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創作BL小説を書いています。

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 その紙切れには、狂気の研修医井藤の顔写真が高価な業務用コピー機か超ハイスペックPCでプリントアウトした――多分職員採用時点で提出した鮮明な顔写真だろうが――が忠実に再現しているだけでなく、スーツ姿からごくラフな格好まで各種取り揃えて髪型も多種多様な感じで書類の上のほうにズラっと並んでいるというシロモノで、その下には祐樹すら知らない井藤の携帯番号などが記されて「テロも辞さない反社会的勢力の一員」という青字までが躍っているという紙切れだった。
「警察庁の友人は現在、大阪府警に修行というか出向中というか、まあ曖昧な立場というか遊軍的な感じで身を置いていますが、テロ対策の専門家でして……。
 しかもアメリカ――昨今の風潮からして『テロリストには断固たる処置を取る』というのが世界基準です――にも研修に行ったことが有りまして、万事がアメリカ式なのです。
 井藤の顔写真とか携帯電話――住所も登録されていましたが、住んでいる気配は皆無なのは確認済みです――は斉藤病院長のアカウントから院内LANに入って私が入手したのをその同級生に即座に添付したら各種変装バージョンを作成してくれました。アメリカ仕込みはダテではなかったようですね」
 森技官の明瞭かつ簡潔な説明に、病院長アカウントの凄さを再度思い知らされた。出世に全く関心を示さない、最愛の人や桜木先生のような生き方にも憧れというか尊敬の念を抱いてしまうが、やはり出世をすれば自由に動くことも出来るし、握った情報量も圧倒的なモノになるので、祐樹はあくまでも上を目指したい。
「素晴らしいですね。ウチの医局では井藤達也の顔を知っている人間が私を含め三人しかいないので、さり気なくボディガードに付く予定の医師にこの紙をコピーして渡して良いですか?」
 たまたま井藤に遭った時に一緒に居たのは医局長の柏木先生と狂気の研修医と同級生だったという久米先生だったし、このメンバーは救急救命室要員でもあるので「偶然帰り道に一緒になった」という言い訳が通用しない――医局員の勤務シフトは最愛の人の頭の中にインプットされているのでれっきとした「理由」、たとえば祐樹が今朝の手術をパスさせてもあったような「森技官のワガママ」などがなければ流石に不自然に思われるだろうから。
 それにこの書類を見ると「捜査の一環」といった感じが――実際、森技官の鶴の一声というか、官庁を超えたワガママで始まったのも事実だ――して、この紙を見れば、柏木先生に人選を頼んだ医局の中のボディガード要員の士気も高まるだろうし。香川外科は比較的真面目な医局というウワサが病院内に流れているものの、ガチガチの杓子定規と言うわけでもないのは内部に居る祐樹が誰よりも良く知っている。
 むしろ羽目を外さないように見張っているのが祐樹の影の役割だったし、割といい加減なことも仕出かすのが柏木先生だったが人を見る目とか大人の判断力は充分に持ち合わせているので、彼の人選なら確かだろう。
「もちろん構いませんよ。大量に有りますから。その紙を持って京都府警が既に動いていますし、組対もこれから動くハズです。
 何しろI津小鉄は北の独裁者国家との強い結びつきが有るというのはその筋で知らない人間は居ないのです。
 これが山○組系でなくてある意味助かりましたよ。あちらはゴールデン・トライアングル……この言い方で分かりますか?」
 麻薬の供給地としても有名なので祐樹ですら知っていたので黙って頷いた。あちらの方からの覚せい剤は中国マフィアが持ち込んでくる程度のことは週刊誌で読んだ覚えがある。
「それに対抗して、合成麻薬――核弾頭よりもはるかにお金が掛からない生物兵器を作る極秘の工場で、ついでに資金源として薬物由来の麻薬も作っているのは既に調査済みです。
 それを密輸入している――まあ、他にも拳銃まで作っているそうですが――のは公安も掴んでいます」
 森技官の話は祐樹などの拙い知識などでは太刀打ち出来ないので黙って頷くしかなかった。
「それに今、テロといえばイスラム系が多くの日本人が連想するでしょうし、実際それは正解と言えなくはないのですが、アメリカではテロリスト予備軍までブラックリストに載せて入国を拒否したり、支援者の口座凍結は当たり前のように実行したりしています。
 我が国は常に『アメリカに右へ倣え』ですから、当然協力もしています。
 北の独裁国家もアメリカが『テロ支援国』に最近指定したのです。つまりはアメリカやアメリカの息が掛かった金融機関に井藤幸一及び井藤達也の情報を流せば、我が国よりも迅速に口座が凍結されますし、米国はかつての我が国のように『超法規的措置』などと寝ぼけたというか、ある意味能天気な対応は出来ない風潮になっていますので、口座凍結と同時に税務署の追徴課税とか重課税をぶつければ、井藤幸一や井藤達也の財産など一瞬で吹っ飛びます。
 それに戸田教授は井藤からの入金を確定申告していないのが判明しましたので、税務署員とついでに私の友人が家を訪れてみたところ、もぬけの殻でしたね。
 どこかに雲隠れしたというのは本当のようです。ほとぼりが冷めるまでは出て来ない積もりなのでは?
 執刀予定を放り投げてまでの所在不明は教授会での弾劾対象になり得るのではないでしょうか?大半の大学病院ではそうですので」
 これは病院のため――そして最終的には祐樹最愛の人のため――怒り狂っている内田教授に是非流すべき情報だろう。
「戸田教授は最初、医局内の不満や怨嗟の声が上がり、井藤研修医を叱責しようとしていました。その後、弁護士が来て黙ったようですが、その弁護士というのがソノ筋の弁護士だったら尚更怖いでしょうね。
 それでなくとも小心者であることが図らずも露呈してしまったわけですし。それに井藤達也は弁護士による恫喝と、戸田教授が奥さんのクレジットカードの浪費のために現金を必要としていることを嗅ぎ付けて――やはり一介の研修医には無理な感じです。医局内に同じようにお金で転ばせた内通者が居るのでしょう――大金を融通するという、いわば『アメとムチの使い分け』をしているようですが、そういう知恵は井藤の症例でも働くものですか?」
 祐樹最愛の彼も内田教授も「戸田教授のクレジットカード浪費」の件は教授会という、大学病院でも雲の上の人が集まる場所で聞いたと言っていたし、医局で研修医にする話しではないだろう、多分。
「もちろん働きますよ。知的障害を伴わない精神疾患ですので。
 それに恐るべき粘着を加えるというのが井藤達也の症例です。『しばらくは医局に留まりたい』と思ったからこそ、戸田教授を強面の弁護士を使って恫喝したりお金を融通したりしたのでしょう。しかし、真の目的は香川教授でしょうね。
 そして……医局にも、そしてヤツが何よりも重要視しているだろう――狂気の粘着と言い換えても差し支えがないレベルです――手術の見学に来なかったとなると、事態は次の段階にシフトします。
 あまり言いたくないのですが」
 呉先生が言葉を選んでいるのか一瞬口ごもった。
「いえ、大丈夫です。充分心積もりは出来ていますし、覚悟も出来ていますので。
 つまりは『放ち飼い』になった狂気の井藤の魔の手が彼に伸ばされるかも知れないということですよね?
 森技官の多大な協力でこちらも井藤達也の力を削ったり、警察関係者の目に留まったりして凶行を防ぐという予防策は講じてありますし、我が医局でもそれなりの覚悟を持った人間がコトに当たっていますので『人事を尽くして』はいます。ああ、一つ思いついたことがあるのですが……」
 森技官が黒く鋭い眼差しで祐樹の発言を待っているのが印象的だった。
 森技官とは異なった視点で――そもそも所属先が全く異なるので――祐樹しか気づけないこともあるだろう。国家権力を動かすという森技官のいい意味での悪辣さはこの際祐樹最愛の彼を守る大切な盾だが、祐樹の病院限定の知識も森技官にとっては「新鮮な視点」かも知れない。
 ただ、森技官は既に思いついているかも知れないが、発言を聞いている限りそうは思えない。
 旧館の風情のある佇まいの空間がコーヒーの香りで束の間の安息の色に染められている。
 呉先生は森技官が立ち上がった隙に自分の椅子に静かに腰を下ろしていて、それを見た森技官がおそらくアルマーニのスーツに包まれた広い肩を優雅に竦めて苦笑を漏らすと祐樹の傍に椅子を持って来て腰を下ろした。











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★★★
本日更新分は、気力と体力が続けば「震災編」も目論んでいますが、途中で力尽きてしまったら生暖かい目で見守って下されば嬉しいです。。。


最後まで読んで下さって有難う御座います。
                            こうやま みか拝

この記事に

  • こんばんは。更新ありがとうございました。
    ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありませんでした。

    森技官、活躍しすぎ(笑)
    いや、有り難いし、嬉しいんですけど、ね。
    どんどん悪辣な手を使って、活躍しすぎて下さい!
    けれど、教授を誰よりも愛し、慈しみ、大切に想っているのは、当然祐樹先生です!
    祐樹先生には(未だ)森技官ほどの権力はありませんが、持って生まれた頭脳と教授への愛の力で、森技官以上に活躍してくれることを信じてます。

    あ、やっぱり祐樹先生って上昇志向なんですね。
    そうだと思ってました!

    [ ルナ ]

    2017/9/9(土) 午前 0:07

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