ここから本文です
創作BL小説を書いています。

書庫全体表示

 今朝未明には祐樹の身を案じて心配の余り死にそうな気分に追い込まれてしまった――地震は自然現象だから誰を責めるわけでもないが――後のことだけに、何気ない愛の言葉を交わしながら瞳を合わせて語り合って、しかもこんなにも美味しい料理を食べて笑いあえる幸福感が掛け替えのない宝石よりも貴重な時間と心の底から思った。
「せっかくだから……ココでしか食べられないものをオーダーするのも良いかも知れないな」
 フレンチも「お祝いごと」に相応しい料理だが――それに祐樹が「世界的認知度」を上げる絶好のチャンスを掴んだという格別な「お祝い」なので尚更だった――中華の温かい湯気とか香りの方が何となくしっくりと来ているし、祐樹も充分満足してくれているようなのでそれはそれで良いのだろう。
「ああ、それは私も同じことを考えていました。ただ、貴方の胃の容量を考えて言うのを躊躇っていましたが……」
 祐樹は何の料理をオーダーしたいのか直ぐに分かったようで、満足そうでいながらも心配そうな眼差しを向けてきた。
 職業柄、体力も神経も使うので一般男性よりも食べられるものの、以前このコース――料理は季節によって異なっているが分量は同じ程度だ――に追加した時に「食べ過ぎた」とつい言ってしまったのを覚えてくれていたのだろう。
 それに今日、質はともかく朝食も昼食もそして、ファーストフード店で多すぎる軽食を食べたのだから尚更気にされてしまっているのかも知れない。
「今日は、公私共に充実した日だったし、それに普段と違う神経を張りつめていた時間が長かったので大丈夫だ。
 このお店の北京ダックは味噌の甘味とか、もちもちした皮に包まれた野菜と肉の精妙な硬さと柔らかさが口の中で溶け合ってとても美味しいので」
 北京ダッグは厳密に言うと広東料理ではないようだが、ここのお店は割と中国四大料理を幅広く取り入れている上に味付けも日本人好みに変えてあるのが嬉しい。
「では注文しますね。うっかりしているとデザートが運ばれて来るかも知れないので」
 それは未だだろうと思って――何しろ適度にパサついて焦げ目も兵隊さんのように揃っている素晴らしく美味なチャーハンもサーブされていない――口を開きかけた時にスタッフが黒子のように現れたので話題を変えた。
「手術室の件を融通して貰う交渉役には黒木准教授が適任だと思われるがどうだ?」
 今日聞いた黒木准教授の生育歴のことはまた機会が有ったら祐樹に話すことにして、今、最大の懸案事項について口を開いた。
 祐樹は追加オーダーをスタッフに告げてから、考えを巡らすように瞬きしてから唇を開いた。
「ああ、それが良いですね。『夏』の事件が起こった時に、殺気立つ医局の皆を止めたのは黒木准教授だと聞いていますので。
 それに白河教授も内田教授に『も』逆らえませんが、黒木准教授に対してすら、ひらすら恭順の意を示していると聞いています。
 あの当時――黒木准教授も当然お怒りになっていたようですが、一番冷静かつ適切に対処して下さった恩を忘れていないようですよ、白河教授は。だからポジション的にはどうであれ、黒木准教授の仰ることなら聞くでしょう」
 「あの」事件は二人の間でも――病院長「厳命」で病院内に箝口令が敷かれたと聞いているが――当事者の中で一番精神的に傷付いたのは間違いなく祐樹だった。自分的には――事件の二、三日はともかくとして――割と早く精神的にも立ち直ったのは祐樹の存在と呉先生のお蔭だったが、祐樹の自責の念を察して――自分よりも遥かに外科医向きな祐樹があんなに自分を責めるとは誰も思っていなかったのは仕方のないことだと判断しているが――時間の経過で傷口が快癒する瞬間を注意深く見計らいつつ息を潜めるように待ち望んでいた。口先だけで「許す」と言っても祐樹の――誰にも分からないだろうが、誰よりも祐樹を見ている自分には分かった――魂まで凍りついた心の傷を癒すことは不可能だと思っていたので。
 そのタブーだった話題が、今では祐樹の口から自発的に語られているのを心の底から嬉しく思った。
「そうだな……。あの時は顔面に怪我をして血だらけの久米先生が必死の形相で医局に走り込んで来たそうだ」
 救急救命室は例外で病院内では「走る」という行為そのものが安全面を考えて禁止されている、当たり前だが。
 ただ、久米先生――しかも救急救命室で患者さんの処置にあたっていた時に付いた血液とかも落とさずに――蒼褪めて祐樹の指示の通りに医局に第一報を入れた様子は鬼気迫るモノがあったと柏木先生から聞いている。
「ああ、久米先生は動揺した余り何もないところで転倒して……手をつくということすら忘れていたそうですよ?見ていて呆れましたが、まあ柏木先生が『救急救命医に向いていない』と判断したのはある意味正しいかと思います」
 祐樹の今日の神憑り手技だって、本来は柏木先生のユニットの患者さんなので当然彼の出番だったが、一瞬で無理だと悟って自分が出た方がマシだと思った瞬間に祐樹が率先して飛び出してくれた。
 そういう意味では一番救急救命医に向いているような気もしなくもないが、祐樹の望みが「自分の隣に立つのに相応しい外科医になること」だし、充分に天稟も資質も持ち合わせていることは自分が一番良く分かっている。足りないのは実践だけなので、その機会が病院長命令で与えられたことにも乾杯したい気分だった。
 愛すべき久米先生のお茶目な行動に「今は」共に笑い声を弾けさせて協奏曲を奏でることが出来たことにも安堵しつつ、温かな湯気と笑い声の絶えない個室の雰囲気を心の底から楽しんだ。
 ただ、幾晩かの眠れぬ夜と苦悩――決して祐樹に悟られないように自分なりに頑張った――の時を経て、ようやく辿り着いた歓びの夜だけに世界で一番幸せな夜を迎えることが出来たと心の底から薔薇色の笑い声を交わしてしまう。










どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!

季節の変わり目のせいか、体調が思わしくなくて更新がままならないことをお許し下さい。




最後まで読んで下さって有難う御座います。
                    こうやま みか拝
  

この記事に

  • 祐樹先生が「薔薇色の幸せ」の中に身を置くことを、ご自分に許すことが出来るようになれたことを神に感謝したいです。
    今、現在進行形で祐樹先生の苦悩を見詰めている身としては、こうして、あの苦しみを乗り越えられたことが何よりも嬉しいです。
    教授も、ゴミ屑男から受けた被害よりも祐樹先生の苦しむ姿(隠してはいても教授は察していたので)を見ている方が寧ろ辛かったようですし…。
    けれど、どんな非道な悪意も、教授と祐樹先生にとっては愛を深め、より強い幸せを引き寄せる為の試練でしかなかったようです。

    今の幸せと、これからの幸せが永遠でありますように…。

    [ ルナ ]

    2017/10/9(月) 午前 0:41

    返信する

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
  • 名前
  • パスワード
  • ブログ

開くトラックバック(0)

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事