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創作BL小説を書いています。

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「ああいうモノもお好きですか?」
 意外に甘いモノ好きだとは知っていたものの、最愛の人が紅色の指で指差した屋台には「北海道産」――と一応書いてあるが真偽のほどは疑わしい――焼き色も香ばしそうな黄色い焼きトウモロコシだった。
「食べたことがないのでどんな味かと思って……」
 祐樹だってそう言えば焼きトウモロコシ一本分を家で食べた記憶はなかった。せいぜいぶつ切りにされたものを母親が茹でてくれた程度だったし、それ以外ではやはり縁日の屋台で食べた微かな記憶があるだけだったので、最愛の人が食べる機会がないのも尤もな話だった。
「北海道産かどうかは疑わしいですが、そんなに味は変わらないでしょう」
 神戸牛や賀茂川の鮎よりはマトモな味がするハズだ。祐樹も大学時代から研修医時代までお世話になったコンビニのサラダの中に入っていた――産地など確かめるほどのマメさは当然持ち合わせていなかった――コーンだってそれなりの味はしたので大丈夫だろう。
 それにお世辞にも高級な食材とは言えなかったので、患者さんからの差し入れにトウモロコシは活け伊勢海老とかメロンのように混じらないだろうし。
 幾分弾んだ足取りで屋台に近付いていく後姿を慌てて追いかけた。ただ、はぐれてしまっても携帯電話は当然持参しているので合流は可能だったが。
「ああ、金魚すくいの屋台を見つけました、よ」
 病院内とか普段の彼なら絶対に見落とさないだろうが、ジャズと由緒のある佇まいの建物――そして密かに営まれた愛の行為で――弾んだ心と残り香が甘く薫る肢体は「非日常」の大人のカーニバルに紛れ込んだようだった。
「え?本当か?」
 振り返って祐樹を見上げる仕草には艶やかな無垢さの際立つ眼差しと無邪気な笑みを仄かに浮かべた艶やかな唇が屋台の電燈の下で煌めいて見えた。
「先に金魚を掬ってから……。掬えれば、ですけれど……。それからトウモロコシを買いに行きましょう。意外と難しいのですよ」
 子供の頃にお小遣いを全てつぎ込んでしまったという痛恨(?)の過去を持つ祐樹なだけに一応そう念を押しておくことにした。
 ただ、最愛の彼は祐樹ほどは負けず嫌いではないのでそんなにハマらないかも知れないが。
「え?祐樹もしないの、か?」
 怪訝そうな光を宿す眼差しに射すくめられる。
「もうずっとしていませんから、コツも忘れてしまいましたが……。一応はお手本をお見せしましょうか」
 肩を僅かに竦めたものの、屋台とかお祭り騒ぎは楽しんだモノ勝ちであることも経験上良く知っていたので、薄い紙を貼ったプラスチックの「ポイ」と呼んでいたが――正式名称かどうかは知らない――と今時珍しいアルミで出来た受け皿を屋台の人にお金と交換して手に取った。
「そんなに薄い紙なのか……しかも水に濡れると直ぐに破けそうだし……金魚だって暴れるだろう?」
 目を瞠って大きな赤い「大物」と呼ばれる金魚と祐樹の手元を交互に眺める様子は無邪気な驚きに溢れていて、先程とは全く違った魅力に満ちている。
「あんな大物は物理的に無理ですよ。見た目の賑やかしに入れているだけだと、母に貰ったなけなしの特別な小遣いを使い果たしてからしみじみと悟りました。
 それまでは、ずっとああいう大きな金魚を狙っていたのですが」
 紅色の唇が花よりも綺麗に笑みを開く。
「祐樹らしい逸話だな……。小さな頃からそうだったのか……」
 紅色をもっと濃くしたいと咄嗟に思って自然と唇が開いた。
「この水槽のどの金魚よりも華やかな恋人を永遠に手に入れたので、幼い日の野望は叶えられたような気がします、よ」
 言葉の意味は流石に分かったらしくて頬が薄紅色に染まっていくのも花が開くよりも艶やかだった。
「こうするのです。角度に注目していて下さい」
 45度の角度が一番救い易いのは経験則として知っていた。そして手ごろな大きさの金魚に水平に近付けていく。確か「姉金」と呼ばれていた二番目に大きな金魚だ。水槽の中には四種類の大きさの金魚しか入れられていないのは祐樹が子供の頃と変わっていないのが何だか懐かしい。
 水面近くに居た赤い金魚に狙いを定めて、金魚の頭が上向くのを待ってポイを30度の角度で掬い上げて直ぐにアルミの器へと入れた。
「凄い……な。もう一度してみてくれない……か」
 「あー破れた」「ちっ、二匹かよ」などと割と真剣な声とか悲痛な声が周りでも響いているので、大人も童心に帰って楽しんでいるらしい。
「良いですよ」
 恋人の賞賛の眼差しに気を良くしてしまう。
「それに薄い紙の、濡れていない部分の面積の方が大きいのだな……。
 角度に注目なのだな」
 妙に真剣に見入っている眼差しとは裏腹に弾んだ声は無垢なひたむきさに満ちていて、この人のこういう表情を独占出来るのは祐樹一人だと思うと何だか楽しくなってきた。
「コツさえ掴めば貴方にだって直ぐに出来るようになります、よ」
 手先の器用さとか運動神経や動体視力などは祐樹を遥かに凌駕しているのは職場で嫌と言うほど自覚させられてきたし、他人の動作を復元することも模倣することも多分上手いのだろう。
 祐樹と巡り合った時には世界的な手技の持ち主だったが、彼だって修行の期間は有ったハズなので。
 続けざまに五匹掬い上げて、ポイを紅色の指先へと渡した。
「濡れているというハンディは有りますが、一応練習用に……」
 もう一本買うのは本番の方が良いだろう。何しろ「初めて」の金魚すくいなのだから。
「分かった。自信は全くないが……」
 初々しく弾んだ声とは裏腹に眼差しは怜悧な感じをより強めた煌めきを放ってとても綺麗だった。
 軽快なジャズと程よい落ち着いた喧噪の下で無心に振る舞う最愛の人を見詰めているだけで充分心は満たされていく。










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最後まで読んで下さって有難う御座います。
                                     こうやま みか拝
 

この記事に

  • 幼い頃は毎年金魚すくいをしていたのに、一度も金魚を掬えたことのない私が通りますよ。
    あれ、紙が貼ってあるものと、モナカの皮で出来ているものがあるのですが、紙のは直ぐに破れてしまうし、モナカの皮は直ぐにふにゃふにゃになってしまうんですよね。
    祐樹先生は上手に掬ってらしたけど、きっと長岡先生は掬えないと思います!

    屋台のトウモロコシ…庶民であるにもかかわらず、食べたことありませんでした。
    だって、父が「不味い」って言うんですもの…(T^T)
    焼きトウモロコシが食べたいって言うと、家で茹でた方が美味しいからダメと言われてました。
    大人になってからコッソリ食べましたが(笑)
    教授も、屋台の焼きトウモロコシを召し上がったら、私のように「なんでこんなにネチャネチャするの?」って疑問に思うのかな?
    絶対に教授が茹でた方が美味しいですよ(笑)

    [ ルナ ]

    2017/9/11(月) 午後 11:03

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