|
映画原作『ファン・ジニ』訳者あとがき(その1)
黄真伊(ファン・ジニ)は十六世紀前半の朝鮮、つまり人気ドラマ『チャングムの誓い』に登場する“王様”中宗(チュンジョン)(李朝第十一代王、在位一五〇六〜一五四四)と同時代を生きた女性である。だが、生没年など詳しい経歴は明らかではない。というのも、彼女は身分差別・性差別の激しかった李朝時代においても、最もさげすまれていた妓生(キーセン)だったからだ。
妓生とは、歌や舞、詩作などで酒席に興を添えるとともに、性売買に携わっていた女性たちだ。彼女たちは幼いうちから芸事、時調(シジョ、朝鮮固有の定型詩)、礼節などを学び、十五歳になると本格的な妓生の仕事に従事した。だが、その盛りは短く、二十歳半ばですでに「老妓」として扱われたという。
賤民として、はかない人生を送った妓生が歴史に名を残すことはほとんどなかったが、黄真伊は例外的に、彼女自身が書いたいくつかの漢詩や時調ととともに、『松都紀異(ソンドギイ)』(李徳?迩)、『惺翁識小録(ソンオンジソロク)』(許?勣)、『於于野談(オウヤダム)』(柳夢寅)など、両班(リャンバン)たちが書き残した様々な“伝説”にその面影が伝えられている。本書に描かれる黄真伊の“男性遍歴”も、こうした書物に材を取ったものだ。
それらの記録に見る黄真伊は、「容貌と才覚がずば抜けており、歌も絶唱だった。人々は彼女を仙女と呼んだ」(『松都紀異』)といい、性格については「気概があり、物事にこだわらず、男のようだった」(『惺翁識小録』)、「品性高潔で、派手な装いは好まず、官府の酒席でも髪を梳(す)いて顔を洗うだけで、服も着替えずに出ていった」(『松都紀異』)とあるから、当時から豪快で破格な人物と見られていたことは確かだろう。
このように、古くから黄真伊は朝鮮の人々を魅了してやまず、これまでに植民地期の李泰俊(イテジュン)(一九三六年)をはじめとして、多くの作家が彼女を主人公とする小説を著してきた。二〇〇二年には大韓民国の作家キム・タクファン(金琸桓)と朝鮮民主主義人民共和国の作家ホン・ソクチュン(洪錫中)が、それぞれに黄真伊の生涯を作品化した。キムの『ファン・ジニ』は〇六年に韓国KBSで「チェオクの剣」で知られるハ・ジウォン主演でドラマ化された(〇八年八月現在、NHK海外ドラマで放映中)。一方、ホンの『ファン・ジニ』は〇四年に韓国でも出版されてベストセラーとなり、北の作家として初めて南の文学賞(萬海文学賞)を受賞した。また〇七年には「秋の童話」のソン・ヘギョ主演で映画化(〇八年九月に日本公開)され、「南北のファン・ジニ競演」として話題になった。
(その2につづく http://blogs.yahoo.co.jp/ynz98ynz/44020863.html)
http://www.amazon.co.jp/dp/4022504676
http://www.amazon.co.jp/dp/4022504722
http://www.amazon.co.jp/dp/4022504730
|