|
義理と云う字は、何から起る、思い合うたる、種から起る
心中心中と、世に多けれど、試し少なき、今度の心中、
由来如何にと、尋ねて聞けば、頃は天保の、六年の二月、
豊の御国の、名は企救の郡、作り精出す、能行村に、
知らぬ人無き、有徳の御人、道理分かりし利久右衛門さんは、
田地財宝、有り余れども、兎角世の中、足らないもので、
世継ぎ無いのが、一つの不足、あちらこちらと、ご詮議あれば、
此処に筑前、田代と云うに、昔大内の、身内に於いて、
氏は疋田の、何某さんと、呼ばれ給いし、御末の人、
今は作りを、稼業とせられ、田代村にて、御暮しなさる、
それに数多の、兄弟ありて、末の息子の義平と云うを、
こちの養子に、貰うてやると、人の勧めに、利久右衛門さんも、
されば我が子に、致さんものと、日柄選びて、呼び取りなさる、
昔名高き、御侍の、血筋現われ、心は義平、
悧巧発明、世の常ならず、器量吉野の、若木の桜、
花も色増二十一の年、ちょつと行きあい、見る女衆も、
心掛けたや、縁故もあれば、くんでみたがる、あまたの御人、
中にすぐれし、一人の娘、これも村内、五平治さんの、
萩の町から、養い給い、末を祝して、お千代と、名ずけ、
色香ふくみし、その面ざしは、白き牡丹に、薄紅さして、
姿とりなし、柳の緑、雨を帯びたる、よそおいなれば、
絵にも勝ると、世間の噂、お千代儀平に、心をかけて、
迷い初めしが、仲秋の頃、枕一つに、長々し夜を、
衣かたしき、睡りもやらで、日頃恋しき、あの儀平さん、
蔭の案じは、人白菊の、露の情けに、身は蛍火の、
昼は消えつつ、夜は夜もすがら、胸のほむらを、一人で燃やす
蔭に連れ添う、輪廻の車、手管求めて、語らんものと、
恋の糸口、綻びかかる、手繰り寄せたき、心の奥は、
君が知らねば、又如何にせん、人に頼まば、人現わさん、
直に云うには、いと恥ずかや、何とせんかた、南無八幡さま、
どうぞ此の恋、叶えてたべと、夜毎夜毎に、参れて、頼む、
されば例えに、云いたる通り、想い射る矢は、岩にも立つと、
儀平このごろ、お千代を慕い、どうぞ妻にと、なさしてたべと、
これも夜な夜な、八幡に参り、神の御前で、一緒に出会い、
儀平、お千代と、声掛けければ、儀平さんかや、あら恥ずかしや、
私ゃお前に、命をかけて、頼みあげたき、一言ありて、
此処に参るも、今宵で七夜、今の逢う瀬は、不思議なご縁、
わしが様なる、不束ものが、引く手あまたの、御方様に、
無理な御頼み、申したとても、よもやお聞きは、有るまいけれど、
一夜優しい、御言葉あれば、明日は死ぬとも、何厭いましょう、
せめて哀れと、思してたべと、後は言葉も、只泣くばかり、
儀平聞くより、のうお千代さん、わしもそなたの、姿に迷い、
これのお神に、毎夜の願い、変わるまいぞよ、変りもすまい、
胸の細々互いに話し、心解ければ、誓言たてる、
東白みの、雲たなびけば、又の逢う瀬と、別れて帰る、
つずく・・・・・・・・・・
|

- >
- Yahoo!サービス
- >
- Yahoo!ブログ
- >
- 練習用






