅をつつくような作業だけでは、予算の大胆な削減は不可能です。実際、報道によると、各省庁の概算要求の総額が95兆円を超える中、行政刷新会議は3兆円を事業仕分けで削減するつもりのようですが、財政状況を考えると削減は少な過ぎますし、政治が挑むべき目標とは言えません。
重箱の隅をつつくことだけをやろうとしているから、そうなってしまうのです。その程度ならば、財務省主計局に任せればすぐにでも削減してくれるはずです。今回は240程度の事業、合計5兆円の予算が対象のようです。2ヶ月で5兆円の予算しか精査できないとなると、一般会計と特別会計の合計200兆円すべての事業仕分けをするのに6年以上かかり、マニフェスト実現までの4年間では終わらないことになります。
(後略)
週刊・上杉隆
上杉隆(ジャーナリスト)
【第101回】 2009年11月12日
事業仕分けの情報公開は、健全な民主主義への一歩前進だ
きょう(11月11日)、行政刷新会議のワーキングチームによる事業仕分けがスタートした。東京・新宿の国立印刷局市ヶ谷センターで3つのワーキンググループが同時に作業を行う。
希望者は誰でも傍聴が可能だ。初日のきょうは激しい雨にもかかわらず、早速入り口には行列ができた。行政の無駄遣いへの国民の目はそれほど厳しいのだろう。
議長である鳩山首相は95兆円と見込まれる予算のうち約3兆円を事業仕分けによって節約したいとしている。結果はどうであれ、新たに踏み出したこの試み自体は評価されてしかるべきだ。
事業仕分けの評価作業は、次の5段階(場合によっては6段階)に分けられる。
まず、最初に考慮されるのは(1)「必要性」だ。本当に社会から求められている事業かどうかを判断し、「不要」となれば対象から外される。
次は(2)「担い手」についての検討だ。本当に国が担うべきものか、あるいは地方の方が適していないかどうかが議論される。これによって国の事業ではないとされれば、地方自治体に委ねられる。
その次は(3)「緊要性」が考慮される。作業によって、本当に来年度予算の中で行うべき事業かどうか判断される。仮に緊要性に欠けるとなれば、来年度予算に入れることは見送られる。
次に(4)「内容・手法」への評価が行われる。本当に、事業の内容・組織・制度等に改革の余地はあるのかどうかを議論し、ここで了となっても、(5)「改革」として、さらなる改廃、改善が探られる。
その上で(6)「規模」としての予算の大きさの必要性を評価し、場合によっては縮減をするという選択肢が採られる。
これが仕分け作業の流れだが、次に具体的なその手順を説明する。
まず各省の担当者が5分程度で事業説明を行い、そのまま財務省主計官(局スタッフ)が3分程度で査定を表明して、各ワーキンググループの取りまとめ役が論点を整理する。
これらを総合し、いよいよ議論に移るための主テーマを設定し提示する。
これからが本番の評価のスタートだ。国会議員、民間評価者、担当の副大臣と政務官による議論と質疑が約40分程度行われ、評決の結果、ひとつめの作業は終了する。
これを、各WGが個別事業ごとに繰り返すのだ。
ちなみに、きょう初日のWGの内訳は次の通りであった。
第一WGは、国土交通省と農林水産省の事業仕分けで、主に道路、港湾、河川などの公共事業の評価が行われた。
第二WGは厚生労働省で、診療報酬の配分などの見直しが検討された。
第三WGは文部科学省の事業仕分けで、スポーツ・芸術分野の予算評価が行われた。
古川副大臣が実現させたネットでの完全動画中継
いずれにしても、これまでの自民党政権であれば、ほとんど折衝もなく無条件で認められていた予算事業ばかりである。新聞・テレビなどのメディアにはその効果を疑問視する声が多いが、過去と比べればよりマシと考えてもいいのではないか。
実際、初日から議論は白熱し、会場に来ていた一般傍聴者の声を2、3拾うと、その真剣な作業ぶりに感心していたようだ。
今回の仕分け対象は、予算にかかる国家事業のうちの約10分の1の447事業に及ぶ。余談だが、そこには全省庁にある記者クラブの経費は入らなかった。記者室が公費でまかなわれていることを考えれば、対象に入れても不思議ではない。その旨を会場に来ていた古川元久内閣府副大臣に述べると、苦笑いをしながら別の話題に変えた。
さて、作業自体のモデルは、加藤秀樹事務局長のシンクタンクである「構想日本」が、これまで地方自治体を対象に培ってきた事業仕分けの手法を踏襲している。その点、行政刷新会議の中核に加藤氏がいることは大きい。一般人の傍聴が完全オープンでの作業形式も、加藤氏が続けてきた手法だ。
今回、より情報公開が進んだのは古川副大臣のおかげだ。インターネットによる完全動画中継を実現させたのだ。これによって、地方に住む国民もライブで仕分け作業を監視することができる。
「少しばかりおカネはかかったけど、やってよかったよ」
会場で作業を見守っていた古川氏は、筆者の姿を見つけると、その試みについてこう語った。
だが、対象事業の中には、予想外のものも含まれているためか、さっそく閣僚から不満が漏れているという。
北沢俊美防衛大臣からは、思いやり予算を評価の対象にしていることに疑義が呈されたという。前原誠司国土交通大臣も直轄事業までも見直すという方針に疑問を持っているという。
しかし、「聖域なき見直し」を標榜している鳩山内閣全体としては、ありとあらゆる事業の仕分けを目指すことは当然である。閣僚たちの努力が求められるだろう。
相変わらず意気軒昂なのは亀井静香金融大臣だ。事業仕分け作業についても、国民新党、社民党の議員が外されている、として早速平野官房長官に噛み付いた。
いずれにしろ、紆余曲折と混乱はあるが、こうした議論が起こること自体、健全になった証ではないか。なによりこうしたやり取りがすべて国民の前に曝されるのだ。政治と行政の透明化は健全な民主主義の構築に不可欠である。
事業仕分けは年内まで続く。とりあえず今回の作業は来週の17日(火)まで同所で開かれている。これ以上の行政の無駄遣いを許さないためにも、さらなる監視の目が必要だ。
これまで50年以上も霞が関の好き勝手にさせてきた予算編成。その監視を怠ってきた記者クラブメディア。
この際、そうした頼りない人たちに任せず、東京近郊在住者ならば、ぜひ一度、その目で生の政治の動きを確かめてみてはいかがだろうか。
政治家や官僚、そして大手マスコミの不正や不作為を防ぐには、なにより国民の目が最強の武器になるのだ。
|