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政局LIVEアナリティクス 上久保誠人
上久保誠人(大学講師)
【第24回】 2009年05月26日
世襲自体よりも当選回数による人事システムこそが問題だ
自民党は「世襲制限」を掲げる方針の民主党に対抗し、国会議員の世襲制限について、次期衆院選から国会議員の親族が同一選挙区から連続して立候補することを禁止する方向で調整に入った。正式決定されると、小泉純一郎元首相の次男進次郎氏などが自民党公認では立候補できなくなる。
しかし、この世襲制限案は自民系世襲候補が無所属で立候補した際、党県連が支援できるなど抜け道が多い。自民党は別のやり方で民主党の世襲制限に対抗すべきではないだろうか。そこで、前回に引き続いて、「政治家の世襲問題」について論じたい。特に、自民党の人事システムである「年功序列(当選回数至上主義)」と「世襲問題」を関連付けて考えてみる。
世襲議員の問題は政界の「入口」だけではない
現在の「政治家の世襲問題」に対する批判は、主に政界への新規参入のハードルが高くなり、外部にいる優秀な人材が政界に参入しづらくなるというものだ。ただ私は、世襲問題の本質はここにはないと考えている。
世襲議員は自民党国会議員の約4割弱である。確かに他の民主主義国家と比べて世襲議員比率は圧倒的に高いが、それでも約6割強は世襲なしで国会議員となっている。外部から絶対に政界に参入できないわけでもない。むしろ、麻生内閣の閣僚の6割(18人中11人)を世襲議員が占めているように、世襲議員のほうが政界でより指導的立場になりやすいことが問題ではないかと考える。
前回指摘したことだが、80年代以前の首相はほとんどが世襲議員ではなく、逆に90年代以降は首相のほとんどが世襲議員である。これは単に世襲議員の数が増えたためではなく、自民党の年功序列システム(当選回数至上主義)の完成と関係がある。
当選回数至上主義とは、国会議員の当選回数に応じて、閣僚、副大臣、国会の委員会、党の役員といった、さまざまなポストを割り振っていく人事システムである。自民党議員は当選5−6回で初入閣までは横並びで出世し、その後は能力や実績に応じて閣僚・党役員を歴任していく。これは、約300人もいる自民党の国会議員の全員が納得できるように党の役職を割り振るのは簡単ではないため、「当選回数」というわかりやすい基準を設けたということだ。このシステムは自民党政権の長期化に伴って固定化し、「当選回数」が国会議員を評価する絶対的な基準となった。
このシステムでは、若くして国会議員に当選すると、それだけ党内での出世に有利となる。そして、強固な選挙区(地盤)、政治資金(かばん)、知名度(看板)を引き継ぐ世襲議員の初当選年齢は若い。例えば、小泉純一郎氏・30歳、橋本龍太郎氏・26歳、羽田孜氏・34歳、小渕恵三氏・26歳である。ちなみに、史上最年少・自民党幹事長だった小沢一郎氏は27歳初当選だ。
これに対して、官界やビジネス界で成功した後や、知事などを経験した後に40−50代で政界入りした場合、この人事システムではその経験や実績はほとんど考慮されない。例えば、小泉内閣で首相秘書官を務めた小野次郎氏(52歳で初当選)、財務省主計官だった片山さつき氏(46歳で初当選)はただの1 回生議員扱いである。そして、このシステムでは40−50代で政界入りすると、初入閣するのは 50代後半か60代前半となる。その時彼らと同年代の世襲議員は、既に主要閣僚・党幹部を歴任したリーダーとなっている。
ちなみに、近年はこのシステムを逸脱する抜擢人事もしばしば行われている。しかし、抜擢されるのは麻生内閣の小渕優子少子化担当相、小泉内閣の安倍晋三幹事長、石原伸晃国土交通相など世襲議員である。抜擢人事では若手が起用されることが多く、若くして国会議員となれるのは世襲議員が多いからだ。
世襲+年功序列による「逆・学歴社会」
一方、かつて歴代首相の初当選年齢とキャリアは、池田勇人・50歳(1期目に蔵相就任)、佐藤栄作・48歳(当選前に官房長官、1期目に自由党幹事長、郵政相)、岸信介・57歳(戦前・商工相、1期目に自民党幹事長)、福田赳夫・47歳(4期目に政調会長、幹事長)、大平正芳・42歳(5期目に官房長官)であった。当選回数至上主義が確立する前の自民党は、財界や官界で出世した人物が40代以降に初当選し、即幹部に抜擢される実力主義だった。
前回、私は日本ではかつて「東大→キャリア官僚→(閨閥入り)→政治家」というルートが政治家への道として確立していたが、民主主義の進展で生き方・価値観が多様化し、優秀な人材が必ずしも官僚となり政治家を目指すとは限らなくなったと書いた。しかし、これは逆に言えば、多様な生き方・価値観がある中で、「政界入り」が必ずしも魅力的なものではないから、優秀な人材が政界進出を選ばなくなったということだ。
現在の政界は、成蹊、成城、学習院などを出たお坊ちゃま・お嬢さまを、一生懸命勉強して東大・早稲田・慶応などを卒業した人材が支えているという構図になっている。いわば政界には「世襲」+「年功序列」=「逆・学歴社会」が出来上がってきている。これでは、優秀な人材はバカバカしくなって政界に興味を持たない。これが「政治家の世襲問題」の本質なのではないだろうか。
私が自民党の選挙対策を考えるならば
私が自民党の菅義偉選挙対策副委員長ならば、民主党の「世襲制限」に「世襲制限」で対抗するようなことはしない。「世襲制限」は職業選択の自由や被選挙権という憲法の規定を制限するもので、政策としての筋が悪い。大衆迎合的でもある。それに対して小泉ジュニアを公認はしないが対立候補を擁立もしないようなことをしても国民はごまかせない。
それよりは、世襲議員が出世しやすい「当選回数至上主義」の人事システム廃止を党の公約としたらどうか。これは単純な世襲批判よりもわかりにくいかもしれない。しかし国民に対して誠実に訴えていけば、民主党の公約がいかに大衆迎合的であるかを浮き彫りにできる。心ある国民からは必ず理解されるはずである。
(引用終わり)
なお、アメリカのオバマ大統領は周知のようにハーバード大学ロースクールを卒業したエリート弁護士出身、イギリスのブラウン首相は名門エディンバラ大学卒、フランスのサルコジ大統領は弁護士出身、ドイツのメルケル首相は名門ライプツィヒ大学卒、ロシアのプーチン首相は名門レニングラード大学卒である。
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