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大統領選で例年になく物議を醸しだしているアメリカだが、その根本的な問題は言わずと知れたトランプ旋風だ。しかるにこのような輩が跳梁跋扈する背景は、現代アメリカの根深いやんだ経済構造にある。
オバマ政権と大企業との関係は常にピリピリしていたが、政権の最終年にあたる今年に入って悪化し、誰の目にも明らかな戦いに発展しつつある。
ジャック・ルー財務長官は4月4日、新たな「インバージョン」対策を発表した。インバージョンとは、米国企業が米国の課税の網を逃れるために、国籍を買収先の企業のそれに変えようとする企業買収のことだ。
その2日後、米国の大手製薬会社ファイザーは、アイルランドのアラガンを1600億ドルで買収する計画を撤回した。実現していれば史上3番目に大きな企業買収になったこの計画は、ファイザーの税法上の本籍をダブリンに移すことが前提になっていた。
米国の取締役たちとアラガンの投資家たちからは怨嗟の声が上がった。アラガンの投資家は、財務省の発表を受けて同社株が下落し、48時間で130億ドルも失った。欧州の多国籍企業も、米国の争いのとばっちりを食うかもしれないと恐れおののいた。
このケンカは全員に非があるように見える。まず、オバマ政権が気まぐれなこと、共和党のエスタブリッシュメント(支配階級)が「米国籍を捨てる企業の代弁者になるべきだ」と考えるほど世間に疎くなっていることが明らかになった。
また、ファイザーのような立派な企業が財務の改善に取りつかれた狡猾なM&A中毒になってしまったこと、税制が30年も時代遅れでグローバル化の時代にそぐわないことが露呈した。
そして政治システムの党派性が強すぎるために改革ができないことが浮き彫りになった――今回のケースでは、腹の中では誰もが、しなければならないことについて同意しているにもかかわらず、だ。
(The Economist 4.13)
搾り取られ続けるだけの庶民層とは異なり米国の大手企業はこぞって合法的脱税政策に専念している。上記の実態もその一つだが、それ以上に注目すべきはこの一週間世界を騒然とさせているパナマ文書問題で発覚した実態であろう。
いわゆるタックスヘイブンと呼ばれている北中米の小国を利用して世界中の大企業が巨額な脱税政策をこれまで長期間にわたり享受してきたからだ。
今回はその仔細を検証してみたい。
パナマの法律事務所モサック・フォンセカから漏洩した機密ファイルが、世界を震撼させている。「パナマ文書」と呼ばれるこの文書は、タックスヘイブン(租税回避地)であるパナマで税務処理を行なってきた「モサック・フォンセカ」が過去40年にわたって扱ってきた膨大な税務情報だ。
南ドイツ新聞が入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が4月3日に発表したところによると、そのデータ量は2.6テラバイト、1万4000の金融機関とそのクライアント21万4500社の税務情報が記載されているという。ウィキリークスやスノーデンのファイルより質量ともにはるかに大きく、インパクトも強烈だ。
タックスヘイブンというと、実態のないペーパーカンパニーだと思う人が多いだろうが、私はその本拠地として有名なケイマン諸島に行ったことがある。1995年にインターネット上で営業していた銀行が姿をくらまし、その所在地がケイマンということになっていたので取材したのだ。
広さは淡路島ぐらいで、空港のあたりは椰子の木しかない熱帯の島なのだが、高速道路で中心部に入ると、風景が一変する。高層ビルが林立し、それもシティバンクやバークレーズなど、世界の一流銀行ばかり。問題のネット銀行も堂々たる社屋があったが、無人だった。
その銀行に預金をだまし取られた企業の北米本社もケイマン諸島にあったので、たずねてみた。たしかにそのビルは存在し、受付に聞くと会社もそこに登記されている。だが、調べてみると3階建てぐらいのビルに1500社も入居している。それも多くは北米本社とか世界本社としてケイマンで法人税(ほぼゼロ)を払っているが、従業員は受付しかいない。
一応ケイマンにも大蔵省はあるのだが、日本の税務署より小さな建物で、スタッフも数十人。問題の企業についての税務資料を出してくれというと、出てきたのは10ページぐらいの簡単な財務資料だけで、ここ10年の売り上げや利益ぐらいしか書いてない。
税率は実質ゼロなので、財務内容を知る必要がないのだ。それでもケイマンは豊かだ。これだけ多くの銀行があれば、彼らの落とす金だけで小さな島は十分やっていける。一応主権国家なので、他国がケイマンの税率に介入できない。
こんな小さな島に数千の「プライベートバンク」と称する金融機関があるが、その財務内容は "CONFIDENTIAL"としか書いてない。電話番号はあるが、電話しても「顧客の秘密を守ることが当社の使命だ」としか答えない。
不可解なのは、世界の企業や大富豪が、こんな小さな島の電話しかない「銀行」に何億ドルも預金するのはなぜかということだ。
その答は、現地の弁護士が教えてくれた。「実際にはそんな銀行は存在しない。キャッシュもケイマンにはないんだよ」。実際の取引が行なわれているのは、ニューヨークのウォール街とロンドンのシティのコンピューターネットワークで、「デリバティブ」と称する金融商品でケイマンの証券のようにみせているのだ。
だからケイマンの金融機関の経営者にも、シティの銀行を退職した貴族や大蔵省OBなど、シティの関係者が多い。もとはイギリスの植民地だったので当然だが、正体不明の銀行の多くはシティのダミー会社であり、プーチンや習近平の親族の資産も、実際には英米の投資銀行にあるのだ。
タックスヘイブン自体は違法ではないが、アップルの海外法人がこういう仕組みを利用して利益の1.8%しか納税していないことが議会で批判を浴びた。また、こういう銀行に預けられるのは犯罪や汚職などによって得られた資金のマネーロンダリング(資金洗浄)であることが多い。
アメリカ政府も2001年の9・11の後、ブッシュ大統領がアルカイダの資金が隠されているという理由でケイマン諸島の銀行を摘発したが、失敗に終わった。タックスヘイブンの実態はコンピューターネットワークであり、最近では匿名の「ビットコイン」のような仮想通貨を使えば、タックスヘイブンも必要ない。
世界の金融資産の1割は、こういうタックスヘイブンに隠された「地下経済」にあると推定されている。その最大の原因は、法人税を利益に課税した上に、その残りの配当にも所得税を課税する二重課税だからであり、法人税を廃止すれば租税回避はかなり減るだろう。
タックスヘイブンが麻薬の売買や汚職の蓄財に使われていることも事実だが、問題はそういう犯罪であって租税回避ではない。公共サービスを受けている人が税を負担しないと、財政が支えられなくなるが、これを警察や税務署が摘発するのは限界がある。
(JBPESS 4.8 池田 信夫)
明日に続く
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億万長者は増えている
日本社会に厳然として存在する超「格差」を、明確に指し示すデータがある。
仏大手経営コンサルティング会社キャップジェミニ社の「ワールド・ウェルス・レポート」によれば、'11年の日本で100万ドル(約7800万円)以上の投資可能資産を保有する富裕層は約182万2000人。日本人の約71人に一人が大金持ちなのだ。
右のグラフを見れば一目瞭然だが、'02年以降、リーマンショックの発生した'08年を除いて、毎年、新しい"億万長者"が生まれている。
「5億円以上の金融資産を持っている富裕層を『ビリオネア』と呼んでいますが、'09年に2万6326人だったのが、'11年は3万4879人と増えています。その多くは医療法人や弁護士事務所を経営している。代々の資産を受け継いで、それを大きく殖やしている方も多いですね。
彼らのほぼ9割が何かしらの不動産を保有していると考えられます。そのうち約10%がマンションオーナー。マンションといっても一棟丸々保有していて収益性が高いため、富が富を生み出すのです」(船井総合研究所・小林昇太郎氏)









