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摂氏34度。不快指数95%と駅前のインフォメーションボードが表示している。
今日も15センチ超のサンダルを履いた小麦色の女の子たちは、スクランブル交差点を
さっそうと闊歩していた。美白系やローファーのミュール派が増えたとは言え、まだまだ
ここ渋谷は褐色厚底天国だ。
俺はハチ公前スクランブル交差点付近で彼女たちの流れを観察していた。きのうは少し
も気にならなかった、血眼になって女の子を追いかける他社のスカウトマンたちの姿が大
勢目についた。俺だって後れを取るわけにはいかない。どんな辱めをうけても耐え忍んで
スカウトマシーンに成りきると心に誓ったのだから。
カリスマショップデパート前では夏休みを利用した新製品アイスクリームの試食キャン
ペーンを行っていた。若い女の子たちは各々しゃがみ込んだり、立話をしたりしながら、
おいしそうにアイスクリームを口へ運んでいる。一見するとより取り見取りのおいしい光
景ではあるが、デパートエントランス附近でのスカウトはタブーだ。どうも暗黙の了解が
あるらしい。
あきらめて彼女たちがこの場から離れてすぐのタイミングを狙ってもみたが、歩きなが
らのスカウトでは無視される可能性が高い。運良く信号待ちで立ち止まっていたり、夢中
でショップのディスプレイを眺めている子たちにターゲットを絞るのが賢い選択に思え
た。
銀茶髪でグラマラスなキャミソール&ショートパンツのふたり組がデパート前の赤信号
で立ち止まった。すぐに俺はふたりの隣へ割り込んだ。5秒間躊躇ってから声を発した。
「すみません、モデルの仕事をしてみませんか?」
俺がそう言い終わると同時に信号が青に変わった。
「いいです!」
彼女たちは指先でNGサインを作りながら足早に歩き出した。
「すみませんでした」
いまいちしつこく追いかける気にはなれない程度の女の子たちだった。俺は迷うことな
く交差点を後戻りする。
次の信号機のタイミングを待ちながら辺りを見廻してみと、向かい側のショップ前で、
店先に並んだ夏物セール品を夢中で物色しているふたり組が目に入ってきた。ここからで
は横顔しか見えないが、右側にいるスレンダーなミニスカート少女の後ろ姿からは可愛い
Aランクの笑顔が想像できる。信号が変わるなり俺は一目散に走り出した。
第一声は何にしようか?もっとインパクトがある台詞はないか? 気がつくとターゲッ
トはすでに俺の目の前にいた。考えている暇はない。
「すみません。モデルの仕事をやってみませんか?」
俺は無意識のうちにミニスカート姿の少女に声をかけていた。ハッとして振り向いた少
顔は予想通りのAランク。ところが隣にいる友達がムッとして俺を睨みつけている。
「ちょっとあなた、何ですか?モデルなんて興味ないですから!」
友達は捨てぜりふを吐きながら怒った様子で店内に駆け込んだ。
「何だブス女!べつに君に言ったわけじゃない!そもそも君の顔にはピントさえ合ってい
なかったさ」
俺が独り言を呟いている僅かなすきにミニスカート少女も店内に消えてまった。
「グループの場合は間違っても美人の方に声を掛けないこと」
気付いてからでは遅かった。俺は中島が作った基本マニュアルをすっかり忘れていたの
だ。
俺が人目もはばからず地団駄踏んで悔しがっていると、誰かに肩を小突かれた。
「おい!さっきからなんだ。ひとの縄張りで下手くそなキャッチをやられたら商売になら
ないぞ。さっさと他へ行ってくれないか」
小柄な渋谷系茶髪ロン毛にアロハシャツの男がニヤついている。
「おれのこと?」
俺は戸惑いながら自分に人さし指を向けてみた。
「そうだよ。なんの勧誘か知らんけど、おれのスカウトの邪魔はしないでくれ。背がでか
くて目立つあんたがさっきからうろついているもんだから、女の子が寄りつきゃしない」
「ちょっと待った!おれはキャッチじゃない。まあ新人みたいなものだから、さぞかし下
手に映るかも知れないが、こう見えても芸能プロダクションのスカウトマンなんだ。それ
にきみの邪魔をするつもりもない」
「ふん、そいつは悪かったな。まあ仲良くやろうぜ。おれたちは同業者みたいなもんだか
らな。おれはシブヤのトシ。この場所で5年もスカウトやってる」
「おれはインタープロの山岸ジュンだ」
「ねえちょっと!ちょっと待って!そう彼女。彼女だよ。ほら!落とし物。いまハンカチ
落しただろう?」
いきなり呼び止められた女子大生らしき女の子は立ち止まり、さっぱり意味が分からな
いといった様子で困惑している。
「じゃな!これがおれのやり方だ。あんたもせいぜい腕磨いてがんばれよ」
シブヤのトシだって?ハンカチのトシだろ?おそらくマムシが獲物に食いつくより素早
いタイミングだった。落とし物を偽って声を掛ける手段には失笑するが、彼が呼び止めた
その直後、僅かな会話を交わしただけなのに、あれほど自然に楽しそうな女の子の笑顔を
引きだせるとは。トシの高度なテクニックには恐れ入ってしまう。
正午を過ぎたあたりから急に街の流れが変わった。道行くひとの動きがそわそわし始め
る。誰もが待ち合わせをしていたように、ランチタイムのレストランやカフェ、ファース
トフード店へと吸い込まれていく。人気ハンバーガーショップのカウンターにも大勢の少
女たちの後ろ姿が並んでいた。
すでに俺は13組以上の女の子たちにふられていた。もちろん収穫はゼロだった。
強い日差しと見えない紫外線が皮膚の奥深くまで侵食してくるような気がした。自律神
経の機能が麻痺して、身体の自由を奪われた俺は思わず道端にしゃがみ込んでしまう。さ
らにひどい頭痛と吐き気が襲いかかる始末。運良く日陰になっていたセンターの路地裏に
あるアイスクリームショップのベンチに非難した。
俺はスカウトして振られた述べ29人のことを考えていた。今日という今日はあらゆる
プライドをかなぐり捨てて無差別に声を掛けた。すべてのターゲットに対して誠意をもっ
て優しく接したつもりだ。それなのになぜ?まだ慣れないせいで少しのミスはあったとは
いえ、まさか全員に振られるとは思わなかった。アイドル五人姫とはほど遠いレベルの子
からも無視されたのだ。やっぱり女の子のことは分からない。あの日からずっと。
「久美子ちゃん、ゆかりから聞いたよ。中絶したって。ねえ、どうして何も言ってくれな
かったの?今さらだって思われるかもしれないけど、おれは今でも久美子が好きだよ。久
美子のためならどんな償いだってできる。ずっと久美子のことを守ってあげたいんだ」
「ジュンちゃん、なんか勘違いしてる」
「どういうこと?」
「女の子はやさしいだけじゃダメなんだよ。やさしさだけで傷ついた女の子は救えないと
思う。それじゃ本気でひとを好きになることもできないよね」
7年前に久美子から言われた言葉の意味が未だに分からない。俺の考え方がおかしいの
だろうか。一生かかっても女の子の気持ちは理解できないような気がした。俺の中の異性
レベルはせいぜい中学2年生止まりなのだ、きっと。
俺はあのレイプ事件から少しも大人になっていない。
ケイタイが鳴った。
ーつづくー
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かなり面白いv
ていうか うちみたいなお子様が読んでいいのか? レベル高いよ((笑
今後の展開も期待してるべv うちも最近更新してないな;;
2007/10/21(日) 午後 5:03 [ kir*ri*186 ]
すご!いつも読んでてすごいと思うよ!!傑作!
2007/10/21(日) 午後 7:28
さくら、ありがとうー☆
お子様だなんて・・これからも読みに来てねっ
2007/10/21(日) 午後 9:04
あゆみ、ありがとう☆
ぼくも遊びに行くねっ
2007/10/21(日) 午後 9:06
まぢいつもすごいねっ
なンか…まぢ小説家だよねっ?!
けえさくっ
2007/10/24(水) 午前 0:48
媛李さん、ありがとうっ☆
2007/10/24(水) 午後 6:19
遅くなってごめんね!!
今回もすぅぅぅぅぅぅごく良かったよ!!
次も楽しみにしてるね☆
2007/10/27(土) 午後 1:07
ぅちぃありがとう☆
更新したら、また来てねっ
2007/10/29(月) 午後 9:12
遅くなってすいません(>人<;)・゚・。
すっごくおもしろくなって着てますね♪
続きが楽しみですo(>▽<)彡⌒☆
2007/11/11(日) 午後 0:38
紀希さんありがとう☆
ぼくも遅くなってるけど近いうちに更新しますw
2007/11/11(日) 午後 3:53