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「間もなく、横浜に着きます。」 車内放送が、横浜に近付いたことを告げた。 トンネルを抜けると丘陵地帯に家並みが張り付き、丘陵地帯が切れて国道1号線が線路に並行し、建物の密度が増えて空き地が目に入らなくなり、その向こうにランドマークタワーが見下ろすように聳え立っている、いつもの光景だった。 列車の足取りが徐々に緩やかになった。 見慣れた光景の中に溶け込むかのように、何やら色々あった今回の道中のことも「もう終わりなのだ」というように、軽い振動を伴って静かに「さくら」は横浜駅に停車した。 何度か乗った「さくら」だが、今日ばかりは単なる旅の終わりではなく、濃密だったと言えば濃密な、波乱の多いと言えば波乱の多い時間の終わりだった。 結局、車掌が回ってくることはなかった。 車掌に気付かれないように、停車するやいなや彼女を先に降ろして、後から自分も続いた。 どっと、全身から力が抜けた。 濃密な夢を見て、夢から覚めて虚脱状態になったところへ、虚脱状態になる間もなく現れた彼女。 短い時間だったが、彼女を安心させるためにとにかく自分がするべきことはした。 彼女を見た。 「よかった。結局車掌さんも来なかったし、無事に着いて。」 彼女もまた、自分を見た。 「本当に、どうもありがとうございました。私、本当にどうしようかと思って…」 「ここから君が乗る電車は…」 「いえ、いくら普段電車に乗らない私でも、さすがにここまで来れば大丈夫ですから…」 「いいんだ。ついてきて。」 彼女を、大船方面へ向かうホームに連れて行った。 「このホームで待っていれば、平塚や国府津とか小田原や熱海や伊東行の電車が来るけど、どの電車に乗っても大丈夫だから。次が戸塚で、その次が大船だからね。15分くらいで着くから、本当にすぐだから。」 「本当に、どうもありがとうございました。」 「いいんだよ。」 彼女が、また下を向いた。 「私、何だかこのままお別れするの、申し訳ない。ここまでしていただいて、このままお別れしてしまうなんて…」 「そんなに、気を遣わなくていいよ。困っている時はお互いさまじゃないか。」 「そうだ!」 彼女が顔を上げた。 彼女は鞄から手帳を取り出し、何やら走り書きをすると、手帳からページを切り離して、自分に渡した。 「どうぞ、今度こちらへいらしてください。」 そこには、鎌倉の住所といかにも和風のお店の様な名前が書かれていた。 「これは?」 「私の実家、鎌倉で、そんなに大きくはないのですけど、お店やっているんです。ぜひ一度こちらへいらしてくださいませんか。」 一瞬、困惑した。 「いや…俺、別にそういう訳じゃなくて、本当に君が困っているから当たり前のことをしただけで…別にそこまで気を遣ってもらうことないから。」 少しの沈黙の後、彼女が哀願するように自分を見た。 「あなたは、ただの見ず知らずの方ではないんです。困った時に助けてくれた、私がどうしてよいか分からない時に助けてくれた、本当に神様みたいな方なんです。そういう方に、ぜひとも心からのお礼がしたいんです。だから、そこまでさせていただかないと、私絶対罰があたる…」 「そんなことないよ。」 「本当に、ぜひいらしてください!」 そこへ、夢の中の彼女の顔が浮かんだ。 「あなた、この女性(ひと)の厚意を受けてあげて。」 そう言っているようだった。 深く息を吸い込んだ。 「わかったよ。」 心の中で、そう呟いた。 再び、彼女の顔を見た。 目の前の彼女は、自分の答えを待っているようだった。 「そこまで言われるのであれば、一度伺います。」 彼女の目が潤んだ。 「どうもありがとう…」 突然、彼女が自分の手を両手で握った。 どきっとした。 柔らかな彼女の手だったが、自分に必死に何かを訴えているのが分かった。 「本当に、お待ちしていますから。心をこめてお礼させていただきますから。」 そこへ電車がやって来た。 「本当に、今日はどうもありがとうございました。」 彼女の顔を見上げた。 「気をつけてね。」 「お待ちしていますから。本当に、出来る限りのおもてなしをさせていただきますから…」 彼女が電車に乗り、少ししてドアが閉まった。 彼女が、自分に深々と会釈をした。 自分も、慌てて頭を下げた。 電車が去り、ホームが少し静かになった。 そこへ、また夢の中の彼女の顔が浮かんできた。 「あなた、あの女性(ひと)とうまくやってね。」 そう言っているようだった。 「何言ってるんだ。彼女とは、まだついさっき、初めて会ったばかりじゃないか。」 更に、心の中で呟いた。 「大体、君はどうして俺の夢の中にパッと現れて、パッと消えてしまったのさ?」 「ごめんなさい。だから、あなたとあの女性(ひと)とのこれからは、わたし見ているからね…」 彼女が、ウインクしたように思えた。 ※作者注…寝台特急「さくら」は2005(平成17)年3月1日のダイヤ改正で廃止されました。 旅が終り、偶然出会った二人のこれからは… 寝台特急 さくら+はやぶさ 牽引機 EF66 47[関] 2002.8.10 東京 おわり 作者の言葉 執筆した当初は自信を持っていたつもりですが、脱稿して4年半経って読み返してみると、何と言う駄文… それでも、こんな駄文にご声援もいただきまして、今はご覧いただいてよかったと思っています。 約半年間のおつきあい、誠にありがとうございました。 次の文章の構想もありますが、暫く休憩します。 ここからご覧になりました方は、こちらもご覧下さい。
寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(2) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(3) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(4) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(5) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(6) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(7) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(8) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (9) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (10) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (11) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (12) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (13) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (14) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (15) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (16) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (17) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (18) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (19) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (20) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (21) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (22) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (23) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (24) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (25) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (26) |
「鉄」ネタ小説
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鉄道を舞台にした小説を書きました。
文学賞に出そうとは思いませんし、出しても相手にはされないと思いますが、拙ブログで「鉄」な方にご覧いただく分には構わないだろうと思い、ご覧にいれます。
文学賞に出そうとは思いませんし、出しても相手にはされないと思いますが、拙ブログで「鉄」な方にご覧いただく分には構わないだろうと思い、ご覧にいれます。
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いつもだと、「もうすぐ横浜だ」と、自分だけの空間に浸っているが、今日ばかりはそうはいかない。 車掌は、ここに至るまで回ってこない。 重要なことを思い出した。 下車駅近くなると、「ソロ」は部屋の鍵を車掌が回収にくるのだ。 だから、個室にいなければならないのだが、彼女を一人にしておくことは出来ない。 と言って、部屋の中に彼女を入れると、それだけで寝台料金を請求されると思った。 どうしようかと思った。 彼女に、「すぐ戻ってくるからここにいて」と言った。 今のうちに、車掌に鍵を返しに行こうと思った。 車掌だって、自分が鍵を返しに行けば、回収に行く手間も省けて有難いだろう。 自分から鍵を返しに来た理由まで、問われることもないだろう。 彼女と、何か話をしようと思ったが、あと30分もしないうちに横浜では、どんな会話をしようかと思った。 これが夢の中の彼女を相手にしていた時は時間がたっぷりあったが、目の前の彼女は間違えてこの列車に乗ってしまったのだ。 だから気軽に話題を振るのもどうかと思ったが、横浜に着くまでは彼女を安心させないといけない。 大船が近づいてきたようだった。 彼女が、そわそわし始め、そして溜息を一つついた。 「ああ…」 彼女は、窓の外に視線を送っていた。 そうしている間に大船の駅に近づき、目の前を「大船」の駅名標の文字が過ぎていく。 「私、本当はここで降りる筈だったのに…」 そして、後ろに遠ざかっていく大船駅の方に視線を送っている。 また、何かが背中を押すようだった。 「大丈夫だよ。横浜までは、あと15分もしないんだ。」 「でも…」 彼女の肩を叩いた。 「横浜から大船なんて、すぐだから大丈夫だよ。」 「でも、お金請求されたら…」 「心配しないで。今まで車掌さん来てないし。さっき鍵を返しに行った時も、君のことは気が付いていないようだったし、もしお金払うことになっても、僕が立て替えてあげるから、本当に心配しないで。」 彼女は、下を向いてしまった。 「ごめんなさいね。私が間抜けだったばかりに、あなたのこと煩わせてしまって…」 「君は、余計なことを考えなくていいよ。僕だって、ホームの放送なんて耳に入らないことあるのだし、間違いは誰にでもあることなんだから、仕方ないじゃないか。とにかく横浜までは僕が一緒にいるから…」 大船を過ぎて横浜が近くなる前に、家並が切れ、緑が濃くなって人家が少なくなってトンネルに入る。 トンネルを抜けると、再び建物の密度が濃くなる。 この風景の移り変わりを見ると、横浜が近いことを実感する。 トンネルを通過している最中、何となく夢の中の彼女が浮かんできたように思えた。 「あなた、もう少しよ。」 そう言っているようだった。 「わかってるよ…」 心の中で、そう呟いた。 昨夜来の博多からの旅路も、終わりに近づいていた。 昨夜、博多から乗った時のことを思い出していた。いつも通りの博多からの出張の帰り道の筈だったが、今回はいつもとは違う出張からの帰り道になった。 ほんの少し寝る時間が遅かったら、夢の中で彼女と出会えただろうか? あるいは、「彼女」が現れたとしても、もう少し違う展開を辿っていただろうか。それとも、完全に違う夢を見ていただろうか。 自分も、ずっと個室に籠っていて、無意識のうちに人恋しくなっていたからそんな夢を見てしまったのか。 夢から覚めて、虚脱状態になっているところへ現れた、もう一人の「彼女」。 この展開は、一体どういう風に解釈すればよいのか。 夢の中の彼女は、夢の中と同じように、そういうことに理屈をつけることは全く意味の無いことだと言うのだろうか。 「間もなく、横浜に着きます。」 車内放送が、横浜に近付いたことを告げた。 博多から15時間余り、長かったのか短かったのか… 〜つづく〜 ここからご覧になりました方は、こちらもご覧下さい。
寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(2) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(3) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(4) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(5) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(6) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(7) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(8) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (9) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (10) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (11) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (12) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (13) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (14) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (15) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (16) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (17) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (18) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (19) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (20) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (21) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (22) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (23) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (24) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (25) |
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「この『電車』、面白い。ソファーがあって、何だかホテルみたい。」 ソロの通路で彼女を見かけてから、何とか彼女を落ち着かせようと無我夢中だったので、自分は女性との距離を測るのが苦手とか、そんなことを考えている余裕は全くなかった。 外を見ると、いつの間にか列車は小田原を過ぎて、国府津まで来ていた。 改めて、彼女を見つめた。 夢の中の「彼女」は、とにかく積極的で、自分の先回りをするように色々なことを話してきたが、目の前の彼女は、見るからに大人しそうな女性(ひと)だ。 夢の中の「彼女」は、自分一人でどこまでもやって行けそうな女性(ひと)だったが、目の前の彼女は、電車に乗り間違えてしまうくらいだから、どこか自分が守らなければいけないようなものを感じた。 「この青い『電車』って、私全然見たことない。 この『電車』、どこから来たんですか?あなたはどこから乗ってきたんですか?」 「この列車は熊本と長崎から東京へ行くんだ。僕は博多から乗ってきたんだ。」 「えーっ!。博多って、九州の博多ですよね。」 「うん。」 「すごく、時間かかるんじゃないですか?へえ…そんな『電車』あるんだ。こんな、ホテルみたいな『電車』、初めて見た。」 「博多を出たのが昨日の夜の7時40何分だったから、もう何時間乗っているんだろう。もう15時間近くなるのかな。」 「えーっ…」 彼女は、それを聞いて気が遠くなったようだった。 「仕事の帰りなんだ。君は、寝台列車って乗ったことないの?」 彼女は静かに首を振った。 「全然。私、普段電車って余り乗らないから…」 彼女は、改めて自分の目を見つめて、言った。 「私、伊豆の親戚の所へ行っていたんです。いつもだとクルマで行くのだけど、今回は電車で行かなければいけなくなったの。親戚が、今からだったら熱海で乗り換えして、東京行の来た電車に乗れば大丈夫って言うから…」 「でも、この列車が入ってくる時は、ホームで『この列車は特急です』とか、『寝台料金が必要です』とか放送があった筈だよね?」 「私、普段電車乗らないから、もう無我夢中で…」 それを聞いて、彼女が何故乗り間違えたのかわかった気がした。 彼女は、普段余り電車に乗らないくらいだから、寝台列車なんて見たことも乗ったこともないし、それどころか存在すら知らなかったのだろう。 ましてや、伊豆の彼女の親戚に至っては、尚更だ。 だから、疑うことなく「東京行の来た電車に乗ればよい」という話になってしまったのだろう。 ホームの放送にしたって、自分だって耳に入らない時は入ってこない… 彼女の不注意を責めることは、出来ないと思った。 だから、彼女が降りるまでは自分がいてあげないと…と思った。 彼女も、彼女の親戚も存在すら知らないくらいだろうから、この列車いつも空いているし、若い女性なんてまず見かけない。 ふと、今回目の前の彼女と出会う前、一体何故こんな夢を見たのだろうと思った。 自分も、どこか人恋しくなっていたと言うか、若い女性が乗ってこないかなと思ってこんな夢を見てしまったのだろうか。 折角夢の中の「彼女」といいところまで行ったのに、寸前で夢から醒め虚脱状態に陥っていたところで、熱海から目の前の彼女が現れた。 展開のめまぐるしさを、現実として捉えるのが精一杯だった。 しかし、目の前の彼女が落ち着きを取り戻してくれたことは、とにかくよかった。 「この列車って、全部ベッドがあって、夜寝ている間に移動出来るんだ。でも、ベッドにずっといると息が詰まってしまうよね。だから、こういうホテルのロビーのような車両があるんだ。」 「そうなんだ。」 彼女は、感心したようだった。 「でも、今は九州へは、大体の人は飛行機や新幹線で行くからね。だから、この列車いつも空いている。この列車も、いつまで走っているかな…と思う。」 「どうして、そんなに時間がかかるのにこの『電車』に乗るんですか?」 「今だってそうだけど、誰もいないじゃない。だから、自分だけの世界に浸りたいというのもあるし、仕事が残っている時は、やりかけの仕事をする時もある。 会社と違って、電話も鳴らないから誰にも邪魔されないしね。 勿論、急ぎの用事がある時は飛行機で帰ってくる時もあるけど、明日は休みとか、急いで帰ってくる必要がない時は、この列車で帰ってくるんだ。」 「お仕事の帰りなんだ。大変ですね。」 「何度も乗ったから、慣れちゃったけどね…」 窓の外に目をやって、少し息を吐いた。 そんな会話をしているうちに、もう茅ヶ崎だ。 横浜までは、30分もない。 いつもだと「もうすぐ横浜だ」と、自分だけの時間感覚で行動するが、今日はそうはいかない… 相模湾も、この状況では全く目に入らない… 〜つづく〜 ここからご覧になりました方は、こちらもご覧下さい。
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「すみません!お願いですから停めて下さい!」 目の前の彼女が、言葉でも視線でも訴えかけていた。 しかし、列車を停めるのは難しいと思った。 何故ならば、特急列車が停車駅でもない駅で停車するのは、人命に関わるような切迫した事態に限られ、そうでもない時に無闇に停車させると、鉄道側の責任問題になってしまうと聞いたことがあったからだ。 ただ、目の前に困っている女性(ひと)がいるのは間違いない状況だった。 夢の中で「彼女」を前にした時、何度か「何かが背中を押す」のを思い出した。 突然、夢の中の「彼女」が目に浮かんだ。 「もう、ここにはあなたしかいないんだよ」 そう言っているようだった。 「わかってるよ…」 心の中で、つぶやいた。 深く息を吸い込んだ。 周囲を見回すと、そこは「ソロ」の通路だ。 ここにいると、それだけで寝台料金を請求されるかも知れない。 「こっちへ行こう。」 彼女を、手招きしてロビーカーへ連れて行った。 「こっちにいれば、大丈夫かも知れないから。」 彼女は、きょろきょろ周囲を見回していたが、動揺は隠せなかった。 ロビーカーには、自分達の他に誰もいなかった。 いつもだと、他に乗客がいなくて寂しくなってしまうのだが、今の状況は彼女を落ち着かせるには好都合だった。 「ねえ、私どうしたらいいんですか?このままどこへ行くの?そんなにたくさんお金とられたら、私どうしよう…」 今にも泣きだしそうだった。 自分が今しなければいけないことは、ただ一つ。 彼女を落ち着かせること。 寝台料金のことが頭に浮かんで離れなかったが、ふと冷静に考えてみた。 熱海から横浜への特急料金は、大した金額ではない。 寝台料金だが、熱海から横浜までタクシーに乗ったとしたら、とても6,300円では済まないだろう。 そう考えると、払いたい金額ではないが、「分割にしてください」と哀願したくなるような額でもない。 腹が据わったような気がした。 「落ち着こうよ。」 「でも、私…」 反射的に、彼女の両肩を叩いた。 「僕が一緒にいるから、大丈夫だよ!」 深く息を吸い込んで、続けた。 「はっきり言って、この列車を途中で停めてもらうというのは、無理だと思うんだ。でも、横浜まで行ってしまっても、横浜から大船へは15分くらいで戻れるから、だから、大丈夫だよ。」 「でも、お金…」 「君は、乗り間違えただけなんだ。君に悪意がないというのは、誰が見てもわかるから、車掌さんが来たら僕が事情を話してあげる。もしお金を払わなければいけなくなったら、僕が立て替えてあげるから!」 「えっ!そんなことしていただいたら、私…」 「心配しないで!とにかく僕が一緒にいるから、大丈夫だから。」 確か、ロビーカーには自販機があった筈だ。 「ちょっと、ここにいて。」 お茶を一本買って、彼女のもとへ戻った。 「飲みなよ。」 そうすれば、彼女はいくらか落ち着くと思った。 「いえ、そんなにしていただかなくても…」 「今は、とにかく君は落ち着くことさ。」 少しの間があった後で、彼女が軽く頭を下げた。 「ありがとう…」 お茶を口に含んで、いくらか彼女は落ち着きを取り戻したようだった。 それから、彼女は周囲を見渡した。 「この『電車』、面白い。ソファーがあって、何だかホテルみたい…」 ロビーカーでは、本当に夜も朝も何かが起きる… 〜つづく〜 ここからご覧になりました方は、こちらもご覧下さい。
寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(2) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(3) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(4) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(5) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(6) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(7) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」(8) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (9) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (10) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (11) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (12) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (13) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (14) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (15) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (16) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (17) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (18) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (19) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (20) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (21) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (22) 寝台特急「さくら」で「一夜」の恋〜「君は夢の中」 (23) |
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夢だったということが、にわかには信じ難かった。 何故ならば、自分が眠りに落ちてから今起こされるまで、7時間は寝ていただろう。 それなのに、夢の中で彼女と出会い、彼女と一緒に博多へ行くことを決意するまで、どう思い出しても半年位の時間が経過していた筈だ。 それに、夢の中でも何回かは「さくら」に乗って博多から帰ってきていた。 ほんの7時間の間に、そんなに長い時間の夢を見ることがあるものなのだろうか。 改めて自分の周囲を見渡した。 狭い空間に自分がいて、正面の壁につけられた鏡には、間違いなく自分の顔が映っていて、窓の外を見ると景色が動いていて、列車の刻む震動が自分に伝わり、列車は朝の陽光の中を東に向かっていた。 夢から覚めて、一人分の空間に自分がいるだけだった。 しかし、短い時間にかなり密度の濃い夢を見たせいで、それがなかなか現実として受け入れられない。 つい今しがたまで、夢の中の「彼女」と長い時間を共有していたのに、今は一人分の空間に自分しかいない。 その落差が尚更そう思わせたのだった。 彼女の名前は? そう言えば、夢の中で、「彼女」を一度も名前では呼んでいなかったことに気が付いた。 「君」「あなた」「俺」「わたし」…これだけで呼び合っていた。 夢の中だったから、これだけでコミュニケーションが足りたのだった。道理で、彼女と話している間以外の場面の展開が速かった訳だ。 慌てて、自分の携帯をチェックしてみた。 何回も「彼女」とメールをやりとりしていたから、もしかすると履歴が残っていやしないかと思った。 当然のことながら、「彼女」のものと思われるものは一つとしてない。 もしかしたら、自分の周囲に夢の中の「彼女」とよく似た女性がいるのではないかと思った。夢に出てくる位だから、誰かよく似た女性が近くにいるに違いない。 最近、自分と話した女性は誰か。 自分の部署にいる女性。あるいは九州支社にいる女性。自分の友人、あるいは友人のまた友人。 思い出すがまま自分の近い所にいる女性を思い返してみたが、夢の中の「彼女」に雰囲気が似ている女性は、どうしても思い当たらなかった。 まして、女性と距離感をとるのが苦手な自分の近くに、それほど沢山の女性がいる訳などない。 そう思った途端、急に喪失感がこみ上げてきた。 夢の中で「彼女」と接していた自分は、間違いなく現実の世界の自分よりも、はるかに輝いていた。 彼女と会って、話しているうちに心に張りが出てきて、気分が高揚している自分がいた。自信も漲り、仕事に対する意欲も現実の中と全く違う自分がいた。 「彼女」を失った… 眠っている間に夢の中に出てきた「彼女」なのだから、失ったというのは間違いだとは思う。 だけど、「彼女」が「夢でなければいい」と言ってくれていたのに、自分は自分で目が覚める寸前に「夢なんかではない」と言っていたのに、結局は夢で終わってしまったことが、更に喪失感を深くした。 女性と話すのが苦手な自分にしては、随分劇的な展開なので、途中で果たしてこれが現実なのかという思いにかられたが、やはり夢だった。 甘かった。 それなら、夢の続きを何とか見たいと思ったが、あいにく自分は夢の続きを見たことは一度もない。 いつも「さくら」に乗る時に楽しみにしている、朝の陽光に輝く浜名湖も、目には入ってきたが、流れる景色を追う気にはなれなかった。 浜名湖も、ぼんやりと眺めるだけ… 夢だったことが分かって思えば、彼女と会っている時に、瞼の奥を光がいくつも通り過ぎるような感覚と、足元が何となく揺れているような感覚、それはきっと、眠りが浅くなった時に、カーテン越しにかすかに漏れてくる窓の外からの光と、列車の震動を無意識のうちに感じ取ったものなのだろう。 それに、彼女が自分の誕生日でもないのにプレゼントをくれたのも、それも夢の中だったからだろう。 いつしか浜松を過ぎ、天竜川を渡り、茶畑の中を列車は進む。もうここまで走って来ていたのかと思った。 寝台の背もたれにもたれかかり、正面の壁に足を投げ出し、窓の外に視線を移した。窓の外に視線を送ってはいたが、景色の移り変わりを追ってはいなかった。 ぼんやりと放心状態になっている間に、いつの間にか静岡も過ぎて、駿河湾にさしかかっていた。 その時は、ぼんやりとしてはいられないほど事態が急展開するとは、とても思えなかった。 列車は、いつしか熱海を発車した。 狭い個室にいるとどうしても時々外へ出たくなるので、熱海発車を機にもう一度個室の扉を開けたその時、一人の若い女性が通路に立って、辺りをきょろきょろと見回している。 旅行鞄は携えてはいるが、寝台列車の乗客と言うには明らかな軽装だった。 彼女と目が合った瞬間、彼女は戸惑い気味に自分に問いかけてきた。 「すいません、この『電車』、東京行ですよね?」 自分は一瞬あっけにとられた。 この列車に熱海から乗ってくる人がいるとは、まず考えられない。 「これ、特急だよ。」 彼女に戸惑いと不安の色が走った。 「えっ、特急?普通の電車じゃないんですか?」 「君は、どこへ行こうとしたの?」 「大船で降りようと…」 瞬時に、この女性(ひと)は、とんでもない乗り間違いをしたと思った。 「特急どころか、この列車寝台列車だよ。特急料金どころか、寝台料金までとられてしまうよ。」 「特急?寝台料金?いくらかかるんですか?」 まさか、A個室の料金までは請求されないと思うが… 「たぶん請求されるとしたらB寝台だと思うけど、6,300円…」 にわかに彼女が取り乱した。 「えっ!止めてください。降ろしてください!」 この通路で、事態が再び急展開… 〜つづく〜 ここからご覧になりました方は、こちらもご覧下さい。
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