無題
小説 ライコー (28回目)
小説 ライコー 第二部 四の(1) 金吾は、闇の中に目をさました。 顔のうえに、一点の小さな火の玉がある。 何だろう。 そう思った途端に火の玉が明るく輝いた。 煙管であった。 商人風の、引きしまった男の顔が、一瞬の 明かりの中に浮かび、そしてまた消えた。 「目がさめましたか」 男が小声で言った。 金吾は上半身を起こして、それから男の方に 向いてあぐらをかいた。 船べりを叩く波音にあわせて舟床が大きく 左右にかしぐ。甲板へ通じる入口から、わず かに月の光が差し込んでくる。 「よう眠っとられましたね」 ふたたび男が言った。 「いま何時ごろじゃろうか」 「まもなく、夜明けでしょう」
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小説 ライコー(59回目)
2010/5/21(金) 午前 11:20
第三部 七の(1)。
ニューヨーク西十八番街のヘンリ・レブ
ィン洋服店では、妻木頼黄が三度目の冬を迎
えていた。
頼黄に与えられた仕事は、薪割や皿洗い、
それから店の掃除、ショーウィンドー磨き、
商品の配達などで、二年前から、夜は市立建築技
術専門学校の夜間部へ通っている。
十二月五日の朝のこ
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小説 ライコー(58回目)
2010/5/17(月) 午後 5:30
第三部、 六の(2)
「詭弁ではありません、大学と名を名乗る
には、世界中の大学に通じるだけの、学力の
保証がされなければなりません。君達がこれ
までの三年間の学習は、欧米では大学予備校
の学力に当るものです。大学の正規の教官が
これを担当するほどのものではないのです」
「学校側では、教官の不適格たるを
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小説 ライコー (57回目)
2010/5/14(金) 午後 6:06
第三部 六の(1)
明治九年二月、豊川は慶応義塾に入学。
翌三月、廃刀令の布告。
「自今大礼服着用ならびに、軍人および警
察官吏等の制規ある服を着用の節を除き、帯
刀を禁ず」
金吾は、やっと先生方の英語にも耳が慣れ
て、前年冬の試験では総合点で三十位。
しかし喜んだのもつかの間、この年からは
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