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創作BL小説を書いています。

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「酔っていて、そして眠いフリでもして私の肩にでも顔を預けていて下さいね。
 二人だと身元がバレる可能性がより高まりますので」
 二人を歓迎して迎え入れるかのようにタクシーのドアが開いた。
「分かった。そうする」
 運転手さんに行先を告げると最愛の人は祐樹の肩に顔をうずめて酔ったフリをしてくれた。
 先程までの愛の行為で艶めいた顔を誰にも見せたくなかったし、ましてや京都の人間に認知度の高い人間が単体でもマズいのに、二人でいれば更にリスクが高まるのも事実だった。
 それにこの時間まで呑んでいたら眠気が来るのも当たり前だし、タクシーの運転手は嘔吐には嫌悪感を示す――何しろ車内清掃も運転手の仕事だと元患者さんに聞いたことがある――がそれ以外なら特に注意を払われることもないだろう。
「大丈夫ですか?いくら東京本社への栄転祝いだからといってあんなに呑まなくても。
 いや、気持ちは分からなくもないですよ。皆が憧れる本社勤務に同期の柏木さんが大抜擢されたのですから、祝杯を重ねる気持ちは。ただ限度というものが……。
 酔っ払いを一人にしておくのは心配なので、今晩は家に泊まらせて下さいね」
 全てはタクシーの運転手さんに聞かせるための言葉で、祐樹だってそれほどサラリーマンの実態に詳しいわけではないが、運転手さんが元会社員とかいうレアケースでなければ誤魔化せそうな気がする。
 それに自宅マンションに「泊まる」口実も二人が同居していることを悟られないためには言っておかなければならないことだった。
 午前三時の京都は昼間の名物めいた渋滞とも無縁だったしマンションはもうすぐだ。
 街頭の灯りが熱愛中の恋人達を祝福してくれるように明るく道路を照らしている。
 元々無口な性格なのか、それともこの時間――しかも肩に顔を預けて寝たフリをしている最愛の人に遠慮も兼ねて――だからかは分からないが運転手も無言でカーナビの「もうすぐ踏切です」などと言ったアナウンスとエンジン音だけが響く静かな車内だった。
「そろそろ着きますよ。起きてください」
 これ見よがしに華奢な肩をやや強く揺すった。
「ああ、いつの間にか眠っていたようで……。ただアルコールは体内に残っている感じだな……。平衡感覚がおかしい気がする」
 ホテルのチェックインの時に――二人の「特殊な」関係を弁えた上で歓迎してくれる大阪のホテルとは異なっているのは一見の客という要素もあるだろうが、ただあのホテルは二度と使えないだろう、部屋をあんなふうにしてしまったからには――普段は持ち歩かない主義の人がわざわざ現金を用意してくれたのも嬉しかったが、最愛の人も身元が割れることや二人の真の関係が心無いウワサになることを望んでいない。
 まあ、テレビのバラエティ番組に出ている人のように少数派の性的嗜好を売りに出来る社会に住んでいないのだから仕方のないことだし、理解の有る人だけに祝福されているだけで充分幸せだと最愛の人は思ってくれているみたいだったしそれは祐樹も完全同意だ。
 「平衡感覚がおかしい」と最愛の人が聞こえよがしに言ったのもつまりはタクシーの運転手に聞かせるためだけで、そう言っておけば不自然な距離の詰めかたも納得してくれるだろう。
 手早く料金を支払って――この時間なのに割と近距離なのも悪い気がして――「おつりは良いです」と告げて最愛の人の肩と腰に手を回して車から降りた。
「祐樹……。何故直ぐにエントランスに入らないのだ?」
 酔ったフリでしな垂れかかりながらも、怜悧な声が夜の静寂に溶けていく。
「少し待っていて下さい。ほんの少しで済みますから……」
 この時間でも煌煌と明かりを点けたマンションのエントランス前で佇む祐樹とその身体に凭れかかる最愛の人のシトラスの薫りとか確かな温かさや重みを心地よく受け止めて、タクシーが完全に視界から消えるのを待った。
「もう大丈夫ですね。花園から真珠の滴りがこれ以上零れないように……。そして私が貴方をどれだけ愛しているのかが分かるように行動で示しますね」
 上体を屈めて膝と腰をしっかりホールドして抱え上げた。
「え?ゆ……祐樹……。この恰好はとても嬉しいが、ただ……他人に見られたら」
 慌てている天使の風情で愛の行為の余韻に艶めく瞳が当惑気に揺れる。
「大丈夫です。この時間に他人と遭遇した確率はゼロなので。ほぼ毎日この時間に帰宅している時期も有った私が言うのですから間違いはないです」
 首に手が回されて――もちろん呼吸器は意図的に外されていた――縋る仕草も愛おしい。
「部屋までお運び致しますよ。この時間は管理人さえ休憩だか仮眠の時間ですし。
 それにね、結婚式の披露宴の際に新郎が花嫁を抱き上げる儀式が本当に有って……。
 ライスシャワーとかブーケトスは不可能ですけれど、この程度はして差し上げたかったのです。
 パーティの時にあんなに嬉しそうな無垢な笑顔を浮かべて下さった聡なら、きっと喜んで下さると思いまして。
 午前三時の花嫁というのも、私達らしくて良いのではないでしょうか?」
 普段は電気の無駄だと思っていたエントランスホールとか、大阪のホテルにも引けを取らない豪華なフラワーアレンジメントだけが二人の愛を寿いでくれるかのようによりいっそうの煌めきと瑞々しさを加えて咲き誇っているような気がした。
「祐樹……。とても嬉しい……。
 ライスシャワーやブーケトスがなくても、何の問題もないほど……。え?エレベーターに乗るのでは?」
 思いついて歩む方向を変えた祐樹を怪訝そうに揺れた眼差しが艶やかに煌めいている。
「花嫁に相応しい物をと思いまして……。手でしっかり掴まっていて下さいね。こちらの手は外さなくてはならないので」











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◇◇◇



すみません、リアルで少しバタバタする事態になってしまったので、更新お約束出来ないのが申し訳ないです!!






最後まで読んで下さいまして有難う御座います。

        こうやま みか拝

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