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創作BL小説を書いています。

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 先程GPSチップだけ抜き取った付箋紙を最愛の人の許可を視線で取ってから出して、島田警視正には聞こえない程度の声で「この気持は当然ながら全く変わっていませんので」と言いながら最愛の人の震える右手に渡した。
 咄嗟の判断でフルネームに敢えてせずイニシャルにしたのは――肌身離さず持っていても――何らかのアクシデントが有って人目に触れた時に祐樹という「男性」にしか有り得ないハズの名前が見つかった時に祐樹ほどウソのつけない――最愛の人のことを思ってのことだったが、充分意味は通じたらしい、愛梨ちゃんの名前を勝手に使って最愛の人の手に渡るようにした時も、そして今も。
「有難う。物凄く嬉しい」
 震える指で、それでも大切そうに持ってその付箋紙を縋るように見ている最愛の人を懸念の色を隠しきれない眼差しで眺めた後に島田警視正の言葉に集中した。
「先程も申しました通り、井藤達也に関しては未だ逮捕令状が出ていません。北教授は多分最寄りの交番か警察署に駆け込んで被害届を出して受理されたかと思いますが、そして犯人は井藤達也だとも仰っているハズです。ただ、捜査を始めるに当たって本人の所在が特定出来ないのですから捜査員もお手上げですよ。
 森が麻薬中毒の禁断症状が出た人間を矯正する施設――もちろん完全防音ですし、絶対に外には出られないのは施設の特性上当たり前です――に連行して楽しく事情聴取に励んでいることでしょう」
 「楽しく」という言葉に一応常識人の祐樹などは――しかも森技官のあれでも手加減していたらしい口撃に直接晒された覚えも多々あったので尚更だ――内心は相手が井藤元研修医でなければという前提が付くもののドン引きしてしまう。最愛の人は島田警視正の言葉は耳では聴いているだろうが、言葉の意味を理解しようという普段の怜悧さとか明晰さに満ちた端整な表情ではなくて、付箋紙を一心に眺めているだけだった。それはそれで嬉しくもあったが、しかし最愛の人が負った精神的な甚大な打撃を物語っている気がして魂の一部が無理やりもぎ取られたかのような激しい心の痛みを感じた。
 ただ、島田警視正も良くあんなのと大学時代から友達を――まあ、祐樹も喧嘩友達という位置は占めていたが――しているな……とある意味感心してしまう。
 覚せい剤中毒者の末期患者は統合失調症の症状が出ることもあって「自分を殺そうとしている」とか完全な妄想によって見ず知らずの他人を殺傷した事例は救急救命室でお目にかかった――幻覚で思い込んだ「殺そうとした」他人に反撃を加えられて顔面と頭部に傷を負った患者さんなので警察官付き添いの元で、だったが。普通は警察病院にそういう人間は連れて行かれるものだが、あいにく外科医の手が塞がってしまっていたらしい――治療の最中もその中毒患者は「自衛隊がオレを集団ストーキングしている」などと常識的に考えて有り得ないことを大声で叫んでいた記憶がある。そういう人達を収容する施設なだけに防音は当たり前だろうし、麻薬によっては身体的にも精神的にも強い依存性が有るモノも多いので、薬の売人の元へと走る可能性が高いためにも内部からは出られないように作られているハズだった。
「三日間をメドに森が取り調べをするハズです。被害届を提出するためには事件被害者に警官が伺ったり、警察署に出向いて貰ったりして事情調書を作成する必要が有りますが」
 島田警視正は「事件被害者」と発音する時に出身地だと聞いた薩摩訛りらしきアクセントに戻っていた。多分、最愛の人の状態を彼なりに見て気を遣った結果なのだろうが。
「ただ、このジケ……いや、ケースは森からも強い釘を刺されていることもあって……特例として田中先生や、そちらの病院のクレ先生という極めて優秀な精神科医が付き添って下さる予定ですので、本人ではなくそのお二人から事情聴取をさせて戴くということになっていますが、それで宜しいでしょうか?」
 森技官は島田警視正に呉先生が自分の恋人だとは言っていないらしい。呉という苗字を発音する際に何だか知らない人の名前を棒読みにしている感じがしたので。そして「事件」と言わずに「ケース」と言い直した点も祐樹最愛の人のことを慮ってのことだろう。
「そんなことも出来るのですか?」
 幾分ホッとしながら聞いてみた。ただでさえこんなにも心も身体も憔悴している最愛の人に事件の詳細をもう一度再現して警察官の前で話すような真似は絶対にしたくはなかった。
 それに被害の程度は未だ祐樹も診ていないので分からないものの、狂気の元研修医井藤が勃起したシロモノを露出していたのは確かだったので、最悪の場合は意に沿わぬ性的暴行を受けている可能性すらある。
 生物学的に、男性器は興奮が何かの拍子に邪魔されると萎えるという特質を持っているが、自分達があの趣味の悪いベッドルームに踏み込んで、破壊力の凄まじい森技官の口撃の時にも平均男性よりは小さいシロモノだったものの確かに勃起したままだったことは祐樹もチラリとではあるが見ていた。そういう点が井藤の狂気の片鱗なのだろうが。
 万が一にでも、性的暴行の様子を、最愛の人が第三者でも有る警察官の前で一部始終を言わなければならないのだとすれば――律義な人でもあったので、一部始終を警察官の前で証言しろと言われたら素直に従うような気はする。ただ、その際には彼が味わった恐怖も想起されるハズなので、島田警視正と、それを指図してくれた森技官には感謝の念しか湧いてこない・
「警察も特殊な業務とはいえ、お役所であることも間違いは有りませんので、警官の事情調書は、係長・課長ひいては署長のハンコが必要となるのが原則です。
 ただ、私は一応署長よりも上位に就かせて戴いておりますから、私の作成した調書を持って警察に行き、署長に指示を出して全員のハンコを貰うことも可能です。
 そういう線で話を持って行こうというのが、森と私の一致した意見です。
 その代り田中先生には一部始終を香川教授から聞いて戴き、不都合な点は――近々刑法の改正が有って強姦罪」
 島田警視正の声が耳を澄ませなければ聞こえないレベルにまで潜められた。高速道路を安定走行しているベンツのエンジン音も僅かに混じっている上に震える細く長い手で大切そうに持った付箋紙をずっと眺めている最愛の人には聞こえてはいないだろう。
「性別は問わないようには成るようですが、現時点ではその罪状を問えるのは女性のみです。ですからこのケースの場合、万が一そういう事実が有ったとしても、容疑者の罪状には響かないのです。この件は検事を説き伏せて刑事裁判に必ずさせる自信も有りますが、その時に追加出来る罪状としての価値がないのであれば、最初からなかったことにした方が良いかと判断しました」
 祐樹は法律のことは――免許取得時に自動車教習所で習った道路交通法とか医師法などは一応頭の中に入ってはいるものの、専門家――しかも森技官は一部始終を知っているので島田警視正にマズい点は伏せているだろうが全部話したに違いない。そういう点で森技官に抜かりはないハズだ――に任せた方が安心だろう。
「容疑者……で良いのですか?刑法とか刑事訴訟法には何分疎いもので……。アイツの罪状は何になるのでしょうか?」
 最愛の人の前髪を梳きながら聞いてみた。先程よりは体温が上がっているような気がして内心安堵のため息をもらしたが。ただ「神の手」と世界中の外科医からも称賛される右手の震えは継続中だったのは痛ましい懸念材料だった。
「拉致・逮捕罪ですね。それに障害罪が加算されます」
 一般人にも「逮捕罪」というモノが有ったことは祐樹も知らなかったが、島田警視正が言うのだから有るのだろう。
 そして障害罪――流石にその程度のことは普通に生活していれば自然と頭に入る――の括りに入れられるのだったら、最愛の人の、今は祐樹の応急処置が効いて右腕などからの出血は止まっているが、で充分な気がした。
「それでお願いします。ああ、次の角を左折したらマンションに着きます」
 島田警視正の車がマンションのエントランスに停められた。
 エントランス前に見覚えのある人が、華奢な身体に不似合いな意外ないでたち――ある意味日常生活では見られない――で花壇の縁に座っているのを見て驚きに目を瞠ってしまった。











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季節の変わり目のせいか、体調が思わしくなくて更新がままならないことをお許し下さい。
一日一話は(多分)更新出来そうですが、二話は難しそうです。「夏」更新後二時間を目途に更新が無ければ「力尽きたな」と判断下されば嬉しいです。
他の話を楽しみにして下さっている方には誠に申し訳ないのですが、その点ご容赦下さいませ。



最後まで読んで下さって有難う御座います。
                                こうやま みか拝
  

この記事に

  • おはようございます。
    更新ありがとうございました。

    事情聴取の際の特別な配慮をして下さった島田警視正と森技官には、心から感謝致します。
    今、こんなに不安と恐怖に震えている教授に、武骨な警官の二次拷問など絶対にに受けさせたくありませんもの。
    巡査だの警部だの警察の下っぱなんて、武骨で無遠慮でデリカシーなんて欠片も持ち合わせていない人種ですから!←偏見の塊(苦笑)

    早く、周りを気にしなくて良い状態で、祐樹先生の言葉を教授に与えて差し上げたいです。
    教授は(多分)気にしなくて良いことまで気にやんでいると思いますし…。
    どうか教授に安らぎを(T^T)

    一体、どんな格好の誰が…?

    [ ルナ ]

    2017/9/26(火) 午前 7:53

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