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創作BL小説を書いています。

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「理想的なのは、貴方の執刀予定が早く終わりそうな患者さんの手術に合わせて私の手術開始時間を二時間ほどずらすことでしょうかね。貴方の卓越した手技レベルでは『簡単』なレベルの患者さんを選んで手術室からモニタールームに駆けつけるという流れでしょうか?それだと私も心強いですし。
 もちろん成功させる自信は有ります、有りますが手術に絶対など有り得ないことも分かっているので、何か有れば貴方が即座に駆けつけて下さると思えば、私も随分心強いですし」
 手技の時間をずらすという案も魅力的だった。平均で二時間半というのが自分の手術時間だが、確かに多少の難易度の差は有って、患者さんやそのご家族には「三時間で終わります」と言っているものの実際はもっと早く終わるケースが圧倒的で――「三時間」と患者さんやそのご家族に言っているのは「何か有った場合」の最長時間だったし「何か有った」ことは二、三例でその場合はきっちり三時間で終わらせたが、それ以外はもっと早く終わっている。
 手術を受ける側からすれば「予定時間よりも長引く」イコール「不安を募らせる時間が長くなる」ことなので極力避けたいので幅を持たしてそう言っているだけだから。早くしようと思えばもっと早く手術を終わらせることが出来る患者さんも実際は多い。
 口の中でプルンと弾けるエビチリソース掛けを幸せな気分で咀嚼しながら頷いた。
「そうだな。私の手術を早く終わらせれば良いコトなのだな。分かった。
 祐樹が考案してくれた時間差の手術だったら、私の麻酔医の先生も快く、そしてそれほど疲労度も少ない状態で祐樹の手術も担当してくれるだろうし」
 縁の下の力持ち的な麻酔医は――病院にもよるのだろうが――三オペを一人で担当させられることも多いのが大学病院の悪しき風習だったが、アメリカでは考えられなかったことだし、麻酔医は夜中の緊急オペ――自分の医局では主治医や内科の長岡先生が優秀なので緊急オペは皆無だったが――とか救急救命室での勤務の後に「通常手術」にそのまま職務に入ることも珍しくなく、世間で取沙汰されているブラック企業の残業時間など病院内では「そんな残業時間で騒ぎ立てるものなのか?」と半ば真顔で話し合っていると祐樹に聞いたことがある。
 労働基準監督署なども世間には有るらしいが、そして厚労省も医師の残業については改善の方向で話が進んでいるらしいが、実現はまだまだ先の話になりそうだった。
 そもそも医師は労働者としての権利でもあるストライキ権を行使しようものなら、逆に世間からのバッシングに遭うというある意味特殊な職業なので、労働基準監督署とか労働組合に積極的に関わる医師は居ない。
 自分が出来ることを行おうと、帰国した当初の条件として麻酔医は自分専属の先生を選んだ――もちろん一番腕の良い先生だったが――が随分その医師には感謝されている。何しろ自分の手術のみの専属になって、定時上がりというこの世界では珍しい好待遇の麻酔医になれたのだから。
 ただ、麻酔医も医師も疲労していればいるほどミスも多くなるので、今の自分達のように休める時は休むというのは基本だろうと個人的に考えているが、世の中の風潮とは逆に医師を含む医療従事者への風当たり――働いて当たり前、だから社会的地位も給料も高いのだろう?――は強くなっているのが現実だった。
「え?麻酔医も貸して下さるのですか?それは助かります。
 貴方が推薦書付きで送って下さった画像はあくまでも救急救命のための手技でしたので、術式は異なります。貴方の手技を待ち望んでいる患者さんではない、剛腕とも腹黒タヌキとも呼ばれる斉藤病院長はあくまでも心臓バイバス術の必要がある患者さんを別ルートで集める気力満々でしたから、貴方の得意分野の手技を真似るのがまずは第一歩ですよね。
 だったら貴方の手技を――まあ、自分の仕事をしながらですけれど――良く知っている麻酔医の方が望ましいです。
 有難う御座います、何から何まで」
 エビチリソースを美味しそうに咀嚼していた祐樹の唇は僅かな赤みと油分でいつもよりも輝いて見えた。見掛けよりも柔らかい唇の感触が素肌のあちこちに愛の行為の余韻の小さな音が甘い旋律を奏でて、シャンパンよりも自分を甘く酔わせてくれる。
「いや『上司』としての配慮の範疇だろう。それに病院での初執刀のお祝いとしてその程度の『はなむけ』はさせてくれると嬉しいな」
 祐樹の健康そうな血色の唇が極上の笑みを刻んで、双眸には宝石と愛情を溶かし込んだ強い光で自分だけを見詰めてくれているのも、薔薇色に煌めく時間だ。
「『はなむけ』ですか。今までも馬車馬のように働いてきた甲斐が有ったと思いますが、これからは執刀医としても『馬のはなむけ』に相応しく働きますよ。
 何しろ執刀例では貴方の足元にも及ばないのは自覚していますから、一例でも多くの患者さんを――もちろん貴方に倣って一人たりとも残念な結果にはさせませんが――執刀して遅れを取り戻さなければなりませんし」
 「馬のはなむけ」の語源は高校時代に習った覚えがあるが、確かに祐樹は「病院内一の激務をこなす医師」としても名高い。「馬車馬」という当意即妙な言葉に笑い声を立ててしまったものの、これ以上祐樹の労働量が増えることは恋人として心配のタネではある。
「身体にだけは気を付けていてくれ。今更ではあるものの、祐樹が体調を崩したら、私は心配で心配できっとそっちばかりを気にしてしまうので」
 注文していた――ワインの取り合わせは難しいのでスタッフのアドバイスに従うのが常だった――「お祝い」にも料理にも最適なワインをワインクーラーに載せて運んできた店員さんが注いでくれた白ワインを満たしたグラスを祐樹のそれに近付けて「誓い」の乾杯をした。
「体調管理も仕事のウチですので大丈夫です。手を抜いても大丈夫なところは手を抜いていますしね。
 そういう点では貴方よりも要領は良いハズです。
 それに、こういう二人きりの時間はとびっきりのリフレッシュというか癒しの時間でもありますからね。
 この『お祝い』のディナーコースが終わったら、また違った意味でも興奮させて下さるのでしょう?」
 祐樹の唇が意味有り気な極上の甘い笑みを浮かべた。
 言いたいことは充分分かったので、耳まで紅く上気しているだろう。
「それはそうと、あの岩手大学の循環器科の責任者ではなく、病院長からのメールには内心ビックリしました。
 文才の有る医師も割とたくさん居ますが、あの人もその類いなのでしょうね……」
 祐樹が自分の顔を満足げに見て普段よりも赤く輝く唇が心の底から可笑しそうな笑みを刻んでいる。
 生涯に亘るパートナーとして祐樹が愛を誓ってくれた時も嬉しかったが、今回のように説明もなしに同じ次元で笑いあえる人が恋人で良かったと心の底から笑いの小さな泡がシャンパンよりも甘く弾けてしまう。









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最後まで読んで下さって有難う御座います。
                 こうやま みか拝

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