ここから本文です
創作BL小説を書いています。

書庫全体表示

 ただ、自分の名前を相手が知っているからとはいえ、即レスを貰うのは難しいだろうし、しばらくメールのチェックをした後に、そっと立ち上がって寝室を覗いた。
 祐樹は相変わらず健やかな寝息を微かに立てているので起こさない方が良いだろうと判断してしばらく佇んで祐樹の端整な寝顔を見詰めた。
 あの地震で祐樹を失わなかったことだけを神に感謝したい敬虔な気持ちと、先程までの愛の行為の余韻の残る甘い気持ちが交じりあって、その場に釘付けになってしまう。
 ホテル独特の淡い電気――寝室は消したが――の漏れを気にしてしまうものの、祐樹はその程度では起きないような眠り方だった。
 まあ、この高層階かつ防音設備の整った部屋では絶対に聞こえない、救急車のサイレンの音が聞こえたら起きるだろうが。
 先程もう一度観た神憑り的な鮮やかな手技と真剣この上ない凛々しい顔も大好き――という言葉では表現出来ないくらい魂全部で惹かれてしまっている――自分だったが、無防備な感じで熟睡している祐樹の顔も目を瞑った分だけ幼く見えて、何だか学生時代に自分が一方的に一目惚れをした時と同じがして、あの時の自分の直感は外れていなかったと改めて確信した。
 あの頃の自分は「関わる人間は皆不幸になる」と経験則から頑なに思い込んでいたので人間関係が深まるのを意図的に避けていた。ただ、その後のアメリカでの生活を経て祐樹と再会し――祐樹的には初対面だったが――色々な経験が二人の絆を強固にした上に、祐樹とこういう関係になってからは自分が関わった人たちは不幸になっていなかったので。
 やはり、祐樹の太陽のようなオーラのせいだろう。こんな奇跡のような幸せな人生が待っているとは当時は思いも寄らなかったが、祐樹の揺るがない愛情とか、今日の仕事面でもプライベートでも惚れ直した薔薇色の感慨にふけってしまう。
 ずっと見つめていたかったが、キリがないので音がしないように扉を閉めて、スタッフから受け取ったノート型のPCを確認した。
 もちろんネットに繋がっているため、地震の状況もニュース記事などで閲覧は可能だった。しかし、祐樹も「ローマの休日」ごっこまでして――あれはあれで心が薔薇色に満たされる一生の宝物だったが――日常へと帰らせようとしてくれているのだから見ない方が良いのだろう。
 NHKのカメラマンにお礼のメールを打つと、ふと思いついて盛岡市にある大学病院の循環器科のサイトを探した――大学病院によって名称が異なるものの、心臓病のお母様だとここに受診に行く可能性が高い上に、あの純朴かつ朴訥そうな野口陸士なら軽々しく発言を翻したりはしないだろう。ただ、私立大学なので直接の知り合いは全く居ないが、この病院で機械的に振られる公式なメールアドレスからなら多分自分のことも名前程度は知っているだろうし向こうも不審なメールとは思わないだろうと一応野口陸士のお母様の容態を手早くまとめてメールを送信した。
 その後何気なく受信箱を見ると、アメリカは時差の関係で真夜中のハズなのに返信のメールが入っていた。ただ優秀な外科医かつ論文も精力的に執筆している人なだけにレスも早いのだろう。
 自分のこと以上に気になる返信だったので若干震える手でメールを開いた。
 一読して思わず目を疑ってしまう。英語の読み書きにも日本語程度に自信は有ったが、それでも何か読み落としていないかをもう一度動悸が早まっているのを感じながら読んだ。
 間違いないと分かった瞬間、思わず駆け足になりそうな足を理性で宥めて、自分が着替えていることに思い至って慌ててカーディガンだけを身に纏った。
 この部屋ではこの恰好で居るというのが祐樹との約束だったので。
 寝室のドアを静かに開けて――何だかアメリカ時代の見習いの時に患者さんの夜の巡回をした時以来のような気がする――寝室に安眠を妨げないように注意しながらベッドに歩み寄って揺り起こそうか、それとも口づけをするか一瞬だけ迷った後に後者を選んだ。
 もし、これで祐樹が起きないようならこのまま寝かしておいた方が良いのかも知れない。
 ただ、喜びを分かち合う――というか、祐樹自身に早く伝えたくて……先程の愛の行為の時とは異なった、極上の薔薇色の雲の上にいるような気がして、自分でも浮き立つ心を抑えきれない。
 こんなに心が天まで上がるような気持ちになったことは今までの自分の人生の中でなかったような気がする。
 祐樹と恋人になれた時とか、祐樹のお母様にも恋人として認められてダイアの指輪を戴いた時などの嬉しさの種類が異なっていて、喜怒哀楽のあまりない人間だと自覚はしていた自分に、こんなにも違った色合いの異なる喜びがあることを教えてくれた最愛の祐樹には感謝してもしきれないくらいだった。
 ベッドサイドに歩み寄って触れるだけのキスを落とした。これで駄目なら他のことで気を紛らわせれば良いことだと――絶対に眠れそうにはなかったので――自分に言い聞かせながら。
「お早うのキスですか?これでは『眠れる森の美女』の逆バージョンですね」
 祐樹は電源が入った機械のような感じで即座に目を覚ましてくれた。救急救命室勤務はこういうタイプでないと務まらないのは確かだったし、しかも今回のメールはまさにその救急救命絡みの件だったので、唇に極上の笑みを浮かべてもう一度唇を重ねた。
「祐樹……。見て欲しいものがある……」
 仕事のことは一切忘れると二人で決めていたこの神様の贈り物のような休暇だったが、早く知らせたい薔薇色に弾んだ気持ちを抑えきれなかった。












どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!

季節の変わり目のせいか、体調が思わしくなくて更新がままならないことをお許し下さい。
一日一話は(多分)更新出来そうですが、二話は難しそうです。



最後まで読んで下さって有難う御座います。
                    こうやま みか拝
 

この記事に

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
  • 名前
  • パスワード
  • ブログ

開くトラックバック(0)

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事