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創作BL小説を書いています。

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「聡のそういう格好でネクタイまで結んで貰うと、何だか本当にお嫁さんになって下さったような気がしますね」
 このホテル内にあるお気に入りの中華レストランに行くために――予約のプランはこっそり変更してあったが――怪我にこれ以上響かないように祐樹の着替えを手伝っていると祐樹が満足そうに笑みを立てながら言った。
「この恰好だと、奥さんというより愛人ではないのか?」
 祐樹が驚いたように目を瞠ったが、その眼差しの光りも宝石と愛情を溶かし込んだ極上の輝きを放っている。
「どうしてそう思われるのですか?」
 自分の生育歴を知っているからだろうか、いや普段の祐樹なら簡単に気付くハズで多分まだ蓄積され続けた疲労が残っているのだろう。確かに父親を早く亡くしたので職場にネクタイを締めていく姿とか甲斐甲斐しく手伝う母親を見た記憶はなかった。
「テレビドラマで観た。朝の主婦はキチンと服を着ているだろう。こういう格好をした専業主婦は観たことがなくて、どちらかと言えば愛人とか情人とか呼ばれる人に多いのでは?」
 祐樹が納得したように未だ着替えていない――胸の尖りが紗の布を押し上げている上に透けて見えているし、祐樹がその気になれば布地を捲ると肝心な部分が全て露わになる恰好だ――身体を見下ろした。
「あいにく愛人を囲う趣味はないですね。まあそれだけの甲斐性もないという厳しい現実は置いておくことにしても。
 私だけの聡にしたい気持ちは若干有るのですが、籠の鳥のように閉じ込めて私だけを待っていて欲しいという独占欲ですけれど。
 この休日のように限定的なモノに限りますね。
 私が欲しいのはお互いを高めあうパートナーです。先程の母との電話でもお分かりでしょう?『籠の鳥』というか、ペットのように愛でる相手に同じレベルの話は出来ません。
 それに『未だ』聡の方が遥かに格上なのも充分承知していますし。
 推薦状を書いて下さる愛人なんてドラマに居ましたか?」
 祐樹が宿直や救急救命室勤務の夜の空いた時間に家事をしながら主にニュースだが、テレビを観る――そしてドラマが勝手に放映されている状態になっていることも多々あったのでストーリーなどは勝手に頭に蓄積されていった。
「それは確かにないな……。ドラマで医療モノが流行っているが、唯一それに近い愛人が出てきたのは一つだけで、奥さんがお嬢様大学出身、愛人は医大を中退してクラブだかを経営しながら主人公の愛人になって――ただ金銭の授受は描かれてなかったが――主人公に有益な情報をもたらす女性しか観たことはないな」
 「愛人」とはどうやらお金が物凄くかかる女性らしいことは――そういう種類の書籍は手にしたことすらなかったが――ドラマを観ていれば何となく分かる。具体的金額までは流石に分からないし、興味も皆無だったが。
「そうでしょう?多分そのドラマは原作で読みました。私達が生まれる前からの名作ですよね。良く取材はされているとは思いましたが、今の医療界では考えられない時代のズレは感じますよ。
 ああ、有難う御座います。聡の着替えをお手伝いしましょうか?対等なパートナーとして、そして最高の恋人としての務めの一環で」
 祐樹の身支度が終わったので老舗ブランドだけあって手の込んだカーディガンのボタンを外していると祐樹は暖かい笑みを浮かべて自分を見ている。それだけで何だか「休日」の気分満載だった。
 平日は慌ただしい朝ということもあって身支度まで干渉しないというルールがいつの間にか出来ていたので。
「それは恥ずかしいから遠慮しておく。それに『今は』籠の鳥の愛人役でも構わないので、存分に見ていてくれさえすれば良い」
 祐樹が言ってくれた「独占欲」とか「焼き餅を妬く」とか、自分にとっては心が薔薇色の泡で満たされていく甘い蠱惑に満ちた言葉だ。
 祐樹だけを待つ「愛人」生活というのも甘酸っぱい魅惑に満ちてはいるものの、仕事は好きだし向いているとも思っている。周囲は尚更そう思ってくれているようだったのは岩手医大から届いたメールでも充分に分かったことだし、以前からも「仕事面での期待値」が高いことも充分承知していた。
「鍵は私が持つので、祐樹は何も持たなくても良い」
 身支度を整えて、財布と携帯電話がポケットに入っていることだけを確かめて部屋から出ようとすると、背後に立った祐樹が「忘れ物ですよ」と左手を指の付け根まで絡めて、熱い口づけを交わしてくれた。
「個室に入るのは初めてですよね」
 中華料理は調理器具が独特なせいもあったし、祐樹のお母様から戴いた「田中家のレシピ」にもほとんど載っていないせいもあって家ではほとんど作らないので、たまたまクラブラウンジでこのレストランのシェフ――中華料理人の世界は良く知らないので別の呼び方かも知れないが――の作った料理が気に入ってこのホテルに来る機会があれば割と良く訪れてはいたものの個室に入るのは確かに初めてだ。
 このホテルの例に漏れず、テーブルとテーブルの間隔がかなり余裕を持って設えてあるので大声で会話をしない限り会話を聞かれることもなかったので。
「今日はお祝いだからな」
 食前酒にシャンパンを頼んで、何だか改まった気分で向かい合う。
 普段は小さな宴会場として使用されている部屋なだけに広さは充分あった。「特別な日」の締めくくりとしても、普段と異なる広い空間に二人きりというのも充分相応しいし。
「NYの学会招待おめでとう」
 フルートグラスを掲げると、祐樹は極上の甘い笑みを浮かべてグラスを同じ高さまで上げて繊細な音を立てた。
「貴方こそ、大学病院の『伝説』的な業績お疲れ様でした。また一つ病院長か医学部長の階段を上がりましたね」
 そんな積もりは毛頭なかったのだが、考えてみるとその通りだったので苦く笑った。
「病院の語り草になる業績ですよ。斉藤病院長の『寸志』が出るのは何年ぶり、いやケタがもう一個かも知れない快挙ですから」
 快挙といえば、祐樹の神憑り手技の方が自分にとっては嬉しかったが。あの場面では自分が出るしかないと咄嗟に思ったレベルの難易度だったので。
 救急救命医としての総合得点では柏木先生の方が上回るものの、心臓外科の手技だけ特化して勘案すれば自分か祐樹――病院には内緒だが東京の岩松氏の病院で執刀経験もあるだけに――しか無理なレベルだったし、自分がしても「初めて」患者さんを救えなかった結果になっていたかも知れない。
 五人殺して――人数には諸説有るが――初めて外科医としては本物と呼ばれる世界なのに、自分は運が良かったのか手技では一人もお亡くなりになってはいない。それなりの努力は払ってきた自負はあったが、それでも危ないと思えるほどの容態だったので。
 あの実力が有れば執刀医を任せられるがあいにく手術室が空いていない。
「そう言えば、病院長命令の私が執刀医を務める件ですけれど、手術室の空きに心当たりが有ります、よ?」
 祐樹は中華専用の長い箸で前菜の「胡瓜の唐辛子和え」を掴みながら自分が考えていたことを読んだようにおもむろに口を開いた。











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季節の変わり目のせいか、体調が思わしくなくて更新がままならないことをお許し下さい。
一日一話は(多分)更新出来そうですが、二話は難しそうです。「夏」更新後二時間を目途に更新が無ければ「力尽きたな」と判断下されば嬉しいです。
しかも更新時間がマチマチになるという体たらくでして……。
他の話を楽しみにして下さっている方には誠に申し訳ないのですが、その点ご容赦下さいませ。

この記事が更新されている頃は、私の誕生日です。もういい年なので余り目出度くはないのですが(笑)

最後まで読んで下さって有難う御座います。
                  こうやま みか拝

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