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創作BL小説を書いています。

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「脳外科の白河教授に空きを作って貰うのです。もちろん、患者さんの容態の許容範囲の中というのは大前提ですが、しかしこちらの意向もしっかり伝えておけば多分大丈夫かと」
 祐樹らしい斬新な発想だった。「夏」の事件以来、大学病院での因襲でもある「医局外不干渉」――逆に口を出せば「医局干渉された」と騒ぎになる――は脳外科限定で解除されて、祐樹以外で一番深く関わっていた内科の内田教授が「同格」の白河教授に日本史的に表現すれば「院政」のような、若しくは「摂政・関白」のような立場で目を光らせている。
 もちろん、病院長命令でそうなった――当時は准教授だった白河教授は、事態の収拾に手間取った責任とか戸田教授が不在なのを隠蔽工作したために「院政」を受け入れるか大学を去るかの二者択一を迫られたと祐樹から聞いている。
 後者を選んだ白河教授だったが、今回の病院始まって以来の未曾有の事態――ある意味名を上げるチャンスだった――でもそうだったが、教授専用の手術控室にすら姿を現さないという謙虚さだった。
 手術予定表には当然白河教授の名前が執刀医として載っているにも関わらず、自分と顔を合わせられないということなのだろう。
 今回だって、看護師は各科で最も多く派遣してくれたにも関わらず、脳外科の医師は裏方とも言える手術室を選んだ上に、その伝言役に「頑固一徹の手術職人」として外科医の間では知らない人間はいない桜木先生を派遣したほどの細やか過ぎる配慮をしているのだから「医局外干渉だ」などと言えるような立場では今のところない。
「だが、あちらはあちらで患者さんを抱えているし……大丈夫なのだろうか?」
 こちらへの配慮は当然有り難いが、やはり患者さんの身になって考える医療が基本なので、過ぎたるは及ばざるがごとしという心境で、歯ごたえも瑞々しいキクラゲに赤い唐辛子の程よく効いた精緻な味を楽しみながら答えた。
「あの『夏』の事件発生直後、騒然とするウチの医局に白河准教授が手の空いている全スタッフを引き連れて黒木准教授だけではく、久米先生にまで土下座したという話でしたから、その要求は必ず呑むでしょう。
 しかも病院長命令での執刀となればなおさらのことです」
 祐樹は心の底から可笑しそうな感じで笑っている。ホテルの重厚な木材をふんだんに使った店内だが、中華風に龍――だろう、多分――とか赤い内装が目立つ個室では誰憚ることなしに会話ができるのも嬉しかった。本来は四人以上しか利用不可な部屋なのだが常連客、しかも今回はヘリ利用のスイートルームのゲストということで便宜を図って貰っている。
「ああ、ここの胡瓜の瑞々しさを損なわない前菜はいつ来ても美味しいですね。
 ほら、貴方も召し上がってみてください」
 祐樹がテーブルから身を乗り出して、ついでに長い箸も利用して唇に胡瓜を近付けてくれるのも何だか「非日常」のデートの延長のようでとても嬉しい。
「ん、本当だ。とても美味しい。中華はやはりここに限るな……」
 広東料理――本場のシェフが日本風に味付け直した――などの中華料理は、どうやって作ったのだろうか?と考えながら食べなくて済む、いや祐樹が喜んでくれるなら家でも再現する積もりだが、祐樹もそこまで要求してはいないような気がしたので、純粋に味を楽しむことの出来る料理だ。
「ただ、手術室を空けてくれると仮定して、私が見られないのは残念でもあるな。祐樹の執刀は是非モニタールームからでも見てみたかったのに……」
 斉藤病院長は――多分病院に辿りついているだろうが、北教授に現場は任せてNHKの東條さんにドキュメンタリー番組の放映時間を出来るだけ長くするように交渉中か、全国の大学病院からのお見舞い――ちなみに救援物資を送ってくれた大学名は全て分かるようにリストをタブレットの中に残してきたので大丈夫だろう――への御礼を兼ねた、祐樹のNY学会に向けての実績作りのために「威厳を伴った」営業トークの最中かもしれない。
 病院長室も多分自分の執務室と同じような惨状だろうし――祐樹が怪我をしたとはいえ、救急救命室が無事だったのは地盤が関係しているのだろうなと、逆でなくて良かったとしみじみと僥倖に感謝してしまう。
 ただ、斉藤病院長は暇に任せて営業トークをしているとなると何だか可笑しかったのでついつい笑い声を上げて笑ってしまったが。
 四人向けの部屋、しかも赤や龍といった中華風の空間に笑い声と真摯な話題が絶え間なく響くのも何だかとても心が弾む出来事だった。
 祐樹に関しては実践こそが実力向上に繋がるのでその辺りに文句を言う積もりは毛頭なかったが、同じ時間に手術が入るだろうから、祐樹の手術を見学することは物理的に無理だ。
「そうですね……。病院長がどういう患者さんを連れて来るかによりますが……。今頃は全国の大学病院に『威厳を持った営業トーク』を炸裂させているでしょう。
 いや、営業というより押し売りに近いかもしれませんが……
 ただ、定時に始めるのが理想的なのには変わりありませんから、どうしても時間が被ってしまいますよね……。私も貴方の手技を助手として見られないのは残念ですが、過渡期なのでそれは諦めます。ただ、私の手技も貴方に見て戴きたいですね」
 凛々しい眉を微かに寄せた真剣な表情に見惚れながら祐樹用の赤いエビが透けて見える点心用に醤油を最適な量を見計らって黄色い辛子と小皿で混ぜる作業も心が弾んでしまっている。それに祐樹も「威厳のある営業トーク」という言葉を使ってくれたのも嬉しかった。語彙量とか顔面の表情筋の動きには確実に祐樹に劣っている程度の自覚は有ったので、自分の造語が祐樹に気に入って貰えたのもフルートグラスの細かなシャンパンの泡のような歓びに心が弾けて、黄金色の幸福なため息めいたものが心の中を満たしていく。
 箸を止めて熱心かつ真摯な感じで眉を寄せている祐樹の愛情と仕事への情熱を溶かし込んだ宝石のように輝く双眸を弾む気持ちで見入ってしまう。












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季節の変わり目のせいか、体調が思わしくなくて更新がままならないことをお許し下さい。
一日一話は(多分)更新出来そうですが、二話は難しそうです。「夏」更新後二時間を目途に更新が無ければ「力尽きたな」と判断下されば嬉しいです。
しかも更新時間がマチマチになるという体たらくでして……。
他の話を楽しみにして下さっている方には誠に申し訳ないのですが、その点ご容赦下さいませ。



最後まで読んで下さって有難う御座います。
                 こうやま みか拝

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