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創作BL小説を書いています。

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「へえ、賀茂川の鮎の塩焼きに神戸牛のサイコロステーキまで売っているのだな」
 先ほどまで密やかな愛の行為に耽っていた甘い感じは残り香のように残ってはいたものの、無垢な心の弾みがそのまま出ているラムネのような声だった。甘いのに炭酸の清涼感が甘味を消してくれているような弾んだ声が一際印象的だ。
「いや、所詮は屋台なので……額面通りに受け取ったらダメですよ……」
 艶やかさの残った眼差しが祐樹の視線と絡む。ただ驚いた感じで切れ長の目を見開いているので無垢な煌めきも仄かに瞬いていたが。
「そうなのか?ただ、産地を偽装したらダメなのだろう?そうニュースで言っていた覚えがあるのだが……」
 屋台で売っているたこ焼きや綿あめは満足して食べたようだったが、賀茂川の鮎の塩焼きとか神戸牛などは実際に最愛の人が調理をしてくれて二人で食べた記憶もあるし、特に鮎は京都ではメジャーな料理なので病院長命令で接待のお供に行った時とか、二人で行ったこともある「今、京都では一番美味しい」と評判のカウンター割烹の店などでも定番なので味覚も優れている彼に下手に期待させたら気の毒だと思ってそっと呟いた。あくまで屋台の人には気づかれないような小さな声で。
「店舗を構えているお店ならダメですよ。ただ屋台は縁日とか初詣とかのイベントがある場所に赴いての商売ですからね。それに保健所の目も緩いのでお目こぼしが効く感じですね。
 イベントもそう毎日有るわけでもないので、稼げる時には出来るだけ稼いでおこうという目論見でしょうし、客の方もそれを承知で買う分には構いませんが、期待しないで召し上がった方が良いですよ」
 理知的に澄んだ瞳が納得したような煌めきを放ってとても綺麗だった、しかも愛の行為の艶やかさを奥に隠し持っているのだから尚更に。
「ああ、たこ焼きもキチンとしたお店のを食べた方が良いと祐樹が言ってくれたのもそういう理由か……。あれはあれで美味しかったが、確かに少し粉っぽかったような気もしないではないので」
 ジャンクフードは基本食べない上に、料理は手作りが基本だとずっと思い込んでいた最愛の人なだけに――それに今の仕事は天職だろうし、本人のたゆまぬ努力のせいもあるだろうが、その上に天賦の才能にも恵まれていることは誰よりも祐樹が一番良く知っているが、手先の器用さとマメさという点を買われて料理人としてもきっと成功したに違いないが――その素朴かつ粗雑な味が却って新鮮だったのだろう。
「たこ焼きと言えば、柏木先生が救急救命室の凪の時間に買いに行った、店舗ではないのですがバン型の車の後部を改造してたこ焼き器を置くというチェーン展開をしているニッチ産業がありまして……そこのたこ焼きはトッピングにチーズを載せてくれるそうでして、新しモノ好きな柏木先生が早速購入して試していましたが、意外と美味でした。
 正直合わないのではないかと思っていたのですが、市販の溶けるチーズのまろやかな味とソースの味が良く調和してあれはあれでとても美味でした。
 ウチの病棟からは遠いのですが、救急救命室からは割と近い距離に夜になるとやって来て、夜勤の人間の間では評判になっていまして医師やナースが休憩時間に買いに行くようですね。あれも割とお勧めですよ」
 「チーズとたこ焼き……か……」祐樹の説明を興味深そうに聞いていた最愛の人が無垢な眼差しの色を湛えて祐樹の方へと細く長い首を優雅に動かした。
「祐樹がお勧めなら食べてみたいな……夜勤の帰り道でも売っているのだろうか?それとも買いに行った方が早いのかも……」
 楽しそうな感じで思案を巡らせている様子は年上とは思えないほど愛らしくて惹かれてしまう。
「夜中にたこ焼きを買いにいらっしゃるのだけは止めて下さい。ウワサは秒速で院内に広がりますよ。夜勤帰りには見かけないので、救急救命室の凪の時間にでも久米先生にパシ――いや、買って来て貰います。お皿の上に載せ替えて電子レンジでチンして食べれば味もそんなに変わらないと思いますし。それにたこ焼きのシーズンは何と言っても冬なので、その季節にしか車も来ないようですね」
 自宅マンションと病院は徒歩五分――選択の基準が「職場の近く」という最愛の人らしいごくごくシンプルな発想だった――なので、夜中にたこ焼きを買いに行くことももちろん可能は可能だが、病院内の人間が誰かしら目撃するに違いない上にモノが「たこ焼き」というごくごく庶民的なシロモノだけにあまり広まっては欲しくないウワサだった。
「そうか、冬か……分かった。楽しみにしている」
 「久米先生を『パシリ』にして」と危うく言いかけたのを途中で止めたのはどうやら気が付かなかったらしい。
「あ、祐樹……あれを買っても良いか?」
 薄紅色の細い指がしなやかに反って一点を指した。何だろうとジャズのスイングと程よい喧噪が別世界のような感じを醸し出す人混みの先――といっても誰も自分たちのことを気に留めている様子はなかったが――に目を凝らした。











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最後まで読んで下さって有難う御座います。
                            こうやま みか拝

この記事に

  • 筋金入りの庶民のはずの香川教授ですが、その寂しい生い立ち故か楽しい系の庶民的なモノには縁がないというか、知らないことが多いですよね。
    そこがまた浮世離れしてて愛らしいのですが(笑)
    チーズたこ焼きだけじゃなく、めんたいマヨネーズたこ焼きや照りたまたこ焼きも差し入れたい!とか思ってしまう…。
    銀だこのメニューなんですが、けっこう美味しいんです(笑)


    教授が欲しがっているモノが予測不可能…(T^T)

    [ ルナ ]

    2017/9/10(日) 午前 2:06

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