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真夜中にこっそり起きます
しぃーんと静まり返った部屋
カーテンを開け月明りを入れ
テープレコーダーの再生ボタンを押します
ボリュームは微かに耳に届く程度の音
聞こえてくるのはラジヲから録音した朗読 「銀河鉄道の夜」
微かな光子の中に浮かんでくるのです
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夜の子供
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夜の小さな公園で 長い透明の合羽を着た少年が 風の吹くのを待っていました
少年には居場所がなかった
引っ越しが多かったので どの学校でもよそ者で
家に帰っても父親と 母親とは違う若い女の人がいて
そんな頃 一冊の本が彼の慰めになりました
『風の又三郎』
風の強い日に転校してきた三郎少年は 再び風と共に去ってゆく・・・・
風は今の僕を自由に開放して どこかへ連れて行ってくれるんじゃないだろうか
彼は真剣にそう考えていたのでした
*一ヵ月ほど又忙しくなりそうなので、その前に暫く描いていなかった「夜の子供」も残しておきます。
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小学校の四年の頃の記憶
クラスに一人の女の子が転校してきた
「○○紀子といいます 栃木から引っ越してきました どうぞよろしくおねがいします」
伏し目がちで蚊の鳴くような声で自己紹介した
彼女は僕の前 斜め右側の席をあてがわれた
四時間目の後給食が済んで休憩時間 校庭で遊ぶ者 読書をする者 次の授業の予習をする者
皆それぞれの過ごし方をしている時 彼女は手提げ鞄から何かを取り出して膝の上に置き それをじっと見つめていた
掌ほどの小さなクマのぬいぐるみ
その彼女の様子を クラスのおせっかいな女子三人組が放っておく訳がない 周りを取り囲み「何々それ 可愛いね」「どこに住んでるの?」「何か趣味はある?」「何の科目が好き?」・・・矢継ぎ早に質問をした それに対して彼女は訥々と恥ずかしそうに答えていた
ノートの余白に落書きの漫画を描いては時間を潰していた僕の耳にも その内容は漏れ聞こえてきた
家庭科が好きな事 ○○町の三丁目のアパートに父親と二人で住んでいる事 去年母親が死んだ事
そしてこのクマのぬいぐるみは母が元気だった頃に得意な裁縫で手作りしてくれた物である事・・・・そう答えた後 そっとぬいぐるみの頭にやさしく手を添えた
悲しい出来事が起きたのはその数日後
例によって昼休み 彼女が膝の上にぬいぐるみをおいて眺めていると 体が一回り大きくて粗暴な性格の○山と○島の二人が 教室中を走り回っては時折他の生徒にちょっかいを出して暴れていた
普段ならば校庭を走り回っている二人だが この日は雨だったのだ
彼女のぬいぐるみが視界に入った○山は それを鷲掴みすると○島との間でキャッチボールの真似をしだした
必死に奪い取ろうとする彼女の様子は 殊更に彼等の行為を助長させた
初めは手で投げるだけだったものが やがては蹴りに変わる
汚されてゆくぬいぐるみ
女子三人組の制止の声など聞く訳もなく 容赦なく二人は蹴り続けたのだ
ようやく隙を見て彼女はぬいぐるみを奪い返したが 執念深い○山がそれを再び奪おうとした
そして 引っ張り合う内に無残に頭と胴に引き裂かれた・・・・・・
その日を境に 彼女は学校に出て来なかった
程なくして彼女が使っていた机と椅子が肩付けられて転校した事を先生は告げた
今僕が思い出す光景は あの出来事の後の彼女の姿
まるで石の様に固まって微動だにしない うなだれた後姿
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「ここで眠るといいよ」 苔人達はドロシーのためにヒカリゴケベッドを用意してくれました。
「ここは昼間でも日が射さないし とっても涼しいの 安心して眠れるよ」
連日の猛暑でなかなか熟睡出来なかったドロシーに うれしいプレゼントです
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窓から見える 使われなくなった資材倉庫
いつの日からだろう 一人の男の子が姿を現すようになったのは
日が傾き始める頃 何処からかやって来て 街灯が燈ると どこかへ消えて行く
その間 何をやっているかというと
小石を蹴っていたり 紙飛行機を作って飛ばしてみたり 単にぐるぐると倉庫の周りを回っていたり・・・
一人だけで出来る遊びに興じている
この日はというと 何やら熱心に地面に落書きをしているよう
ただただ一心不乱に 時の立つのも忘れて
薄暮を背にして無心に取り組む小さなその姿に 僕は思わずその場に駆け寄って その頭をそっと撫でてやりたい気持ちが込み上げてきたのだけれど・・・・それはしなかった
それをしたら何かが壊れてしまいそうで
僕は離れた場所から少年の孤独に寄り添っていよう
あくる日の朝 僕は資材倉庫で少年が地面に描いた落書きを目にした
それは家らしきものを描いた跡の様だったけれど はっきりとそうだとは言えない
何故なら 一度描いた物を靴で消したみたいだったから
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