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先週、北海道にいる三つ下の弟へ、黒の長傘を送った。
両親から息子への誕生日プレゼントとして。
ずうずうしくも弟は、この日のために母に、
オレ、長傘ないんだよね、と漏らしていた。
それで私は、母から預かったお金と住所の書かれた紙切れを財布に入れ、
仕事帰りにイルミネーションのあかりかがやく丸の内で
シンプルだけど洗練された男の中の男の傘を選び抜いて
それを父の名で送ったのだ。
え?私からのプレゼントはないのかって?
ないよ。
彼が結婚する前、家に居た頃には性懲りもなくあげていたけど、もうやめたの。
なぜって彼より半年早くくる私の誕生日に
彼がプレゼントをよこさないから。アハハ
そもそも、うちに居た頃だってひどかったのよ、
誕生日プレゼントって言って買ってきてくれるのはいいんだけど、
ヤツときたら毎度自分の欲しいものを買ってきて、一旦私に渡してるだけで、
あっと言う間にそれ自分のものにしちゃうんだから。
弟のくせに、っていうか私から言わせると、弟だからこその、究極のちゃっかり者。
自分のものは自分のもの。姉のものも自分のもの、っていうね。
気がつくと、お気に入りのCDとかDVDとか、
更には、私むかし、スノーボードとかをやっていて男の子も着れるような洋服やら
バックなんかをたくさんもっていたんだけど、
そういうものが私の部屋から消えてて、
私、そのたんび、ムキーッ!となって、
隣にある弟の部屋にプリプリと乗り込むわけだけど、
そうするとまるではじめからそこにあったかのように
平然と私のものがその部屋の棚に収まっていたり、
ひどいときには、彼自身が私のイカしたトレーナーを着て、
私のCDを聴いて、そのCDジャケットを眺めながらくつろぎつつ、
噴火寸前の私を"どしたの?"みたいな様子で見上げるものだから
私はますますキーーーッ!っとなって、
『ちょっとそれ返してよっっ、なんで勝手にもってくわけ??
自分で買いなさいよっ!
しかもそのトレーナーっ!
ヨイオ(仮名)臭くなるでしょっっ!!
明日着てくんだから今すぐ脱いで洗濯しなさいよっっ
乾いてなかったらブッコロスっっ!!』
なんて殆ど新明解の山田さんの言うところのヒステリー女みたいにぶちきれるわけなんだけど、
つまり彼からしてみても、そんなことはまさに、"アネキ欲求不満なのね"、
くらいな感覚でいたのか、屁とも思っていないようで
それはもう姉の私に何百回キレられようとも
ぐちゃぐちゃの私の部屋からイカしたグッツを見事探し当て、
それを持ち去ることを彼がやめることはなく。
しかしそんな目にあっておきながらも姉というのは愚かなもので、
いけてる飲食店なんかを見つけると、
きっとヤツが喜ぶに違いないと連れて行ってみたり、
連れて行ったら連れて行ったで、
なぜか、稼ぎのいい弟にビンボーな私が気前よくそのお会計までをも一手に引き受け、
さらにそうやって、姉に びた一文払わぬヤロウが、
その後そしらぬ顔で得意げにその店をかわいこちゃんとのデートに使う、
なんて図式ができあがっても
そんなことが腹立ち紛れにどこかうれしかったりするのよね・・
ほんと、どこまでもお人よしのバカね。
でも結局、そのバカさゆえにそのくらいしか
弟の上に立てることってなかったのよね。
きっと、おねえちゃん、認めてもらいたかったのね。
って、これ、ちっとも過去形じゃなくって
現在にも続いてるんだけど。
弟が結婚すると決まったとき、
すでに三十路に突入していた私は、
あたまもわるいし、とろいし、だらしがないし、
いきおくれだし、何の才能もないしで、
彼の選んだ利口なお嫁さんやそのお家の人たちに対して
私という姉の存在が彼にとって恥ずかしいのではなかろうかと感じていて、
ちゃんとしなくちゃーって、すっごく思ってて。
結婚式の日。
式の最中も、笑顔はこぼれても涙がこぼれるようなことはなく、
あら、意外と平気なものね、なんて思っていたのだけれど。
思いもよらぬかたちでその時はやってきて。
それは披露宴会場の親族席にわいわいと着席し、
メッセージカードになっている席札を不用意に手に取り開いたときのこと。
そこには
見慣れた弟の字で、こう書かれてた。
『 趣味の合う、自慢の姉です。
これからもよろしくおねがいします。』
それを見た私は、
ざわざわと楽しそうに会場に入ってくるお客さんをよそに
ひとりで涙が溢れてとまらなくてとまらなくて。
自慢の姉。
この言葉に私がどんだけ救われたことか。
弟がわが家からいなくなって、
私がどんなにイカしたものを買ってこようとも
私の部屋からそれらのものが消えることはなくなったけど、
結局そうやって消えていくものは、
私の部屋から漏れ聞こえる音楽や
私の格好に常に目をつけて、
あれいいな、と思っていたからこそのことで、
それのなくなった時のなんと張り合いのなかったこと。
って今はもう慣れたけどね。
それにしても、わたしの選んだ洗練された男の中の男な傘、
明らかに私が選んだってわかってるでしょうに
相変わらず、なんのコメントもなしだわ。
気に入ったに違いないけどね。
おたんじょうび、おめでとう。
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