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創作BL小説を書いています。

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「良い知らせですか?それは有り難いです」
 最終手段として取っておいた斉藤病院長に直訴――祐樹自身は絶対無理な職階に居ることは重々承知の上だが、国家権力の濫用と言えなくもないアポなしで会える森技官とか、今頃病院全体のことを考えて怒り狂っているハズの内田教授ならあるいは可能かもと思っていたのも事実だった。沖縄に行ってしまって――病院長は狂気の研修医井藤のことや戸田教授の医局が今どうなっているかなど知る由もないので間の悪いだけで悪気は全くないのも承知してはいたものの、苛立たしさは募るのも事実だった。
「厚労省の麻薬取締官と警察は――同じ司法警官とはいえ――縄張り意識の問題とかライバル心の方が勝ってしまって情報の共有はおろか、警察との接点がそもそもないのです」
 それが今回の件とどう関係が有るのか分からなかったが、そういう話しをどこかで読んだ気がする。
「ただ、同居人が――具体的なことは何も言いませんのでオレも聞いていませんが――弱みを握っている麻取の人がこの辺りを管轄する警察署のある意味型破りな署長さんと懇意にしていることが分かりまして……。『麻薬の大物の某売人がこの辺りに根城を構えている可能性が高い』という――もちろんそんな事実は麻取も掴んでいません――情報を警察に流してくれました。もちろん警察もマークしている某売人らしいです。
 だから、この周囲には警察官の目が光っているハズで、普段以上に安全だとは思います。私服の刑事は聞き込みのためにうろつくでしょうし、制服の警官が重点的にパトロールをしてくれるらしいですよ」
 麻取の人と言えば祐樹も会ったことのある――そして名前は聞いていないものの――GPS機能付きのチップを貰った人だろうか?
 まあ、この際、麻薬取締官でも警官でもこの辺り――特に最愛の人のマンション近く――をうろうろしてくれれば、緊急事態が勃発しても即座に対応してくれるだろうから頼もしい限りだが。
「それは、確かに良い知らせですね」
 気が滅入ることばかりだったので、一抹の光明を見た思いがした。医局の医師が柏木先生の意を汲んで二人、最愛の彼をマンションまで送り届けるようになってはいるものの、警官なら柔道などの武道経験者も多いだろうし、職業柄逮捕術などは当然学んでいるだろうからより適任だろう。ただ、SPと異なって祐樹最愛の人を守るという気持ちは皆無だろうけれども。
 祐樹が依頼した「MSセキュリティ」の相模所長が先約先行は当たり前とはいえ、そして皇居の晩餐会だかに呼ばれるほどの超VIPの護衛に就いているのは仕方のないことだったが、やはり彼女の力が借りられないのは痛いのも事実だったので。早く月曜日になれば良いなと思ってしまう。狂気の研修医井藤が「放ち飼い」になってしまっている実情なのでなおさらに。
「戸田教授の雲隠れという、オレですらビックリする無責任さに同居人も流石に呆れ果てた余りに次には怒りだしましてね。まあ、同居人に色々性格上の欠点があるのは知っていますが……それ以上に実行力とか行動力は素晴らしいと、個人的に思います。
 それで、井伊玲子さんが本当に『どこの病院にも搬送されていない』という事実を――厚生保険証の番号さえ分かれば割り出しは可能です――証明すると息巻いていましたよ。
 あと、大学時代からの友達が大阪府警に居るようで、そのツテを辿って京都と兵庫県警の出来るだけ上の身分の高い人を紹介して貰えるように依頼中だそうです」
 呉先生がはにかんだ感じの笑顔を浮かべた。恋人の森技官に対する惚気も混じっているのだろうが、祐樹最愛の人を守ろうとこういう場面には遺憾なく力を発揮する森技官が居てくれるのは心強い限りだった。
「それは、とても有り難いです。しかし兵庫県警まで?ああ、井藤の住所が事実上分からないからですか?」
 警察といっても一枚岩の組織ではなく、大阪府警と兵庫県警では連携が悪いとか、連絡の不手際があったとかどこかで読んだ覚えがあるので、森技官もその辺りのことは折込済みで動いているのだろう。
 それに関西屈指――東京の人間でも知っている人は知っている――高級住宅街のある「芦屋」は兵庫県で、そこにも井藤は家を持っていると同級生だった久米先生が言っていた覚えがある。
「そうです。一応、井藤達也のことは辿れるところまでは辿るとのことでした。ちなみに前科前歴はナシだそうです、よ。井藤がどこで猫や犬を無残な姿にしているのかさえ分かれば、その近所の愛犬家や愛猫家を探して――何でも人の犬や猫の命を奪うと『器物損壊罪』として立件は可能なそうです。個人的には生き物なのに『器物』だなんて酷いとは思うのですが。
 また、『日本国内の銀行口座なら自分一人の手で何とか調べられますが、海外の銀行は正直手に余るものの、最近はわりに協力してくれる国や金融機関も多いので財務省の『知人』からその下部組織である税務署に発破をかけて何とかして脱税の証拠を握れるように頑張りますので田中先生に宜しく』と言っていましたよ。
 脱税の事実が立証されると追徴課税とか重課税とかで税金を思いっきり取れるらしいのです。現金納付が原則なので、井藤家に取っても痛手になると思います。予期せぬ税金督促は――それが高額であればあるほど――いかに資産家であっても困るでしょうし……。
 そちらは税務署に任せることにして、悪質であれば通常支払う税金の1,5倍まで税務署は一括で請求してくるらしいです。
 その辺りは財務官僚が任せておくようにと言ってくれたので、井藤のお金に任せた自由な行動は制限されざるを得ないように持って行きたいとのことです。
 戸田教授のみず○銀行の口座に入金された5千万円のお金も、戸田教授は確定申告で申告していないことが正式に判明しましたので、こちらの方も立派な「脱税」で、戸田教授も追徴課税されるでしょうし、送金先の銀行のコード名から井藤達也だか幸一の外国の口座を洗っている最中とのことです」
 森技官の目覚ましい働きには思わず目を開いてしまう。今回は彼お得意の搦め手から攻めるのではなく、あくまで官僚としての正当な手段で追い込むらしい。
 多分、そちらの方が有効だと森技官が判断したのだろうが、官僚としても一流の彼がそう考えたのであれば病院内という狭い世界しか厳密には知らない祐樹が異論を唱えるべきではないだろう。
「井藤達也名義で近い将来私立病院設立の計画が有るようです。この話は今朝知ったので未だお知らせしていなかったですよね」
 病院設立の具体的手順とか、どこに許可を求めれば良いかなどは医療従事者であっても知らない人間が多いし、祐樹もその例に漏れないが――定年後は二人でクリニックを建てるという約束を交わしているが、あくまでも漠然とした約束で具体的な動きをしているわけではないし、定年後という何十年も後の話なので今の祐樹にとっては殆んど来世の出来事に等しい感じだったのでまだ詳しく調べるような気分にはなっていない――厚労省が絡みそうなことくらいは漠然と分かるのでこの情報は呉先生経由で森技官に知らせておいた方が良いだろう。
「え?私立病院長ですか?あの精神疾患者が?いや、差別する気はないのですが……」
 呉先生も可憐な眼差しに驚きめいた光を宿している。
「岩松氏――先程の書類に有った病院の副院長先生ですが――からの情報で、井藤達也の
代理人弁護士だと名乗る『烏丸法律事務所』の角松弁護士が病院にいらして挨拶をしたらしいです。どうやら井藤の父親の代理人っぽい感じだったとか。井藤の父親は井藤幸一、ええその字です――が愛する息子のために病院を建てる感じでしたね。まあ、父親も病院の理事長とかそういう役職に就いて、裏社会のダーティさを払拭して多分、社会的なステイタスを狙っているのでしょうが」
 呉先生が白衣のポケットからメモ用紙を取り出して人名などを書いているのは森技官に報告するためだろう。
「弁護士事務所の件は、オレの方でも調べてみたいと思います。一応顧問弁護士も居るので何かしら聞けるでしょうし。ああ、井藤の家はいわゆる水商売系の怪しい商売をしていると聞きましたので、同居人を通じて麻薬取締官から京都府警の署長にその弁護士が反社会勢力と繋がってないかを確認したいと思います。
 ああ、それから……」
 呉先生が可憐な声を更にひそめて重要なことを告げるように――あくまでも常識の範囲内だったが――祐樹の方へと一歩近づいた。











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最後まで読んで下さって有難う御座います。
                            こうやま みか拝

この記事に

  • こんばんは!
    更新ありがとうございました!!

    普段は税務署の職員など「木っ端役人風情が」とかバカにしているのですが、腐れ雑巾の自由になる財源をぶっ潰してくれるのなら最上級の敬意を払いたいと思います!
    徹底的に井藤家を追い詰めて欲しいです。
    県警の皆さんも近隣を彷徨いて下さるとのことですが、もうこの際なので金喰い虫の機動隊にも彷徨かせたいです!
    ツイートしてる暇があるなら、世界の至宝たる香川教授を守れ!と、声を大にして言いたいです!!!!!
    腐れ雑巾と腐れ雑巾のバカ親が、ボロ雑巾のように転落していく様を指差して嗤いたい!
    使えるモノは、座ってる親でも使って欲しい(T^T)(T^T)(T^T)


    ……野のスミレ、一体なにを話そうとしているのか?
    明日の夜が待ち遠しいです!

    [ ルナ ]

    2017/9/4(月) 午前 0:44

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