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「一番大きな宴会場の主賓席の後ろの光ですが、あれは顧客の注文によって色々な形に変えることが出来るのです。そういうある意味融通が利くところも気に入っての利用頻度の高さですかね。荘厳な感じが大変好評ですが、軽快な感じにも変更は可能です」 内田教授は世間話――何しろ白河教授の実質的精神的後ろ盾になっていることから――の積もりで気分転換がてらの話題変更だろうが、個人的には大変嬉しい情報提供だった。 内田教授は自分の全く興味のない各種名誉職にも就いているからこそ知り得た情報を流してくれるのが有り難い。 雛壇の後ろがローソクのような幽玄の光りを放つことは知っていたが、その光りが変更可能ならば「事情を知っている」人間には分かるような形で知らせたいと思ってしまう。 出来れば十字架が――特にキリスト教信者ではなかったものの――背景としては最上だが、ただ特定宗教色を出すのは得策ではないことくらいは自分でも分かる。 複雑なデザインに紛れて十字架を忍ばせるようにしようかとか、さらに新しい嬉しい悩みが増えてしまう。書店でのサイン会も公共の場所でのお披露目に違いないしそちらはそちらで楽しみだったが、ホテルの宴会場という場所はまるで結婚式の披露宴のような感じがして心が薔薇色の泡で満たされる。 百合や薔薇の花の噴水というのも見事だろうが、ライトの加減によって十字架に見える背景をバックに自分たち二人が並んで座る機会はこの先いつ恵まれるか分からないだけに絶対実現しようと密かに心にメモした、もちろん強い力で。 「香川教授には本当にご迷惑をお掛け致しまして大変申し訳なく思います。 そして、御寛恕のお気持ちを持って頂けたことも。救急救命センターの清水研修医をウチの医局所属という名目で貸し出して下さるのも、ひたすら有り難く忝く思っております。 その上、そんな晴れがましい席にまで上席を用意して下さるご厚意も身に染みて有り難く思います」 白川教授が内田教授の顔色を窺うような感じは否めないものの、自分と祐樹を交互に見ながら心の籠った感じでお礼とお詫びを兼ねた――ただどこか弾んだ気持ちを滲ませている――声と共に白髪交じりの頭を下げた。 「いえ、もうその件は……。外科の各医局からも脳外の復権を望んでいるという声が多数届いておりますので、親睦会を一つの区切りにしてまた元のような関係を築いて頂ければ幸いです。それに過去の件への贖罪は充分果たされたと思いますので」 準教授の時に――といっても合同手術の際に戸田前教授のお供として単に付き従っているだけという感じが強かったので――時折顔を合わせる仲だったが、今は何だか昔よりも腰の低い態度で深々と頭を下げられた。きっと内田教授の薫陶の賜物なのだろう、何だか我の強そうな感じは全くなかった。 「田中先生もそれで良いと内々に申しておりますので、この件は水に流したことにして、これからは合同手術なども遠慮なく申し出て下さい」 後ろに控えた祐樹の男らしい凛とした表情を振り返って確かめる。 祐樹も強く輝く瞳で同意の笑みを送ってくれた。少し不遜そうな皮肉な笑みを唇に浮かべているのは、多分白河教授と内田教授の歴然とした力関係――ウワサは当然祐樹の耳にも入っているが実際は分からなかった――を確認出来たからなのだろう。 「有り難いお言葉を賜りまして心の底から感謝致しております。教授と田中先生の本は医局を総動員して買わせますので、何十冊でもお申し付け下さい。せめてものお詫びの気持ちとして……」 祐樹の形の良い唇が皮肉そうな笑みを浮かべる。 自分には全く向けないその笑顔が最も好きだと告げたことがあるだろうか。こういう些細な心情などもこれからは言葉にしなくてはならないな……とも思った。 「では、私達はこれで失礼します。少し打ち合わせが有りまして」 この圧倒的な力関係だと白河教授が延々とお詫びの言葉だけを述べるだけというのも悪いような気がして背後の祐樹を視線で促した。 執務階で交わされる教授同士の話なので当然祐樹は一歩も二歩も引いた感じを保ってくれるのも有り難い。私的な場所では当然祐樹が主導権を握っているが、こういう場所では節度を保って振る舞ってくれることへの感謝の念と愛情が自然と湧きあがった。生粋の病院育ちだからこそかも知れないが、それだけが理由ではないような気がする。負けん気も強い祐樹がこうした謙虚な態度を取ってくれるのはきっと手技の差がまだまだあると――最近メキメキと向上しつつあるとはいえ――祐樹自身が判断しているからだろうし、確かな愛情が根底に流れているからに違いない。 「では香川教授、またゆっくりお話し出来ればと思います。長岡先生を快く貸し出して下さっている件にも甘えてしまって申し訳ありません」 内田教授は白河教授を促すように見つめて深々とお辞儀をした。当然白河教授も丁重極まりない――そして未だこの時間なだけに少しだけ残業している全然関係のない科の教授が通りすがるかも知れない場所を弁えた上だろうが――腰の低い感じで見送られるのも何だか少し悪い気もした。 ただ、祐樹的にはやはりあの研修医を黙って飼っていたという件でずっと脳外科に対してわだかまりを抱いていたのも知っているので、この際ケジメだと思って二人の教授達の前から黙って去る方が良いだろうと咄嗟に判断して自室へと視線で促した。 祐樹が輝く瞳はそのままで、ただ唇の形は満面の笑みを浮かべているのを確かめてから、密かに視線だけでさり気ない感じで笑い合うのも何だか楽しい日常の一コマだったが。 どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!更新の励みになります!! ◇◇◇ 体調が戻るまで不定期更新になりますが何卒ご容赦下さいませ!! リアバタに拍車がかかってしまいまして、趣味のブログライフに多大な影響が出ると思いますが、リアル有ってのネットなのでその点ご理解頂けますようにお願い致します。 最後まで読んで下さいまして有難う御座います。 こうやま みか拝
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こんばんは。更新ありがとうございました。
更新はとても嬉しいのですが、体調が優れない中、無理をしているのではないかと心配です…。
白河くんの丁寧というよりも、へりくだったというか、卑下とも言えるくらいの米つきバッタ振りに、思わずニヤリとしてしまいました。
完全に内田教授に頭を抑えられてますね(笑)
そういえば野心家ではあったと思いますが、若かりし時は杉田師長にも頭が上がらなかった人ですし。情けない感じが『下剋上』の世界では珍しいですよね。
久米先生の情けなさとは、また別種ですし。
披露宴、バックの光のデザインは、楽しい感じで頭を悩ませますね(*´ー`*)
教授と同じくらいドキドキ楽しみです!
[ ルナ ]
2018/4/1(日) 午前 1:12
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