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藤子・F・不二雄さんの作品で「異色短編集」というものがある。
「ドラえもん」や「パーマン」のようなホノボノした普段の作風とは違って、実にブラックで風刺の効いた短編ばかり集めたものです。僕は昔から大好きです。
昔、永井均が『マンガは哲学する』という本において、この中から三篇ほど取り上げて「哲学」していた。実に永井さんらしい。永井さんは藤子・F・不二雄さんの哲学的感性の高さに舌を巻いていた。「藤子は手塚以上である」みたいなことも言っていた。
取り上げていたのは『ミノタウロスの皿』と『気楽に殺ろうよ』と、あとひとつは忘れました・・・
さて、この『気楽に殺ろうよ』という作品、確かに実に不可思議でおもしろい。「哲学」できるほどの作品である。(もちろん基本的に全編おもしろいんですけど)
どういう話かというと。やはりウル覚え。たぶん、かなり、間違ってる。
主人公が朝起きると(事故にあってそこから目覚めると!?ウル覚え)、なーんか変な感じがする。
主人公は一児の父なんですが、あるとき子供に絵本を読んでくれとせがまれて「シンデレラ」を読んであげる。
最後にシンデレラは王子様と結ばれてハッピーエンドなんですけど、そのあとにシンデレラと王子様のベッドシーンが描かれている。
主人公はビックリして、絵本片手に奥さんに説明するんですけど奥さんは何にも驚かない。「結婚したんだから、当たり前じゃない」のような対応で、話が噛み合わない。もういい、寝る!と主人公はベッドに。
そして翌朝、お腹がすいた主人公は奥さんに「おーい、朝飯くれ!」と言う。
すると、奥さんは大慌てで「近所に聞こえるでしょ」と照れまくる。
「なんでだよ、いいからメシだよ、メシ!」と主人公は大声で返すと奥さんは「もういや!」と顔を真っ赤にしてご飯の準備に。
そして朝ごはんは、家中のカーテンを閉めて家族全員黙々と黙って食事。何か、恥ずべきことでもしているように。
会社に向かう主人公、しかし、街を歩いてもどこにも食事できる場所も食堂の看板もはない。
そう、その世界は、性がオープンで、食事が恥ずべきこととされているのだった。
また、その世界は、金銭を支払うことや正当な理由があれば、殺人が正当とされる社会でもあった。
そして、主人公はカウンセリングを受けることになる。
主人公は主治医にいかに食欲は正常で性欲は恥ずべきものかを主張するが、ことごとく主治医に論破される。例えば「食欲は、自己の個体の保持のための閉鎖的な欲望、性欲は人類の種の保存のためのオープンな欲望、さて、どちらが恥ずかしいでしょうか?」とか。
結局、主人公は主治医の意見に完全に納得して、意気揚々と殺人に向かうわけですが・・・ネタ晴らしになるんでオチは書きません。
つまり、倫理的な部分、そこのみが大きく異なるパラレルワールドを描いているんだけど、我々にはとても異質に見えるその世界でも、その内部は一切自己破綻していないことがこの作品のおもしろいところ。
我々は、その世界の倫理をこの世界の倫理で論破できないのである。(食欲と性欲の善悪があべこべで何が悪いんだ!?)
つまり、倫理的な善悪の相対性というものが描かれている。そうやって考えると、いかに道徳というものが相対的なものかということに気付かされる。
だから、「道徳なんてない」主義者の永井均も取り上げるわけで。
「異色短編集」は三冊くらいあるんですけど、ほんとに全部面白い。
ほかにも『ころりころげた木の根っこ』や『ノスタル爺』『どことなくなんとなく』『ミノタウロスの皿』なんかも大好きです。ほんとに面白いんだって!
藤子不二雄は、スゴイなあって改めて思う。
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