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創作BL小説を書いています。

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 祐樹が大急ぎでプリントアウトした書類の束を――案の定というか自分が持っていた文書とは大幅に改善されていた――ホッチキスで留めている。
 最終稿を一読して頭に入れながらクリアファイルの中へと入れた。
「病院長説得どうか成功させて下さい。100万部だなんて凄過ぎます。ああ眩暈が」
 久米先生が祐樹と自分に声を掛けてくれた。もちろん他の医局員も。
「眩暈なんて起こしている暇はない。さっさと攝子と鉗子を動かすんだ。
 ウチの医局は二位しか認められないからな。ウワサによると悪性新生物科の研修医は教授よか桜木先生、知ってるだろ教授の手技を見るのを趣味にしている手術室の悪魔だ。あの先生の手技に惚れ込んで直々に教えを乞うため、土下座までしたんだぞ。桜木先生は『教える柄じゃねぇ』とか断ったのを粘り勝ちに持ち込んだんだ。あっちの研修医に負けたら我が香川外科の名折れなんだから、今の久米先生は本のことから離れて、こっちに集中!!」
 柏木先生の――いや元々外科医は負けん気が強い人間が集まってくるとのことなので、そちらの方が普通なのかも知れないが。ただ自分は競争にはまるっきり興味も関心もない――容赦のないスパルタ訓練に泣きそうな感じで耐えている久米先生に「頑張って下さい」と声を掛けた。
 傲岸不遜を絵に描いたような桜木先生だが、地震の時に自分の巣のような手術室から出て来た時も脳外科の医師に土下座されたからだと言っていたので、あの手術にしか興味のない先生を――今のところ必要性は感じないが――動かすのは土下座なのかも知れない。
「教授、そして田中先生、朗報をお待ちしております。ウチの医局もノルマを20、いや30冊に上げましょうか?」
 長岡先生が用有り気に出て行ったのと入れ替わるように医局に戻って来た遠藤医師が心の底から嬉しそうな感じで話しかけてくる。
「いえ、お気持ちは嬉しいのですが、決して安いとはいえない本なので、10冊で充分かと思います」
 専門書と異なって一冊の値段が万単位ということはないだろうし、祐樹の試算――先程の企画書で読んだ――では書店に並んでいるハードカバーの本と同じ程度のページ数で、写真が入る分値段が上がる感じだが2千円前後だろう。岩松氏とか清水氏なら万単位を購入しても大した出費とは捉えないだろうが、一般人の財布にはかなりの打撃なのも確かだろう。
「分かりました。ただ、親兄弟親戚一同友人知人を総動員して本を買うように説得します。
 もちろん今の患者さんはもちろんのこと過去の患者さんにも声を掛けますね」
 遠藤先生が気負い立った感じで熱心に告げてくれた。
「過去の患者さん……ですか?個人情報に問題は有りませんか?」
 気持ちはとても有り難いが時と場合によって遠藤先生は暴走しがちな一面を持っているので、念のために聞いてみた。
「それは大丈夫です。フェイスブックで先方から友達登録をしてきて下さった方だけを対象にしますので」
 それならば問題ななさそうだ。
「香川教授、そろそろ病院長室に向かわれた方が……」
 祐樹も緊張した感じの表情と硬い口調でそう告げた。
「もうそんな時間か。分かった」
 二人して医局を出ようとすると背後から「頑張って下さい」などの暖かい声援が掛けられた。
「緊張しますね。病院長に直訴しようとしていた『夏』の事件の時にはそんな心の余裕はなかったのですが」
 廊下を並んで歩きながら祐樹が小声で呟いた。
「心に余裕が有るからだろう……。それはそれで良いことだと思うが」
 祐樹の気を紛らわすべく、祐樹には分からない長岡先生の言葉を解説して、納得の表情を浮かべた時に病院長室階へとエレベーターが着いた。
 いかにも両家のお嬢様が花嫁修業の一環として病院長秘書を務めているという感じの楚々とした若い女性が出迎えてくれる。
 斉藤病院長の秘書は美貌と若さで選ばれるとウワサになっているだけのことはあるなと妙なことで感心してしまう。
「香川教授と田中先生がお見えになりました」
 アナウンサー養成所にでも通った過去があるのだろうか、京都風のアクセントではない良く通る声が戦闘開始の合図のようだった。
「入って下さい。いやあ、お二人ともご活躍で何よりです。で、今日は一体?」
 応接セットも以前訪れた時とは異なっていたが、そちらに満面の笑みを浮かべた斉藤病院長が座るように手で合図した。
「実は地震の時の本をウチの出版科から出したいと思いまして。その御許可を得に参上した次第です。NHKのドキュメンタリー番組の本バージョンというか……。詳細はこの田中からお聞き下さい」
 先程の妙齢の美女がマイセンのカップに入れたコーヒーを運んで来た。
 そのテーブルの上に祐樹が手技の時と同じ流れるような仕草で書類を置いて的確かつ端的に説明を始めた。
「ほほう、それは大賛成だが……。ウチの出版科ではなくて、シンチョウさんとかの硬めの本も出す出版社経由の方がよりいっそう良いのではないかな?良かったら出版部長に紹介するが」
 いや、出版社を通してしまったら防衛大学の講演会に祐樹がついて来ることは事実上不可能になる。
 というか、そんな大手出版社――仕事柄、医学専門誌を出している世間の認知度は低いものの医師なら誰でも知っている弱小出版社の社長が御用聞きのような感じで出入りしているというウワサは教授会で聞いたことはあるが――の出版部長と何故知り合いなのだろうか。しかも口ぶりからして懇意な感じだし。
 ただ、それだけは阻止したいのだが。何しろ儲けを大学病院に還元することで祐樹の出張だか有給休暇を勝ち取りたかったので何とかして「劣勢」を覆さなければと必死で頭を回転させた、こんなに頭を働かしたのは今までにはなかったほどの勢いで。










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◇◇◇



すみません、リアルで少しバタバタする事態になってしまったので、更新お約束出来ないのが申し訳ないです!!






最後まで読んで下さいまして有難う御座います。

        こうやま みか拝

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