ここから本文です
創作BL小説を書いています。

書庫全体表示

「間もなく新大阪に到着します」とのアナウンスと共に新幹線の速度が緩まった。
「田中です。間もなく新大阪に着きます。GPSはN――市――町二丁目27−2です」
 新幹線が停まったので携帯電話を耳に当てながら二階出口を目指して走り出した。
「了解。二丁目27−2ですね。直ぐに手配します。田中先生もなるべく急いで下さい」
 駆け足なのは気配で分かりそうなものなのに、森技官も――何時もなら嫌味と解釈してしまうが――普段の彼とは異なってひどく焦っているような感じだったのでそういう他意はないのだろう。
 二階のタクシーなどが並んでいる場所には夜目にも黒く光る大きなベンツにオモチャのような回転灯が載っている車が一台停まっていて、森技官ともう一人の武道でもしていそうな筋骨隆々とした長身の男性が人待ち顔で立っていた。
「田中先生、こちらは現在大阪府警方面本部所属の島田警視正です」
 高級そうなスーツに身を包んだ男性が「お噂はかねがね」とどこかの国の訛りを微妙に残した声で言うと運転席に素早く乗り込んだ。
 黒いベンツに目つきも鋭い――祐樹も他人のコトは言えないが――森技官と高級そうなスーツからも筋肉がくっきり分かる島田警視正という取り合わせは回転灯がなければ何だか反社会的勢力の「カチコミ」のようだと無理やり笑おうとした。
 そうでもしなければ胃の冷たい氷の感触に押しつぶされてしまいそうだったので。
「N――市に向かいます。スピードを出しますのでシートベルトはきっちり締めて下さい」
 島田警視正が九州地方――だろう、多分――の訛りのせいでお世辞にもキビキビとしたという感じではなくむしろ鈍重かつ誠実そうな口ぶりで注意喚起をしてくれる。
「三人で向かうのですか?それとも向こうには所轄署の警官が?」
 見慣れない黒いベンツは多分島田警視正の車だろうが、何故か後部座席に悠々と乗り込んだ森技官と、隣に座っている祐樹という不思議な取り合わせだった。普通こういう時に助手席にも誰か乗るだろうに。
「三人ですよ。私に考えが有りますので。で、住所は電話で伺った時と変わっていませんよね?状況を教えて下さい」
 森技官の広い聡明そうな額にも汗の雫が浮かんでいた。森技官は厚労省所属ではあるものの、島田警視正という警察のキャリアも同意見なのだったらここは彼らの采配に任せるしかないだろう。最愛の人を祐樹一人で救いたいのはやまやまだったが、祐樹の専門分野ではないことも明らかだったので専門家の判断に委ねるしかないことも理性では分かっている。
「今日は教授会でして……。ああ、森技官がアドバイスして下さった例の議題は可決されました。
 それで、救急救命室の北教授にボディガードをお願いしていたのですが、自宅から100メートル付近の路上で井藤達也と思しき人間に北教授はスタンガンを、香川は抵抗したらしくタイピンが外れたようです」
 今現在、最愛の人がどういう状況に居るかは分からなかったし、狂気の研修医――今頃は北教授が内田教授と連絡を取って斉藤病院長に被害報告をしている頃なので病院から除名処分なり解雇処分なりを受けているかも知れないが――井藤と無理やり一緒にいることだけは確かで、あの人間がどういうコトを仕出かしているか分かったものではない。
 そう考えると胃を掴んでいる氷の手がドライアイスの温度に変わる。
 それに、最近はかなりマシになってきたとはいえ最愛の人の基本性格は悲観的なことは確かだったし、思い詰めると何をするか分からない点も非常に気になる。
 それとなく言い含めて予防線を張っていたとはいうものの、祐樹の想いが正しく受け取られているかどうかは神のみぞ知るなのだから。
「あのタイピンは滅多なことでは外れないハズなのですが……相当激しく抵抗なさったのですね……。北教授は大丈夫でしたか?島田、スタンガンで自由を奪うのは傷害罪に抵触するのか?」
 森技官の眉間のしわが深く刻まれた。
 祐樹最愛の人は標準男性よりもやや華奢な体格の持ち主だが、見掛けとは裏腹に職業柄体力も筋力も平均以上だし井藤にも激しく抗ったに違いない。そう考えるとまた胃が冷たく締め付けられてしまう。
「スタンガン所持は銃刀法違反ではなく、軽犯罪法に抵触して、使用した場合は障害罪、スタンガンの威力によっては心臓が止まることもあるから――北教授という方の意識は有るようだが殺人未遂罪でも引っ張ることは出来る。起訴されるかどうかは検察官の判断次第だが、逮捕・送検までは可能だな」
 ハンドルを握りながらなので島田警視正――本来ならば後部座席でふんぞり返っている立場のハズだ――は前方を向いたままキャリア警察官らしいぶっきらぼうな感じでそう告げた。
「だ、そうですよ。北教授の診断書は絶対に取っておいてください。出来れば――ここだけの話――なるべく大袈裟に書く医師が居ればなおさら良いのですが。
 それを添付して警察署に被害届を出して下さい」
 救急救命室には久米先生が居たので、彼に頼めば大丈夫だろう。突発的な出来事には柏木先生の慧眼通り確かに弱いようだったが、それ以外はすこぶる優秀だし何より祐樹の言うことは絶対に逆らわない点は折り紙つきなので。
「分かりました。北教授は一時的に気を失ったようですが、救急搬送された時にはお元気そうでした。今頃は内科の内田教授と善後策を協議しているかと思いますが」
 久米先生に電話を掛けたものの留守番電話に転送された――まあ、救急救命室勤務なので仕方がないと言えばそうなのだが――間の悪さに舌打ちして救急救命室の固定電話に掛けて電話に出た看護師に用件のみ伝えた。
『はい。北教授も診断書は大袈裟に書くようにと仰っていましたので、大丈夫です』
 流石は救急救命室の実力者だけあって咄嗟の判断力にも感心した。
「生きている方のGPSは先程の住所と変わっていませんか?」
 携帯電話で確認すると、同じ場所で止まっている。その旨を森技官に伝えた。
「一軒家で、この住所。島田、お前のコネを使わせて貰うが良いか?」
 森技官が割と高圧的――少なくとも祐樹にこのような感じで話しかけたことはない。嫌味や皮肉は星の数ほど言われた覚えはあるものの――な口調で運転席に向かって話しかけた。
「ああ、お前は言い出したら聞かないからな……。好きにすれば良い」
 高速道路に入った途端、ここはアウトバーンかと思うくらいの速度オーバーで走っている。
 一刻も早く最愛の人の元に駆けつけたいが、事故ってしまえばいかに世界に誇るベンツといえども最低でも怪我、下手をしたら天国だか地獄だかに行ってしまいそうな予感がする。
 ただ、最愛の人のことを考えると胃が冷たい氷の指で押しつぶされるような気がした。
 隣では森技官がスマホを弄りながら携帯電話を掛けている。
「オレです。田中先生と合流しました。引き続き待機をお願いします」
 森技官が「オレ」という一人称を使うのは恋人の呉先生だけのような感じだったので、多分彼も事態を酷く心配しているに違いない。
 高速走行に最適な車という世界的評価の高い車に乗っているので速度はかなり出ているが安定した走りは流石だったが、早くN――市に着かないかとそればかりを念じてしまう。
 森技官は三人だけで良いとの判断だったが、本当にそれだけで足りるのかも心もとない気分になってしまう。ただ、研修医井藤の粘ついた狂気の発露がどのように暴発するか分からないので、警官達に包囲された方が良いのか、それともこのままの人数で良いのか俄かに判断する材料をあいにく祐樹は持ち合わせていない。臨床経験はないとはいえ、森技官の専攻は精神科だったし、彼の恋人も精神科出身なので協議に協議を重ねただろうから任せておくしかないだろうが。
「この住所ですね」
 ベンツが音もなく停まった。番地で予測していたが豪邸と表現するに相応しい家だったが、出来損ないの――テレビでしか見たことはないが――風呂屋のような悪趣味極まりない建物だった。
 ただ、築年数は新しそうな感じを受ける。大名屋敷のような玄関とかの施錠を忘れるほど井藤が――粘ついた狂気の持ち主なものの――バカだとも思えない。どうやって入るのだろうと思っていると森技官がこの場合は意外な行動に出た。
 この中に最愛の人が居る。そう思うと闘志は漲ってきたが。











どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!

季節の変わり目のせいか、体調が思わしくなくて更新がままならないことをお許し下さい。
今日も今から二話目を書こうと思っていますが、気力・体力が尽きてしまったらすみません。



最後まで読んで下さって有難う御座います。
                                    こうやま みか拝
 

この記事に

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
  • 名前
  • パスワード
  • ブログ

開くトラックバック(0)

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事