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創作BL小説を書いています。

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『田中先生、電話を待ちかねていたよ。どうだね?香川教授の容態は?』
 斉藤病院長は先程の電話とは異なって猫撫で声に近い感じだった。まあ、内心を押し隠すことには慣れきっている人なので電話越しではなく直接対面しても祐樹などに本心を悟られるような人ではないだろうが。
「右手の外傷の件ですが、井藤は精神に異常をきたしたせいで腱や神経を切り裂くのが目的だったようで……救出した時にメスが数本転がっていましたし。
 その心因性ショックから手の震えが止まっていない状況です。今は呉先生の処方して下さった薬が効いて就寝中でいらっしゃいます」
 絶句したような息が複数人――多分スマホのスピーカー機能で斉藤病院長が厳選した人間だけが聴いているのだろうが――から漏れていた。
 当たり前だが関係者全員が医師なので、人体の構造などにも精通している。どこを切れば効果的かなども。
『それは……有ってはならないことだ。病院としても医療界としても、香川教授の至宝の右腕を……。
 井藤という人間も許しがたいし既にそちらは根回し済みだが、妹さんが亡くなったというニセの情報で教授会に欠席した戸田教授――いやもう内田教授からも白河准教授からも詳細は聴いているので知っている――の管理責任放棄は重大過ぎて看過も不可能なのは目に見えている。
 部下から多額過ぎるほどの金銭の授受の証拠もウチの病院に好意的な森技官――彼は本当に良い人だ――からのリークが有ったそうですね。
 しかも医局の混乱を抑えきれずに雲隠れしたのも言語道断だ。井藤は医師免剥奪処分が下るだろうが、今の田中先生の言葉を聞いて決断した」
 斉藤病院長は「病院」の至宝――というより看板教授とか稼ぎ頭としての存在を毀損されそうになったこと――の存亡の危機に危機感を抱いているらしい。まあ、最愛の人の病院長の評価は極めて高いので当然かもしれないが。
 ただ、森技官を「良い人」と評価したのは意外過ぎたが、他の部分は本音を語っているようなので森技官が完璧な猫を被って接したに違いない。片想いだった呉先生を脅すためだけに使われた、でっち上げの「香川教授の医療ミス画像」の件は最愛の人が笑ってスルーしたので祐樹も黙っていたのは、ある意味正解だったのかもしれない。
 病院長の激怒の凄まじさは、言葉の乱れとか地を這うような低い声からも明らかだった、まあ当然と言えば当然だが。
 井藤は森技官の精神攻撃を受けて多分精神的に立ち直れないようにはなるだろうが、医師免許まで剥奪される――祐樹にとってはその程度の復讐では物足りないのも事実だ。最愛の人がああいった状況に追い詰められた痛々しすぎる現実を見ると――までは思っても居ないことだろうが。何しろ今まで医師免許を剥奪されてもおかしくない医師の事例は他人事だが祐樹などからすると甘すぎるとすら内心思っていたケースが多々有ったので。
 島田警視正――彼は警察官僚なので裁判官ではないが、判例は職業柄読み込んでいるだろうし――も井藤の刑は七年程度だと聞いている。
 こんな仕打ちを受けて七年の懲役――しかも八掛けで出所出来るとか――は個人的に短すぎる気はするものの、それが現実というものなので甘受しなければならないが、医師免許剥奪と斉藤病院長が明言したのだから、多分それは叶うだろう。
 後は井藤の経済力――父親も含めて――を削ぐことは森技官が入念に行ってくれるハズだった。
「井藤は医師免許剥奪ですか……」
 気掛かりそうに祐樹の顔を見ていた――祐樹はガラケーユーザーなので、スマホのような機能はない――に伝えるために口に出した。
『そうだ。そして戸田教授は懲戒免職処分を何としてでも出す』
 「懲戒免職……」
 思わず復唱してしまった。病院長がここまで怒りを露わにしたのは初めて――少なくとも一介の医局員かつAiセンター長としての接触しかないものの、教授会とかその後の呑み会などの様子は最愛の人から聞いていた――だった。
「懲戒免職!?そこまで……」
 呉先生も可憐な秋の花が突風を受けた感じで呟いている。
 祐樹などの場合、懲戒免職にされても――絶対にされる積もりはなかったが――医師の転職も流行っている現在では履歴書に、厳密にはダメらしいのだが「賞罰なし」と書いてもそこまで遡って調べられることはまずないだろうが、脳外科の教授として国内では一応知名度の有った戸田教授なら話は別だろう。皮肉は話だが、Aiセンター長という祐樹の一番高い肩書はそれほど一般的ではなく、普通の規模の大きな病院ですら存在しえないので、祐樹が転職しようと思ったら「京大付属病院心臓内科所属」の一介の医局員なので「未だ」知名度はない点や斉藤病院長などを怒らせない限り傘下の病院は流石にマズイが、それ以外の病院で雇ってくれる可能性の方が高い。
 ただ、戸田教授は下手に知名度が有るので逆に経歴を怪しまれることになるので採用は難しいだろう。
 もちろん斉藤病院長と親交のある大学病院は当たり前だしその傘下の公立病院も右へ倣えをするだろうし、そこいらの私立大学病院でも断られるハズだ。
「では、教授職での復帰は難しいのですね?」
 確認するように聞いてみた。
『当たり前だろう。一介の医師として働くのは本人の自由だが、二度と日の当たるポジションには就けないように各国公立大学病院には充分根回しをしておく。
 いいえ、私立病院も、ですわ。小さなクリニックはともかく――ただ、その場合脳外科すらない医院の方が多いでしょうけれども――ご専門の脳外科の手術程度は許して差し上げますが、それ以上の地位は絶対に有り得ません』
 意外な声が携帯電話から流れてきた。
 そこ声は凛然とした厳しさに満ちていて「物腰の柔らかい、有能な内科医」という患者さんのウワサ話にはない峻烈な怒りだった。
 戸田教授の件はそれで良いとして、アイツに対する倍返しどころか、百倍返しをしても飽き足らないのが正直な心情だった。
 森技官に任せておくのが今は最適だと思ってはいたが、アイツの末路――そういう点では森技官の方が情け容赦はなど薬にしたくも無い性格なので森技官の采配を疑っているわけではなかったが――財力も医師免許も失って、しかもそこいらの警察署ではなく島田警視正が動いて逮捕間際なので……それに祐樹と呉先生が診断書を――多分大荷物の中に漏れなく入っているだろう、用意周到な性格の上に森技官までがアドバイスを薔薇屋敷ででも行っていることは想像に難くない。
 普通は被害者――そう思うと魂の欠片が氷点下にまで下がってしまいそうになる――警察官の前で事情を説明しなければならないらしいが、格別の対応で祐樹と呉先生の話を繋ぎ合わせると事情聴取の用紙――何かのドラマで観た覚えが有る―――を文字で埋めることは可能だが、井藤が五年ほどで野放しというのは到底納得出来るものではない。
 そんなことを閑雅ながら電話を指が血流を遮断されて白くなるほど握りしめていた。
 呉先生には――多分森技官からの細部に亘っての指示を聞いていることは明らかだ。薬剤や往診用の点滴スタンドをどこの病院で調達したのかは依然として謎だったが、ウチの病院でないことだけは確かだったが、持って来てくれたこともそうだし、森技官の官僚としての華麗な人脈にも知悉しているに違いないのでその点は期待できるが。それに野のスミレの可憐な笑みが自信に満ち溢れているのも心強い限りだった。














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最後まで読んで下さって有難う御座います。
                  こうやま みか拝

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  • こんばんは。更新ありがとうございました。
    スマホが壊れてしまって、今夜の更新分は読めない(T^T)と、パニクってましたが、何とかタブレットでログイン出来ました(ほっ)

    腐れゴミ虫は医師免許剥奪ですか。ザマーミロとか思います。
    いっそのこと人権も剥奪して貰いたいものです。
    戸田教授の懲戒免職は、斎藤病院長に最大の「いいね!」を贈ります!
    懲戒って中々出せないものなのに(不祥事を起こした官僚や警官なんかですら懲戒って滅多にないです)、部下の不始末や職務放棄から懲戒免職に持っていってくれた斎藤病院長には、不退転の覚悟を感じました。
    やはり、組織のトップにある者は、このくらいの決断力が欲しいですよね!

    腐れゴミ虫やヘタレ脳外科医は地獄の業火に焼かれてしまえば良いと思いますが、あいつらがタヒんだって、教授の傷は治らない…。
    祐樹先生、自分を責めてても教授は喜びませんよ。
    教授との明るい未来へ向けて、どうか元気を出して下さい(ノ_<。)

    [ ルナ ]

    2017/10/4(水) 午前 1:59

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