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創作BL小説を書いています。

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『田中先生がその事務所について問い合わせをして来たということは例の変態研修医の件、だろうね』
 何時もは飄々とした話し方をする人なのに、何だか声は同じなのに別人のような感じが電話越しからも伝わってきて、いっそう嫌な予感が募ってしまう。
「そうです。何でも東京に私立病院をい……例の研修医のために建てるとかで、研修医の父親が懇意にしていると思しき弁護士事務所から挨拶が有ったとか」
 狂気の研修医井藤の影も形も見えないが、念には念を入れて固有名詞は省くことにした。
『ふうむ……。あの弁護士事務所は山○組系と抗争を繰り返している会○小鉄系の、しかも今時珍しい武闘派集団の組の顧問弁護士事務所だと専ら評判だよ。『烏丸』は田中先生も知ってのとおりオフィス街の地名由来で紛らわしいが、怖いモノ見たさで、見てきた人間も居るよ。神棚や水牛の角、そしてワシントン条約違反のハズのトラの毛皮がカーペット代わりに敷いてあったそうで……。
 最近は反社会的勢力に対する警察や市民の目がよりいっそう厳しくなっているにも関わらず、抗争――ま、暴力団同士の戦争だと思って貰えれば分かりやすいだろうが――も辞さないというある意味時代錯誤な組の実質上の企業舎弟だと個人的には判断しているがね……。田中先生のような真っ当な人間が関わり合いになって良い弁護士だとは思えないのだが。もちろん患者として接するのは別だがね。しかし、普通の人間関係を築こうとは思わないことだ。
 まあ、そもそもそんな物騒な事件で怪我をした人間を『真っ当な』大学病院に運ぶバカも流石に居ないだろうからあまりピンとは来ないだろうが……。銃創とかね、刀傷のような怪我人はちゃんとそういう方面の闇の病院があるらしいから』
 「銃創」と発音されて一瞬どんな字か分からなかった。確かに――覚せい剤中毒と思しき患者さんが救急救命室に搬送されて来た過去は多数有ったし、そういう場合は尿検査をして陽性反応が出ると警察に引き渡したり、重い心疾患を患った名だたる大親分を患者として受け入れたりしたこともあったが、どんな怖い人間が来るのかと思いきや物腰も穏やかで普通の老人よりも更に腰が低い感じだったので意外に思った経験も有ったが。
 救急救命室での「凪の時間」の暇つぶしとしてしか――最愛の人と過ごす自宅マンションでの休日に昔の映画などを観てまったりとした寛ぎの時間に似つかわしくないし、平日は主にニュース番組しか観ない――存在しない世界だと思っていたので、今更そんな絵に描いたようなヤクザな世界があるのだろうかと目を瞠ってしまう。
「え……。しかし井藤の父親は複数の飲食店経営者とか聞いています。ダーティな部分は多々あるものの、そこまで深い繋がりが……」
 藪をつついて蛇を出す心積もりはしていたものの、ヘビどころかヤマタノオロチのような超大物が出てきたような気がして、更に心は重くなった。
『あるだろうねぇ……。まあ、アチラさんの世界でも一番の狙いはお金なので、しかも反社会的勢力関係者には銀行などの金融機関も絶対に関わりあいになってはいけないという法改正があったので、その変態研修医の父親も名義貸しをしている可能性は捨てきれないし、非合法な手段で稼いだお金をマネーロンダリングするのに、病院というのは目の付け所としては悪くないのかも知れない。
 病院というのはいわば『性善説』に基づいて建てられるものだから、ヤクザの新たな資金源の隠れ蓑としてはもってこいだと個人的に思う。
 まあ、状況証拠だけなので、私に言えることはこのくらいだし、私の出る幕ではないよ、今のところは、ね。
 そういうのは警察の方がよほど頼りになるので、そっち関係に知り合いはいないのかい?』
 杉田弁護士の言葉に森技官の同級生だとかいう警察官僚のことが脳裏に浮かんだ。どういう人物か未だ紹介されていないので全く分からないが、大阪府警だけでなく京都府警や兵庫県警まで動かせるのだからかなりのポジションに居ると――何しろ「あの」森技官のお友達なだけに――思えるが。
「居ないこともないです。情報有難う御座います。御礼はまた改めて伺いますので」
 暗澹とした気分で電話を切った。
「田中先生、今の時間だと井藤は来ますかね?手術の手順とか術式とかは全く分からない門外漢なもので……。つまりこういう比喩を用いるのは不謹慎かもしれませんが、映画でいうクライマックスのような場面は過ぎているのでしょうか?」
 呉先生が華奢な腕の白衣の袖から出して腕時計で時間を確認している。縫合術――普通は執刀医がそこまでしない――の手際すらも一種の芸術だが、一番派手なのは心臓を直接縫合する時だろう。
 戸田教授が執刀していると見せかけて、実は白河准教授が代打を務める手術室の惨状とはまるっきり異なって、最愛の人は普段通りの冴えた手技を鮮やかに披露していたのでもう心臓部分の縫合は終わっているハズだった。
「大丈夫ですか?お顔の色が優れませんね?」
 野のスミレを彷彿とさせる呉先生が心配そうに見上げてくる。
「大丈夫です。クライマックスと表現すべき場面はもう無事に終わっている時間ですね。
 あくまで、比喩的に、ですけれども」
 井藤がバイパス術にどの程度造詣が深いかは――講義で習った程度だと思われるが――病院長おん自らが案内するようなVIPな外科医なら当然スケジュールは詰まっているハズで、そういう人間達にはそろそろ退席を促すような時間帯だろう、良く知らないが。井藤も同じ程度に考えるような気がしてならない。
 華麗な手技の持ち主なだけに手術終了時間を彼が告げるまでが芸術的なのだが、最大の盛り上がり――というと語弊があるかも知れないものの――は終わっている。
「同居人がお話ししたいことがあるそうなので、ウチのブランチに寄るとのことです。京都府警まで来たついでらしいですが……。田中先生さえ宜しければご一緒しませんか?」
 森技官と話しても、昼食時には執務室に行くと言った約束は果たせそうな時間だったので、無駄に豪華な階段を下りて旧館の方へと肩を並べて歩き出す。
「え?井藤の顧問弁護士が、ソッチ関係の弁護士なのですか?」
 野のスミレのごとく蒼褪めると思っていたにも関わらず、呉先生は干天の慈雨に打たれた秋の繊細な花のような嬉しそうな笑みを浮かべている。
 警察の内部事情とか厚労省のことなどを森技官から聞かされている差なのだろうか?
 せっかく来てくれた森技官に会った時に話せば――伝聞だと伝言ゲームのように情報が誤って伝えられることもあるので――分かることだろうと人の気配の少ない旧館の由緒ある佇まいの建物へと足を運んだ。
 この時ばかりは森技官に会うのが待ち遠しいのが我ながら忌々しいけれども、脳外科の惨憺たる有様を目の当たりにすると、森技官の「乱世に強い」性格が頼もしくみえてしまうのも事実だった。本当は祐樹一人の力で何とか事態を収拾したいのだが、この際贅沢は言っていられない。
 森技官に含むところは――だいぶ希釈されていたが――未だ心の隅には残っているものの、この際彼の好戦的かつ戦術的な性格と、官僚としての人脈に期待したいのも事実だったので。











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◇◇◇
都合により、一日二話しか更新出来ないーーもしくは全く更新出来ないかもーーことをお詫び致します。
最近、体調不良にも泣かされておりまして、更新時間すらバラバラなこともお詫び致します。こまめに覗いて戴くか、ぶろぐ村の新着などをチェックして戴ければばと思います。
 




最後まで読んで下さって有難う御座います。
                            こうやま みか拝

この記事に

  • こんばんは。更新ありがとうございました。

    あああ!烏丸の弁護士は山○組系では無かったんですね!
    まさか対抗勢力側とは…。
    杉田先生から圧力をかけて貰うことは出来ませんね(´・ω・`)
    けれど、悪辣なことでは他者に引けを取らない森技官が居ます!
    同期には警察官僚も居るし、京都府警にも話を通してくれてるらしいし、大丈夫ですよ!
    てか、マネーロンダリングに病院を使うとは、井藤め!
    プロ患者の私としては許しがたい狼藉だと義憤を抑えられません!
    伏見稲荷の野犬にアタマから喰われてしまえとか思います!

    [ ルナ ]

    2017/9/6(水) 午前 0:52

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