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マニフェストで迷走する民主党は「脱官僚」の単一争点で勝負すべし
史上最長の「総選挙前哨戦」が続いている。ここで特に注目を集めているのは、総選挙後に政権獲得の可能性が高い民主党の政権公約(マニフェスト)だ。しかし、民主党は様々な批判を受けてマニフェストの修正を繰り返し迷走している。私は、民主党はこれらの批判に過敏に反応せず、むしろ「脱官僚」の単一争点選挙に持ち込むべきだと考える。
民主党の迷走は、インド洋での海上自衛隊の給油活動を来年1月の期限まで継続させるという、安全保障の政策転換から始まった。しかし、社民党などの批判により、最終的に給油活動の賛否に触れないという曖昧な対応となった。また、地方分権では「国と地方自治体の協議の場の設置」が政権公約から抜けていて、橋下徹大阪府知事らから酷評された。その結果「協議の場」は追加された。
農業では、政権公約に「米国との間でFTAを締結し、貿易・投資の自由化を進める」と明記した。これを自民党農林族、全国農業協同組合中央会などが、農畜産品が関税撤廃の対象となり日本農業が崩壊するとして痛烈に批判した。また、民主党内からも異論が出るようになり、結局「締結」の表現を「促進」に変更した。
この民主党の迷走に対して、麻生太郎首相は財源問題や一貫性のなさなど様々な角度から批判を展開し「政権継続」を訴えた。その結果、衆院選公示前に自民党の支持率が若干回復した。
「マニフェスト選挙」に巻き込まれた民主党の愚
これは民主党の明らかな戦術ミスだ。国民が今、政治に望むことは様々な政策を並べることではないからだ。むしろ、国民が望むことは都議選が示したように「官僚支配の自民党政治」からの「変化」なのだ(第28回)。なぜなら、民主党の支持率はこの迷走にもかかわらず落ちていない。また、民主党と自民党の政権公約の最大の違いは、この「脱官僚支配」なのだ。民主党が「政権交代」によって「脱官僚」を実現すると堂々と掲げているのに対して、自民党はなにも示していない。
つまり、民主党は「脱官僚」の一点に絞って自民党政治を攻撃すべきであり、2005年総選挙における小泉首相(当時)のように単一争点の選挙をやるべきだ。マニフェストの個別項目は、あくまで「脱官僚」をアピールする事例という位置づけにとどめるべきなのだ。国民の声を理解することなく、杓子定規に生真面目な「マニフェスト選挙」を行い、個別項目を散々に批判されて迷走するなど、選挙戦術として愚の骨頂と言えよう。
「脱官僚」の単一争点選挙が国民に支持される理由
なぜ民主党が「脱官僚」の単一争点選挙を行うべきか、もう少し詳しく考えてみる。まず、2007年参院選以降の「ねじれ国会」での世論の推移を振り返ってみる。「ねじれ国会」では野党が参院の過半数を制したために、参院の様々な法案審議で与野党が激突し、審議がストップした。しかし、度重なる野党の審議拒否・法案否決をマスコミや識者が批判したが、世論調査では常に内閣支持率・与党の支持率の下落が野党のそれより大きかったことを指摘したい。
この間、内閣支持率が上昇した唯一の例外は、小沢民主党代表(当時)の秘書が逮捕されて、民主党の攻撃が弱まった時だけだ。これを素直に解釈すれば、民主党の厳しい政府与党攻撃は、常に世論が望んでいたものだったということだ。
また、この世論の支持は、政府・与党への感情的な反発と考えるべきではない。第17回で指摘したように、野党が参院を止めた結果、「日銀総裁人事(財政と金融の分離)」「年金問題」「薬害肝炎」「防衛省問題」「ガソリン税暫定税率」など、これまで国会論戦の焦点とならず、素通りされていた深刻な問題点が国民の前に明らかにされてきた。
実は、これは世論から正当に評価されてきたのではないか。なぜなら、現在の「政治の変化」を求める声の広がりは、野党の徹底的な追及の積み重ねで、多くの国民が自民党政治の「官僚支配」の深刻さをしっかり認識するようになった結果だと考えられるからだ。従って、民主党の選挙戦略は、まず「ねじれ国会」の成果を堂々と訴えることからスタートすべきなのだ。
「政界再編派」の土俵に乗ると「政権交代」の大目標が疎かに
今年最初の評論(第14回)で、今年は「政界再編」か「政権交代」かという日本政治20年来の対立軸が決着する年であると論じた。「政界再編」には、与党政治家や官僚が、政党のメンバー構成を少し組み替えるだけで、既得権を維持したまま生き残りたいというニュアンスがある(ちなみに、渡辺喜美氏は脱官僚こそ唱えているが、政界の枠組としては現状維持を志向している)。一方、「政権交代」とは、自民党を下野させて官僚の長年の癒着関係を解体し、既得権益を打破することを目指すもので、当然民主党が目指しているものだ。
私は、民主党がマニフェストの個別項目の説明に拘ることは、「政界再編派」の土俵に乗って、相手のペースで戦うことだと思う。与党側は、これまで実行してきた政策を、いろいろ問題はあったにせよ「現実的」な対応であったと認識している。この認識を前提にすれば、民主党が政策転換を訴えることは「地に足が着いていない」議論ということになる。だから、与党側は民主党に対しては激しい批判を浴びせることになり、それをマスコミが派手に取り上げる。結果として、民主党が最大の目的としている「政権交代」に国民の注目が集まらないということになる。
「マニフェスト選挙」を推進することが、政局よりも政策中心の政治を実現するために重要なのはわかる。しかし、今回の総選挙に関しては、「マニフェストの定着」は「政権交代の実現」よりも優先順位が低い。また、「マニフェスト」はあくまで政権獲得の「手段」であって「目的」ではないことを民主党はしっかり認識すべきだ。
民主党は相手のペースに乗らず、まず自分の土俵に立って「脱官僚」の必要性の単一争点に絞って訴えるべきではないか。民主党は、政権交代の実現が、日本政治の20年来の対立軸を決着する大目標であることを忘れるべきではないのである。
率直に言って、道路無料化や子供手当てなどは国民の間で賛否が分かれるところだろう。唯一、国民的合意が形成されているのが、根深い官僚不信(社保庁や国交省北海道開発局、全農林におけるヤミ専従や天下りなど)に端を発する脱官僚(地方分権、公務員制度改革など)であり、これが民主党の突破口になり得る。
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