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創作BL小説を書いています。

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 その警官の後を必死で追いかけようとしたけれども、ウチの大学では二回生の時に甲山――かぶとやま――マラソンという体育の必修科目が終わったら、大学でのカリキュラムには体育はない。少なくとも、甲山マラソンの時よりも速く走っているんだけど、多分普段から身体を鍛えている警官はともかく、幸樹にまでずっと遅れを取る始末だ。
 高いフェンス――多分、1m70僂らいかな――の前で幸樹が立ち止まって、心配そうに俺を見た。俺は汗ダクダクだったけど、「大丈夫」と無理に微笑みを返した。それを確かめてから、フェンスの向こう――多分、そこが「姫神池」なんだろう。警官の姿が数人目について、いやに物々しい。
 幸樹が――この事件(?)に巻き込まれてからは嫌と言うほど見た――眉根を寄せる仕草をしている。ただ、今回の幸樹の眉根の寄せ方は今までに見たことがないほど悲しげで、そして幸樹自身を責めているようだった。
「おーい、ボートないかぁ?」
「それよりは、長い棒みたいなものは?」
「泳げる人間は泳いで来い」
 制服を着た警官達が口々に言っている。
 その口調で分かってしまった。
 有吉さんは、池で溺れているだけではないことを。もし、溺れているのなら、水泳の得意な警察官(10人も居るんだから、半分くらいは泳げても良いハズだ)がまずは飛び込むだろう。それをしないで「ボート」だの「長い棒」だのは、絶望的だということだ。
 俺はやっとのことで幸樹の傍に行く。
「有吉さん……」
 幸樹が秀でた眉を思いっきり曇らせている。
「ああ、多分、駄目だ……呼吸も停まっているのがオレにでも分かる……」
「そんなっ」
 良く見るために、幸樹の身体をすり抜けようとした。幸樹の腕が俺の腕を掴む。
「遼は見ない方が良い。『悪夢』になったら困るだろう?」
 俺は掴まれた腕を大きく振り回した。そうでもしないと叫び出しそうだった。
「でも、でも、有吉さんとは元気になったら、麻田さんと幸樹と俺でこの甲山にピクニックに来ようって……約束していたのに……。助けて上げられたかもしれない人だったのに」
 ああ、麻田さんも八木君と『心中』みたいな方法で亡くなっていたんだ。そう思うと涙が後から後から出て来る。
 そこにもう一台のパトカーが急停車した。随分乱暴な運転だけどどこも擦っていないし運転技術は相当なのだろう。
 助手席のドアが開いて、悲壮な顔つきをした有吉さんのお母様が転がり落ちそうな勢いで俺達の前に立った。
「裕子……では、ないのでしょう?お願い、裕子じゃないって仰って下さい」
 縋るような目が幸樹の瞳に向けられた。
「……お気の毒ですが……」
 幸樹も自分の身体のどこかに酷い怪我をしているような顔で、有吉さんのお母様の眼差しをしっかりと受け止める。
「裕子は……裕子はどこに……」
「『姫神池』って言うのですか?そのほぼ真ん中に……」
 お母様はフェンスが折れるのではないかと思えるような力で、必死に身体を支えて、池の真ん中辺りを凝視している。
「裕子……そんなところで……お母様が迎えに来たのよ?裕子が泳げないのは知っているのだから、お母様を困らせる悪戯は止めて……浮き輪か何かに乗っているのでしょう?早くお母様の所に帰って来て頂戴」
 フェンスに向かって悲痛な声を出しながら滂沱と涙を流している有吉さんのお母様が気の毒過ぎて、俺は幸樹に呟いた。
「有吉さんの……って、俺が見たら絶対『悪夢』を見そうな亡くなり方?」
 幸樹は、眉間に形の良い指を当てて、しばらく考えていた。
「いや、そうでもない……」
 俺が最後に有吉さんを見たのは救急車に乗せる時で、拒食症特有の皮膚のシワとか有ったけど、池の中心部からはかなり離れている。有吉さんは高栄養の点滴とか受けていたから――とっても、点滴で太ることはないだろうけど――それに、彼女の『妄想』に合せて薬は処方されていたのだから、『妄想』に苛まれる顔にはなっていないハズだ。けれども、精神科のお薬がどれほど効くのかは分からない。だって、精神科のお薬は、得体のしれない――こういうと失礼かもだけど――北の独裁者の国で作っている薬とは全く違っていることくらいは俺にも分かる。
「なら見ても大丈夫だね?」
 幸樹が躊躇いがちに頷いた。
 まだ、警官達は有吉さんの身体にまでは到達していなかった。ボートは、フェンスに囲まれた池には置いてなかったし、パトカーには長い棒を用意していなかったのだろう。
 西野警視正からの命令では、「行方不明者の探索」だったのだから池だなんて想定外だったのだろう。
 恐々と、フェンスの向こうを覗き込む。
 確かに池の真ん中くらいに有吉さんが横たわって浮いているのが見えた。
 白い長袖のワンピース姿、それもスカート部分がふんわりとしている。俺の知識が正しければプレアースカートっていうやつだろう。
 黒い髪は、水面にたゆたっていて、有吉さんの肌は蒼い陶磁器のように滑らかで綺麗だった。ただ、その色からすると、彼女が既に亡くなっているのは幸樹の指摘がなくても気付いただろう。俺の視力では、有吉さんの心臓が動いているかどうかは分からなかったけど。それに、スカートで覆われていない部分の細い、細い足も蒼く変色している。靴はこんな山の中で履くには相応しくないヒールの高い白いサンダルっていうのかな?それとも、「あの」合宿中に履いていたミュールっていうのかな?しかもヒールはかなり高い。
 有吉さんの顔は、正直良く見えなかった。
「なあ、幸樹、有吉さんの表情は?」
 幸樹がギュッと眉根を寄せる。
「幸せそうに微睡んでいるような感じだが……それまでに、何か『怖いモノ』から逃げて来て、ようやく逃げ切ったという表情だ。オレの判断に間違いがなければ」
 新しいパトカーのサイレン何台かが普段は静かな「姫神池」に木霊した。
「高寄君、案の定来ていたのだね……マルタイ――対象者――発見、しかも池の中だと聞いて、応援部隊を連れて来た。あの女性が被害者のお母様だろう?」
 西野警視正に向かって、皆が敬礼する。本当に偉い人なんだなと現実逃避に走ってしまう。
 山田巡査がバンから下りて、簡易ボートらしきビニールだかゴムだか分からない物のスイッチを押すと、一瞬でボートになった。と同時に、俺の知らない警官がフェンスを切断する大きなカッターを取り出して、フェンスに穴を開けて行く。簡易ボートにはどういう仕組みになっているのか全く分からなかったのだけど、オールまで常備されていたのは流石だった。
「しかし、おかしいな……「セント・マリア病院」の敷地内から「姫神池」に来るためには、いくら彼女が閉鎖病棟の患者ではなかったにしろ、病院の敷地をぐるりと囲むように堅固な塀が設置されている。それに、万が一脱出が可能だったとしても、フェンスを上るのに、あんな靴やお洒落用としか思えないワンピースを着て来るのも不自然だ」
 幸樹が、眉間にシワを深く刻んで言った。
「これまでの――敢えて『被害者』と呼ばせて貰いますが、皆、密室の中や自殺としか思えない状況で亡くなっています。しかし、有吉さんは密室――精神病院だって巨大な密室ですよね?――から逃げ出したかのように思えるのですが」
 幸樹の唇も辛そうに歪んでいる。
 人目がなければ、幸樹を力づけるためにキスをしたり手を握ったり出来るのにな……と頭の中で思った。










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◇◇◇



すみません、リアルで少しバタバタする事態になってしまったので、更新お約束出来ないのが申し訳ないです!!






最後まで読んで下さいまして有難う御座います。

        こうやま みか拝

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